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基礎から学べる行動ファイナンス 第1回「合理性と心理バイアス」

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「基礎から学べる行動ファイナンス」シリーズでは、野村證券金融工学研究センターの大庭昭彦が、投資や資産運用の際に人が陥りがちな「バイアス」に関して連載形式で解説していきます。第1回目では、心理学者らの研究の中でわかってきた代表的な12のバイアスについて考えてみます。

「行動ファイナンス」とは?

「人はお金に関して合理的であろうとするが、合理的ではない行動も行ってしまうものである」。

人がお金に関して合理的でない行動を行ってしまうことについて深く研究した心理学者で、米プリンストン大名誉教授のダニエル・カーネマン氏が2002年にノーベル賞を受賞しました。 カーネマン氏の研究は金融業界などを中心に、世間で盛んに話題に上るようになった「行動ファイナンス」の発端となったものです。

カーネマン氏のノーベル賞受賞後にも、多くの心理学者らが「人が持つ心理的なバイアス(偏り)が、合理的とは言えない投資行動を起こす」ことの真相を追究してきました。

強力な「12の心理バイアス」

心理学者らの研究の中でわかってきた代表的な12のバイアス〔図表〕を見ても、いかにそのバイアスが多様かつ強力であるかを実感できるのではないでしょうか。

〔図表〕 代表的な12の心理バイアスと関連する投資行動

1. 自信過剰:自分の短期的な選択に自信を持ち過ぎて過剰に取引する。
2. 後悔回避:後悔するのが嫌で損切りできない。
3. 損失回避:利益と損失では同じ金額でも損失の方が大きく感じる。
4. メンタルアカウント:お金に色を付けてみてしまう。
5. 主観確率:めったに起こらないことをもっと起こると感じる。
6. 決定麻痺:選択の際に多すぎる情報を与えられると決定できなくなってしまう。
7. 群集心理:自分の投資判断なのに、周囲の多数意見に同調してしまう。
8. 保有効果:自分が保有しているものに高い価値を感じて、売りにくくなる。
9. アンカリング:判断に無関係な数字に影響を受けてしまう。「高値覚え」の原因。
10. 認知的不協和:自分の判断に反する事実から目をそらし、都合の良い思い込みを続ける。
11. 現状維持:合理的には変えたほうが良くても、現状維持を選んでしまう。
12. 双曲割引:短期的な利益を過剰に求めてしまう。ダイエットが難しい理由の一つ。
  • 出所:野村證券金融工学研究センター

「人がお金に対して合理的でない行動をとって損をすることがあるなら、投資教育などの機会を通じてそのことを伝えれば、損をしなくなるだろう」という考えから、行動ファイナンスはメディアで繰り返し取り上げられ、一般向けの解説本も数多く出版されました。

しかし、カーネマン氏の受賞から約20年が経過した今でも、多くの個人投資家の行動は合理的といえる水準には達していないという、不思議な状況が続いています(大庭昭彦「投資教育と投資推進に関する研究の新展開」証券アナリストジャーナル2022年7月)。

「2重過程モデル」とは

今も不思議な状況が続く理由として考えられているのが、「普通の人」の判断には「熟慮して行う判断」と「直感的な判断」の2種類があるという「2重過程モデル」です。

そして、前述したバイアスのうちの多くが、2種類の判断のうち「直感的な判断」によって引き起こされているとされています。

結局、人は「熟慮して行う判断」のために知識をいくら蓄えても、直感的で非合理な判断からは逃れられないというわけです。 本連載では新しい知見を踏まえて、「普通の投資家」も「常に熟慮している投資家」と同じような投資行動を取れるようにするためにはどうすればよいかについての、考え方や手法などを紹介したいと思います。

(KINZAI Financial Plan 2023年1月号掲載の記事を再編集したものです)

本稿は、野村證券株式会社社員の研究結果をまとめたものであり、投資勧誘を目的として作成したものではございません。2023年1月現在の情報に基づいております。

大庭 昭彦

野村證券株式会社金融工学研究センター エグゼクティブディレクター、CMA、証券アナリストジャーナル編集委員、慶應義塾大学客員研究員、投資信託協会研究会客員。東京大学計数工学科にて、脳の数理理論「ニューラルネットワーク」研究の世界的権威である甘利俊一教授に師事し、修士課程では「ネットワーク理論」を研究。大学卒業後、1991年に株式会社野村総合研究所へ入社。米国サンフランシスコの投資工学研究所などを経て、1998年に野村證券株式会社金融経済研究所に転籍、現在に至るまで、主にファイナンスに関わる著作を継続して執筆している。2000年、証券アナリストジャーナル賞受賞。

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