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【後編】金融広報中央委員会「15 歳のお金とくらしに関する知識・行動調査 2023 年」から読み解く 若者世代の金融リテラシー(お金の知識・判断力)

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金融広報中央委員会は2024年1月26日、「15歳のお金とくらしに関する知識・行動調査(2023年)」の調査結果を公表しました。前編では、調査結果から見える若者世代の像について確認をしました。後編では調査を実施した金融広報中央委員会の事務局企画役 金融教育プラザリーダーの河合真児さんに、本調査についてお話を伺います。

金融広報中央委員会に聞く、若者世代の金融リテラシー

-2022年の金融リテラシー調査では、18歳以上が対象でした。世代間の違いや15歳世代の特徴など、特に注目する結果があれば教えてください。

本調査では、2022年の金融リテラシー調査といくつか同じ設問を採用しました。例えば、単利・複利の設問では、本調査では単利のスコアが63.0%であった一方、複利は36.4%でした。この結果は、金融リテラシー調査の18~29歳のスコア(単利:53.9%、複利:31.3%)を上回っており、「学んだ」記憶が新鮮という側面もあると思いますが、学校での金融経済教育が進展している影響も十分に考えられる結果です。
15歳世代については、勤労や貯蓄への意識が高く、堅実さが高いことにも注目しました。例えば、「お金はコツコツ働いて貯めるものである。」との設問に「そう思う」との回答が80%を超えています。2005~15年に実施した「子どものくらしとお金に関する調査」の結果と比較しても、こうした傾向には変化がありません。

今回の調査では対象世代のトラブル回避ニーズの高さや、損失回避傾向が強い年代と分析されています。投資や運用も一つの手段として含まれることになる「資産形成」について、金融教育の中でどのようなメッセージを伝えるべきとお考えでしょうか。

今回の調査における「トラブル回避」について、トラブルの定義をしていないのではっきりはしませんが、高校1年生なので、運用や投資の失敗・損失がトラブルとしてさほど意識されていたわけではないように思います。ただ、別の設問(Q12)の投資実行意欲に関する設問への回答をみると、「投資する」の割合は低くなっています(17.5%)。金融リテラシー調査2022年の全体や18~29歳に比べても低く、この世代の損失回避傾向が強いことが見て取れます。

「資産形成」について、いつから教えれば良いのかという点については、個人的にはやはり「高校」が重要な時期だと考えます。高校での学びでは、投資や資産運用の具体的な方法よりも、「資産形成をすることの意味」の理解が重要だと思います。

学校・先生向け金融教育の学びのサポート

-夏の「先生のための金融教育セミナー」でも話題になっていましたが、学校教育の中に金融教育を組み合わせていくという考え方があると思います。今回の「学んだこと」と「教えてほしいこと」の回答割合差から見える、学校教育での金融教育の実施への示唆があればお願いします。

今回の調査結果では、経済政策、社会などの「マクロの学び」と、家計管理や生活設計を含む「ミクロの学び」とのバランスがとれた金融教育が必要である点が課題として浮き彫りとなったと思います。高校受験もあり、中学校でマクロの学びが中心になるのは仕方がない部分もあるかもしれません。授業時間数に制約がある中で、ミクロの学びをしっかりと展開するのは難しい面はありますが、教科間の連携を図りながら、マクロの学びの中にミクロの学びをうまく組み込みながら効果的・効率的な金融教育が展開できることが重要であると考えています。当委員会では、実践事例などの提供を通じて先生へのサポートに力を入れています。

-知るぽるとでは調査結果と並んで「15歳のお金とくらしの知識・行動に関するクイズ」が公開されています。クイズの狙いや想定している活用方法がありましたら教えてください。

学校での金融教育の企画・実践においては、生徒の金融リテラシーの現状を把握することが重要です。そうした観点から、本調査の一部を用いた5問のミニ・クイズ「15歳のお金とくらしの知識・行動に関するクイズ」を知るぽるとに掲載し、生徒自身も手軽に、金融リテラシーにおける自分の強み・弱みを把握できるようにしました。さらに、本格的に生徒の金融リテラシーの現状を把握したい先生・学校のために、本調査の調査票を集計ツールとともに用意しています。当委員会宛にメールで申請をいただければ、ダウンロードできるので先生方にもぜひご活用いただきたいと考えています。

