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家庭における金融教育の意義とは何か?

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家庭でお金の話をすることをはばかられる傾向もある日本において、若い人や子供たちに金融の正しい知識を得てもらうため、家庭での金融教育において大切なことは何か。複数の調査結果などを基に、野村証券金融工学研究センターの大庭昭彦が検証、解説します。

金融教育「実際に受けた人」米国を大きく下回る

金融広報中央委員会が2022年7月に更新した「金融リテラシー調査2022年」(以下、リテラシー調査)によれば、金融教育の重要さを支持する、次のような主要結果が継続して確認されています。

 ■金融教育を受けた人の方が金融リテラシー(※)が高い。

 ■金融リテラシーが高い人の方がリスク資産投資に参加しやすい。

 ■金融教育を受けた人の方が望ましい金融行動をとりやすい。

一方で、「金融教育を受けた人」(=「学校、大学、勤務先で受ける機会があり、実際に受けた人」)の日本人全体に対する割合は7.1%と高くない水準です。

米国の20%などと比較して低いことが大きな課題とされています。

ここで興味深いのは同調査の母集団でも、「家庭で」金融教育を受けたと認識している人は18.4%と2.5倍にも上ることです。

「家族でお金の話」はばかられる日本

古くから日本では、家族にお金の話をすることをはばかられている面があり「親が教えるべきことは何か、学校などには何を期待すべきか」を考えるのは重要な課題といえます。

2023年7月に野村アセットマネジメントの資産運用研究所は「金融教育に関する意識調査2023」の結果を公開しました。

この調査では、リテラシー調査を踏まえた全体の結果に加え、金融教育を受ける意向や受けた経験、チャネルなどの具体的な方策、「家庭での金融教育」の傾向などなどについての興味深い調査結果が示されています。

例えば、家庭で「(金融について)教えたことがある」人は全体の45%となっており、リテラシー調査で「家庭で金融教育を受けた」と認識していた18.4%の2倍以上に上りました。

親目線では、すでに半分近くの家庭で金融教育が行われていることになります。次に、再び親目線で「(金融について)教えたいことがある」と答えた人は63%に達しました。教えたいのに教えられない人がいるからだとみられます。

具体的に、親が教えたい項目としては「お金の大切さ」「お金の管理方法」「貯蓄の意義」が多く、投資や資産形成に関するものは少数でした。これは、親が子供に身に付けさせたいお金に関する基本的なリテラシー、そしてその次に教えたいリテラシーと、「段階」が存在することがわかります。

つまり、お金を大事にしていない、お金の管理ができないという段階で、子どもたちに具体的な投資の方法まで教えても仕方がないということでしょう。

大切なのは「金融を教えられる親を増やす」こと

一方、「教えたいことがある」人とは反対に、「教えたいことがない」人が37%もいることがわかりました。教えられない理由は主に「知識がない」、「教えることが分からない」などでした。

これらの結果から、「親世代に対する金融教育」、特に「教え方の教育」は、お金について子どもにきちんと教えられる親を増やし、結果として高い金融リテラシーを持つ大人を増やすために重要ということが見て取れます。

金融教育に関する「行動ファイナンス」の研究では、お金の教育において合理的な知識を「知らせるだけ」または「押し付けるだけ」というパターナリズムに基づく方法は成功しないと示されています(Elliott 他[2010])。

誰もがいつでも触れることができるインターネット上にある知識よりも、信頼している人が必要な時に伝えてくれる話の方が心に残る、といったことがあるでしょう。

だとすれば、やはり子どもたちと信頼関係でつながっている両親や祖父母らに対する家庭での「教え方」の教育こそが重要です。そして、これを基礎として学校や社会での金融教育が広がって、結果として子ども世代の金融リテラシーを向上させ、しっかりと資産形成について考え、実践できる大人を増やすことにつながるのではないでしょうか。

※ 金融リテラシーは正誤問題の正答率で測っています。

(野村ホールディングスウェブサイト掲載の家庭における金融教育の意義を再編集したものです)

[参考文献]
金融広報中央委員会[2022]「金融リテラシー調査2022年」
野村アセットマネジメント[2023]「金融教育に関する意識調査2023」、2023年7月
大庭昭彦[2017], 「行動ファイナンスと金融リテラシー」、証券アナリストジャーナル、2017年12月
大庭昭彦[2022], 「投資教育と投資推進に関する研究の新展開」、証券アナリストジャーナル、2022年7月
Elliott, A., P. Dolan, I. Vlaev, C. Adriaenssens and R. Metcalf [2010] “Transforming Financial Behaviour: developing interventions that build financial capability,” CFEB Consumer Research Report 01.

大庭 昭彦

野村證券株式会社金融工学研究センター エグゼクティブディレクター、CMA、証券アナリストジャーナル編集委員、慶應義塾大学客員研究員、投資信託協会研究会客員。東京大学計数工学科にて、脳の数理理論「ニューラルネットワーク」研究の世界的権威である甘利俊一教授に師事し、修士課程では「ネットワーク理論」を研究。大学卒業後、1991年に株式会社野村総合研究所へ入社。米国サンフランシスコの投資工学研究所などを経て、1998年に野村證券株式会社金融経済研究所に転籍、現在に至るまで、主にファイナンスに関わる著作を継続して執筆している。2000年、証券アナリストジャーナル賞受賞。

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