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金融教育は教科横断、現実的なカリキュラム・マネジメントを 社会科教育の教授が提案

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社会科が専門の大妻女子大学家政学部・澤井陽介教授

どのように金融教育をカリキュラムに取り入れるのか、教育現場では頭を悩ませている先生たちが多いようです。2023年7月に開催された金融広報中央委員会主催の「先生のための金融教育セミナー」で、大妻女子大学家政学部・澤井陽介教授はこう言いました。

「各教科と総合的な学習(探究)の時間を足し算し、その時間の中に金融教育みたいな〇〇教育の視点を入れ込むしかない。たった一つの正解があるわけではなく、工夫の仕方は様々あります。特に教科間の連携が重要になります」

澤井教授は講演「教科『社会科』と視点『金融教育』」を通じて、社会科の観点から金融教育を取り組むための考え方を提案しました。

概念を形成し、概念に関わる言葉や目標を各教科とつなげる

澤井教授の専門は小学校社会科ですが、中学校社会科の先生から「資質・能力の三つの柱(知識・技能、思考・判断・表現、学びに向かう力、人間性など)のうち、『主体的に学習に取り組む態度』をどう社会科で教えればいいのでしょうか?」と相談を受けたことがありました。その悩みは他の教科でも当てはまることでしょう。各教科でできることに限界があることを前提として、澤井教授はいくつかの教科や総合的な学習の時間と連動しながら、態度形成まで、日常生活までつなげる方法があると考えています。

その方法としてまず、課題に関する概念を構想します。国際理解教育であれば国際理解に関わる概念を、福祉教育であれば福祉に関わる概念を構想します。概念は具体的にしていく必要がありますが、先生が自分たちで考え、言葉や目標を追加していくことでより具体的になっていきます。

金融教育であれば、金融経済の仕組みに関わる概念や、生活設計や家計管理に関わる概念などを構想します。『金融教育プログラム-社会の中で生きる力を育む授業とは-」の「学校における金融教育の年齢層別目標 」(金融広報中央委員会制作)を参照しながら言葉や目標を選ぶこともできるでしょう。概念を形成する中で、例えば生活設計や家計管理に関わる概念は家庭科に近いことが分かってきます。その部分を家庭科のカリキュラムに入れ込むことで、既存のカリキュラムの中で金融教育ができます。「どの言葉や目標に目をつけるか、どうやって従来のカリキュラムに入れ込むか、という考え方をすることが現実的だと思います」と澤井教授は言います。

横串にして金融教育をカリキュラムに組み込む

教育課程に基づき、組織的かつ計画的に各学校の教育活動の質の向上を図っていくことを「カリキュラム・マネジメント」と言います。カリキュラム・マネジメントは各学校の教育目標を実現するために、PDCAを回しながら学校の教育プログラムを実践していくことを目指していますが、現場では教科ごとの目標になっているだけだと澤井教授は危惧しています。とは言え、学校現場のレベルで教育目標を変えることは非常に困難です。

一方で、資質・能力の三つの柱に基づいた教育目標に線でつながるような金融教育の目標(資質・能力)を入れ込んでいくことは、各学校で取り組みやすい方法と言えそうです。中学校でも国語科の先生は国語科で、社会科の先生は社会科で、各々の担当教科の中で横串にして金融教育をカリキュラムに組み込んでいけば良いという考え方です。

特段、教科横断のプログラムカレンダーを作る必要はありません。教科ごとに、それぞれの立場で、自分たちの学校が目指す資質・能力をみんなで力を合わせて育てるために、各教科等の資質・能力を軸にカリキュラムを見直すということです。国語科の思考力・判断力・表現力からつなげるとすればこういうこともできる、社会科ではこうしたつながりが考えられるなど、各教科でPDCAを回すイメージです。澤井教授はそれが金融教育の基本だと考えています。

教科横断は互いにウィンウィンになりえる

ただし、金融教育は一つの教科で完結するものではありません。社会科に視点を当てると、生活科にも道徳科にも、総合的な学習の時間にも関わる内容があります。教育課程は教科等で構成されているため、それぞれの教科等の学習指導要領を踏まえ、専門の先生同士で授業イメージを考え、話し合い、理解を深めることが総合的な学習につながっていきます。このように教科横断でカリキュラムをしっかり考えていくことが、金融教育のような〇〇教育では必要なことだと澤井教授は強調しています。

防災教育を例にすると、社会科にも防災学習に関わる内容がありますが、社会科の学びだけでは子どもたちに自然災害がどれだけ脅威なのか、どんなメカニズムなのか、どんな対策ができるかなどを理解することは難しいと言えるでしょう。理科で水の働きを学び、体育科でけがの防止を学ぶことで防災学習に深みが増すなど、教科横断で学ぶことが社会科にとっても効果的な結果となります。このことはどの教科にとっても同じで、相互にウィンウィンの関係になります。金融教育のような○○教育の目的に引っ張られ過ぎずに、各教科らしく学べることから始めるのが現実的だと言えます。

都内のある教育モデル校(公立小学校)では、社会科を軸にしていても、図表を扱う算数科の要素や、文章を扱う国語科の要素など、他の教科の要素が入ることがあります。ある意味、それらは当たり前のことと言えるでしょう。そのため、資質・能力の三つの柱のうち、その教科はどれに傾斜がかかるかを考えることも大事なポイントです。例えば、社会科や理科は「知識及び技能」、国語科や道徳科は「思考力、判断力、表現力等」、体育科や特別活動は「学びに向かう力、人間性等」などといった具合です。

要素の中でも特に、見方、考え方、問い方、追究の視点などは各教科等に共通して重要な要素と言えます。例えば、時間的(歴史的)な視点での問い方であれば、いつから始まったのか、なんで始まったのか、どう変化していくのか、などというものです。

最終的には、子どもたちがそれらの要素を自在に使い、自ら鍛えて豊かにしていくことが理想だと澤井教授は考えています。知識を細分化してつなぎあわせるよりも、子どもたちの中に、各教科を通して見方や考え方などの概念がキーワードとして身につき、そのキーワードを自在に使って物事に問いかけながら成長していくような姿のことです。そうすれば、金融教育などの○○教育も他の教科も、互いにウィンウィンの関係を築けるかもしれません。

文責・野村ホールディングス株式会社 ファイナンシャル・ウェルビーイング室

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