中学校から高校へ 学校間・教科間を接続した立体的な金融教育の展開

-マクロの学びの中にミクロの学びを組み込むというお話をうかがいました。中学校と高校での学びの接続とその具体的な内容ついてご意見をお聞きしたいと思います。

中学校までは、「リスクとリターンの関係」や「自己責任」の概念について学び、理解する段階ですが、高校になると、家計を管理し、さまざまなライフイベントやリスクなどを踏まえたライフプランを考える中で、リスク許容度に応じた資産形成を学んでいくことになります。この点は、学習指導要領(家庭科)の「資産形成の視点に触れる」ということにも表れていると思います。中学までの平面的な理解を、立体的にする学びが高校では求められているのではないでしょうか。

今回、個人的に注目していたアンケート結果に、「寄付」と「株式投資の社会的位置づけ」に関するもの(Q13)があります。「困っている人がいれば寄付をしたい」(32.7%)、「株式投資は社会の発展にもつながる」(37.4%)となりました。15歳世代のお金の貯金傾向は高く、その貯めたお金の使い方に対する考え方を聞いたわけですが、自分のお金の使い方次第で、社会や経済発展に役立ちうる、という考え方はまだまだ根付いていない、ということなのだと考えています。成年年齢の引き下げ、選挙権年齢の引き下げなどに見られるように「若い世代が社会参画をする」、すなわち日本社会と経済のステークホルダーになることが求められていますが、18歳になる前である高校時代に、その意識づけをするのも金融経済教育の重要な役割です。学習指導要領(公民科)の中にも、「金融を通した経済活動の活性化について多面的・多角的に考察,構想し,表現すること」との記述があります。このように、高校での「資産形成」に関する学びを含め金融経済教育は、家庭科(ミクロ)、社会科(マクロ)の双方において立体的に進められることで、効果的に金融リテラシーを高めることができると考えます。

すべての年代層に金融教育を。金融経済教育推進機構の取り組みへ

-今回の調査結果では、学校での金融教育の取り組みの進行が見られました。一方で、これまで学校において金融教育を十分に受けられなかったとみられる若手社会人への職域での金融教育の重要性について触れられています。学校と社会の接続について、注力すべきとお考えのことがあれば教えてください。

やはり、学校での金融教育が、金融リテラシー(知識・判断力)として定着し、行動変容に繋がることが大切です。知識は忘れてしまうこともありますが、一度身に付いたリテラシーは長く残ります。金融教育は学校のみで行えばよいというものではなく、ライフステージや経済、社会環境に応じて必要なリテラシーは異なり、社会人になっても職域において金融教育が受けられる環境が整うことが重要であると考えています。当委員会は新たに設立される金融経済教育推進機構へ、その機能が本年8月に移管・継承されますが、機構においても金融リテラシーマップにしたがってすべての年代層に漏れなく金融経済教育が提供されます。こうした取り組みを通じて、社会全体に金融リテラシーの重要性への理解を広めていきたいと思います。

-ありがとうございました。

 

調査結果やインタビューを通じて、金融や経済について、これからの社会を担う若者世代が学んでいくための土台が作られ始めたことを感じます。金融・経済に関する知識や経験は学校で学んで終わりではなく、個人のライフステージとそのプランによって変化します。また、インタビューで触れられていた「一度身に付いたリテラシーは長く残る」ことを意識することも大切であると考えます。そのため、社会全体で学び続けられる環境の整備と提供が急務であるとも言えます。国の政策である「資産運用立国実現プラン」と、国民への金融経済教育の提供機会拡充を目的にした金融経済教育推進機の設立をきっかけにして、行政・民間の企業や団体が一体となって金融経済教育に関する活動が進み、我が国での金融リテラシー向上の実現が期待されます。

前編(調査結果から読み解く 若者世代の金融リテラシー)はこちら

本調査の結果は、金融広報中央委員会が運営する、暮らしに役立つ身近なお金の知恵・知識情報サイト「知るぽると」で閲覧することができます。

知るぽると「15歳のお金とくらしに関する知識・行動調査

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