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2026.04.08 NEW

日経平均株価、2,878円高 米・イラン停戦協議を楽観視できない二つの理由 野村證券・岡崎康平

日経平均株価、2,878円高 米・イラン停戦協議を楽観視できない二つの理由 野村證券・岡崎康平のイメージ

撮影/タナカヨシトモ(人物)

米国とイランの間で日本時間2026年4月8日、停戦合意が明らかになりました。8日の東京株式市場では、この停戦合意を受けて日経平均株価の上げ幅が一時3,000円に迫る場面もありました。今後、恒久的な停戦は実現し、中東情勢は安定化に向かうのでしょうか。野村證券チーフ・マーケット・エコノミストの岡崎康平が解説します。

日経平均株価、2,878円高 米・イラン停戦協議を楽観視できない二つの理由 野村證券・岡崎康平のイメージ

米国とイランが停戦合意で株高・円高・債券高に

米国のトランプ大統領がイランに求めていた停戦の期限が迫っていましたが、双方は一時停戦で合意し、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物価格は1バレル=90米ドル台まで下落しました。これを受けて、日本株は大きく上昇しました。こうしたマーケットの反応をどのように見ていますか。最近の混乱はいったん収まったと受け止めてよいのでしょうか。

今回の一時停戦合意は、マーケットにとって明るい材料です。中東情勢を巡る不透明感が高まるなか、事態の鎮静化に向けた初めての明確な動きと言えるでしょう。事態の安定化に向けて、一歩前進したと考えてよいと思います。

ただし、一時停戦の期間は2週間です。決して長いとは言えません。日本から中東までの航行には20日以上かかるとされていますし、そもそも海峡が本当に安全かどうかを確認するための時間も必要でしょう。ホルムズ海峡内に取り残された船舶が脱出したり、あるいは近隣で待機していた船舶による物資輸送が可能になったりすることで、一時的に供給制約や原油高の緩和が進む点は前向きに捉えられます。しかし、日本としては、停戦期間がもう少し長いほうが望ましいところです。今後の注目点は、「2週間を超えて停戦が続くかどうか」です。

原油価格が下がったことで、日本のマーケットでは株高、円高、債券高が同時進行する展開となりました。

日本の株式市場では、TOPIX(東証株価指数)ベースで見ると、半導体や半導体製造装置関連銘柄の上昇が目立ちました。グローバルなインフレ圧力と金利上昇が意識されるなか、厳しい局面にあった銘柄群です。中東情勢の不透明感が和らいだことで、買い戻しが進んだのでしょう。

為替市場では、原油価格の低下が円安圧力の緩和につながっています。原油輸入額の減少によって、貿易収支の赤字圧力が弱まったためです。ただし、ここまで進行してきた米ドル高が反転した、という解釈も重要です。原油価格が落ち着いていくなかで、米ドル需要がどこまで減少するのかに注目しています。

原油安と円高米ドル安を受けて、債券市場でも金利低下の動きが見られます。エネルギー価格が下がるほど、今後想定されるエネルギー価格対策(ガソリン補助金や電力・ガス代補助金など)の財政負担も抑制されます。これも債券需給には好材料と言えるでしょう。実際、政策金利の影響が色濃い短めの年限ではなく、長めの年限で国債利回りが低下しています。

中東情勢の今後の見通しと注意点は

中東情勢について、今後の注意すべきポイントは何ですか。

ポイントは2つあります。1つ目は、船舶の航行が円滑に進むかです。船舶の航行に係る保険が提供されたとしても、船員の安全に疑念があれば航行は回復しないでしょう。中東地域が不安定な状況である限り、この点の不確実性は残ります。

2つ目は、イスラエルの動向です。米国が停戦に向けた動きを進める中でも、イスラエルは攻撃を再開するリスクがあります。イスラエルは地理的にイランに近いほか、2026年10月に総選挙を控えています。軍事行動を継続するインセンティブは、米国以上に強いとみるべきです。2週間の停戦期間中に戦闘行為が再開されれば、交渉が打ち切りになるリスクもあります。

