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基礎から学べる行動ファイナンス 第13回 「売りたい気持ちと『リフレーム』」

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野村證券金融工学研究センターの大庭昭彦が投資や資産運用の際に人が陥りがちな「バイアス」に関して解説する「基礎から学べる行動ファイナンス」シリーズ。今回は個人投資家が抱きがちな「いつ売ればよいのか」などといった悩みについて考えます。

個人投資家の「尽きない悩み」

「株価が上がったので売りたい」と考える個人投資家は、世の中にたくさんいるのではないでしょうか。しかし、実際には、「いつ売ればよいのか」「売った後はどうすればよいのか」などと悩みは尽きません。

今回はこういった悩みについて、行動ファイナンスの観点から解決策を考えてみます。

株式指数より優先すべき指標とは

金融資産を持っていると、金融市場の状況を気にしがちです。例えば日本の株式を持っている人の中には、日々、日経平均株価(以下、日経平均)についてのニュースを確認している人も多いでしょう。

日経平均も大切な指標の一つです。しかし、日経平均のニュースを気にするということは、都度、保有している金融資産の時価の変化を、日経平均の変化と比べてしまうことになりがちです。こういったことを続けているとなかなか気が落ち着きません。

しかし、投資する目的・目標(ゴール)を考えると、市場よりもっと優先すべき比較対象があって、ゴールが長期的なものである場合に、この違いは特に重要になります。ここで一つ確認しておくべきなのは、ゴールは将来の具体的なモノやサービスに対する支払いだということです。

そう考えると、比較すべき対象は目標となっているモノやサービスのインフレ指標ということになります。

例えば教育資金であれば教育費、住宅資金なら不動産価格、退職後の資金なら将来の物価水準の予想値などと比較して、期待通りの資産成長を得られているかどうかを考えるのが合理的といえます。

行動ファイナンスの観点で考えると「相場と比較するというフレームから、ゴールと比較するというフレームに『リフレーム』する」のがよいということになります。

ゴールへのリフレームは投資期間のリフレームと相性がよい

この方法の利点は、本当の目標を意識することにつながるのに加え、長期的なゴールでは、第8回で説明した「投資期間のリフレーム」と相性がよいことです。

そう考えると、「売った方がよいタイミング」というのは、それぞれのゴールに対して定めた目標金額を達成しているタイミングか、お金を使う時が迫っているタイミングということになります。資金に過不足があれば、優先順位の異なる他のゴールとの間で、投資金額を調整してみてもよいでしょう。

ただ、「ゴールベースのリフレーム」の考え方はシンプルですが、自分だけで判断し、実行、継続することが難しいこともわかっています。

家族や信頼できる専門家に情報を共有し、目標通りに実行できているかどうかを複数の人の視点で定期的に確認しながら続けるのも、有効な方法の一つといえそうです。

【大庭 昭彦】

野村證券株式会社金融工学研究センター エグゼクティブディレクター、CMA、証券アナリストジャーナル編集委員、慶應義塾大学客員研究員、投資信託協会研究会客員。東京大学計数工学科にて、脳の数理理論「ニューラルネットワーク」研究の世界的権威である甘利俊一教授に師事し、修士課程では「ネットワーク理論」を研究。大学卒業後、1991年に株式会社野村総合研究所へ入社。米国サンフランシスコの投資工学研究所などを経て、1998年に野村證券株式会社金融経済研究所に転籍、現在に至るまで、主にファイナンスに関わる著作を継続して執筆している。2000年、証券アナリストジャーナル賞受賞。

本稿は、野村證券株式会社社員の研究結果をまとめたものであり、投資勧誘を目的として作成したものではございません。2024年1月現在の情報に基づいております。

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