2019.11.25 NEW
VUCAの第一世代である80年代生まれが、会社に縛られずに生きるべき理由とは?
80年代生まれが経験してきた日本の経済構造の大転換。転換後、予測のつかなくなったVUCA時代を、80年代生まれのビジネスパーソンはどう生きていけばよいのだろうか? 前編に引き続き、野村證券株式会社 投資情報部長の西澤隆さんに聞いた。
※VUCA(ブーカ):見通しが立ちにくい現代の不安定なビジネスの状況を表した言葉。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった造語。
バブル崩壊からリーマンショックまでで、大きく転換した世界
バブルが崩壊した1991年からリーマンショックが起こった2008年にかけて、「日本経済の構造は大きく変わった」と西澤さんはいう。
日本経済が右肩上がりだった成長期に幼少時代、日本経済の最大の変革期に学生時代を過ごし、大きく転換した社会に先陣を切って飛び出すことになったのが、80年代生まれだ。
「80年代生まれの人たちの幼少時代にあたる1980年代は、まさに日本経済が右肩上がりに成長してきた最後の時代。1980年に生まれた人が10歳になる1990年はちょうどバブルの最盛期です。1989年から1990年頃の定期預金の金利は6%から7%と、今では考えられないほど高かった。金利7%というのは、銀行に10年お金を預けておくと複利で倍になるという、そんな金利です。80年代の特に前半に生まれた人は、幼少時代にそうした好景気を享受しています。
そして、1991年にはバブルが崩壊。1997年にはいわゆる金融不況が起こり、それまでの日本にはなかったリストラが企業で行われるようになります。とはいえ、企業としても功労者を簡単に解雇できないため、まずは新卒採用を抑えることになる。結果、日本でははじめて就職氷河期と呼ばれる時代を迎えたのです」
以降は、2006年には日本の人口がピークアウトし、2008年にはリーマンショックが起こるなど、1990年から2010年ごろにかけて日本の経済は大きな転換点を迎える。
「80年代生まれの人たちはそうした時代に学生時代を過ごし、従来の経済環境が大きく変化し混乱しているときに新社会人として社会に出ていくことになりました(図)」
80年代生まれは、会社に縛られない時代を生きる第一世代
確かに80年代生まれであれば、学生時代にはじめて「リストラ」という物々しい響きの言葉を聞き、先行きの見えない日本の経済に不安を感じた人も多いだろう。また、就職活動をいくら頑張ってもなかなか就職先が決まらない状況を、「就職難」を知らない親の世代に、なかなか理解されなかったという経験を持つ人もいるはずだ。
「一度でも企業に就職すれば生涯安泰と考えられていた、終身雇用の価値観が強かった時代を以前の世界だとすれば、現在は企業がリストラを行うようになったことで終身雇用の価値観が崩壊した世界です。後者のような世界では、当然ながら個人が企業に頼らない価値観が生まれてきます。たとえばフリーランスという働き方を選ぶ人が増えたり、個人が資金調達をできるクラウドファンディングが登場したり。
企業の中でいえば、従来の価値観を持つ古い時代の人たちのマインドセットはなかなか変えられません。しかし、80年代生まれの人たちはもともと新たな価値観を持って世に出ています。そして日本経済の転換期から10年、20年と経ち、現在はそうした80年代生まれ以降の人がビジネスの現場でも主流になりつつあります。
以前のような『会社の言う通りに働いていれば給料も上がって幸せになれる』という時代には、ある意味では個人がひとつの価値観に縛られてしまうという制約もありました。80年代生まれの人たちは、年功序列や終身雇用といった制約のない時代を生きる第一世代とも言えるのです」と西澤さんは語る。
古い価値観の制約を受けず、社会に出た頃から自らが進むべき道を選択することが当たり前になっているのだ。
勤めている企業だけに頼らず、自分の意思で選択する
続けて西澤さんに、80年代生まれはこれからのVUCA時代をどうやって生きていくべきなのかを聞いた。
「以前なら企業の収益が増えるとその分だけ従業員の所得も上がりましたが、現在では必ずしもそうはなりません。一方で、増収時には企業が株主への配当を増やしたり、自社株買いを増やしたりするケースが一般的になっています。つまり、従来は自分の会社が儲かれば儲かるほどボーナスや賃金でほぼ確実に還元してもらえていたのが、いまや必ずしも還元してもらえるとは限らない時代になっている。
ですから個人としては、より正当に能力を評価してくれる企業への転職を検討したり、あるいは資産を運用したりするなどして、労働とお金に働かせることをバランスよくやっていくことが大事だと思います。つまり、自分が勤めている企業や投資をしている企業の収益を自分にどう還元させるのか。そうした視点を持ち、現在の経済環境に柔軟に対応していくことが、80年代生まれの人にとって必要なスキルと言えるかもしれません」
不幸な時代に生まれたと嘆くかもしれないが、80年代生まれはまさに、大転換期といえる経済構造の大きな変化を乗り越えてきた第一世代である。これから先の見通しの立たない世界も自らが選択した新たな価値観とともに、VUCA時代の第一人者としてきっと逞しく生き抜けるはずだ。