停戦期間に入り、米国・イスラエルとイランの恒久的な停戦に向けた交渉はうまくまとまるでしょうか。

米国・イスラエルは、ホルムズ海峡の自由な航行を求めています。一方、イランはホルムズ海峡の管理を強め、通過する船1隻あたり200万米ドルを徴収する意向を示しています。この点については、米国・イスラエルのみならず、中東の産油国であるサウジアラビア、UAE(アラブ首長国連邦)などにも利害が及ぶ点に注意が必要でしょう。中東域内にも交渉複雑化の火種が残っています。

また、イランの核開発を巡る条件も難航するでしょう。米国はイラン核施設の解体を求めているようですが、これはイランが強く抵抗してきた事項です。国際秩序の安定のためにも、核開発を許容するスタンスは諸外国も取りにくく、一筋縄では話が進まない可能性があります。イランに対する制裁解除も同様です。順調に交渉が進む場合でも、2週間を超えて継続協議となる展開が考えられます。

中東情勢が安定化に向かう場合、日本株は59,000円台へ緩やかな回復を予想

今後の日本株の見通しについて教えてください。中東情勢が安定化に向かう場合、日経平均株価は2月の取引時間中に、一時59,000円を突破しましたが、再び高値水準まで回復するでしょうか。

世界的な景気後退懸念や原油の供給途絶といったリスクシナリオが後退したことは、日本株の楽観材料です。ただし、マーケットのボラティリティー(変動率)や不確実性という観点では、懸念も残ります。トランプ政権は2026年11月に中間選挙を控えており、イラン問題を処理したあと、新たな政策に着手する可能性があるためです。グローバル経済を上向かせるような政策ならば望ましいですが、どのような政策が打ち出されるかは未知数です。今後も、トランプ政権の動きに要注意と言えるでしょう。

2026年2月の取引時間中に付けた日経平均株価59,000円台という水準は、PER(株価収益率)がかなり高まった状態にありました。足元で株価が調整しているのは、ある意味では自然なことです。

日本経済に目を向けると、2026年3月に高騰した原油価格の影響が、今後徐々に浸透してくる見込みです。プラスチックや合成繊維といった石油化学製品の値上げが進み、年半ばから後半にかけて、消費者物価の上振れ圧力として存在感を増すとみられます。こうした原材料価格の転嫁それ自体は、企業収益にとって必ずしもマイナスではありませんが、国内景気が価格上昇にひるむことなく持ちこたえられるかどうかには、不透明な面もあります。2026年も高水準の春闘賃上げ率が実現しつつあるため、過度に悲観する必要はないと考えますが、一定の注意は必要でしょう。

企業業績の観点では、2026年5月の決算シーズンに向けて、各社の業績見通しが注目されます。ただ、中東情勢が複雑化するなか、企業も業績見通しの策定に苦慮していることでしょう。たとえ保守的な業績見通しが発表されたとしても、各社の公表資料を丁寧に読み解くことで、異なる景色が見えてくるかもしれません。今回の決算シーズンでは、各社業績への影響を冷静に見極めることを基本スタンスとしたいところです。中東情勢が滞りなく安定化に向かう場合には、日経平均株価が緩やかに59,000円台を回復していくシナリオも、決して無理のあるものではないと思います。

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野村證券 市場戦略リサーチ部 チーフ・マーケット・エコノミスト
岡崎 康平
2009年に野村證券入社。シカゴ大学ハリス公共政策大学院に留学し、Master of Public Policyの学位を取得(2016年)。日本経済担当エコノミスト、内閣府出向、日本経済調査グループ・グループリーダーなどを経て、2024年8月から、市場戦略リサーチ部マクロ・ストラテジーグループにて、チーフ・マーケット・エコノミスト(現職)を務める。日本株投資への含意を念頭に置きながら、日本経済・世界経済の分析を幅広く担当。共著書に『EBPM エビデンスに基づく政策形成の導入と実践』(日本経済新聞社)がある。

※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

 
     
 
     

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