日米で異なる大学進学ローンの実態 ~教育投資と家計負担をどう考えるか~

大学進学は「将来への投資」
大学進学は、将来の収入やキャリアの可能性を広げるための大切な投資です。とくに米国では、学位を取得することでより良い就職機会や高い収入、長期的な経済的安定を得られるという期待もあり、学生ローンが広く利用されてきました。
一方で、その投資が必ずしも想定どおりの成果につながらず、卒業後も長く返済が続くケースがあります。学生ローンは、人生の早い段階だけでなく、中長期の家計運営や資産形成にも影響を及ぼす存在です。
米国で拡大する学生ローン残高
米国フィデリティの“How student debt is complicating retirement readiness”というコラムによると、米国では過去10年間で学生ローン残高の総額が45.6%増加しています。背景には、大学進学者の増加に加え、学費そのものの上昇があります。米国の大学授業料は1980年以降、賃金上昇率を164%上回って推移しており、教育費の重さが家計への負担を強めています。
また、米国従業員の約25%が学生ローン債務を抱えており、平均月額返済額は500ドルとなっています。また後述の通り、学生ローンは、特定の若年層だけでなく、幅広い世代に影響していることが分かります。
年齢を重ねても続く返済負担
下記グラフは米国における年代別の学生ローン残高比率です。このように、中高齢者となっても学生ローンが残っているというのが現状のようです。

この数字からは、学生ローンが「卒業後しばらく返せば終わる負債」ではなく、長期にわたり家計を圧迫し得ることが読み取れます。とくに35~49歳の割合が最も大きいことは、住宅購入や子育て、老後準備といったライフイベントが重なる時期に、返済負担が続いていることを示しています。
住宅購入や転職にも影響
学生ローンは、日々の支出だけでなく、人生の大きな選択にも影響します。米国フィデリティのレポートである“2026 Student Debt Report“によると、現在返済中の人の32%が「借金のために住宅購入を遅らせている」と回答しており、Z世代では37%、ミレニアル世代では36%に上ります。
| 学生ローンの影響で 遅らせていること | Total | Z世代 | ミレニアル 世代 | X世代 | ベビー ブーマー |
|---|---|---|---|---|---|
| | 47% | 48% | 50% | 46% | 33% |
| | 32% | 37% | 36% | 23% | 16% |
| 大きな買い物 | 29% | 25% | 30% | 33% | 14% |
| | 20% | 32% | 20% | 11% | 2% |
| | 19% | 25% | 19% | 15% | 2% |
| | 17% | 16% | 20% | 14% | 8% |
また、「会社が返済支援制度を提供すれば、より長くその会社に留まりたい」と答えた人は45%でした。世代別では、Z世代が52%、ミレニアル世代が47%と高い傾向が見られます。これは、学生ローンが従業員の定着や人材確保にも影響しうることを示しています。
| 学生ローンの支払を 企業が手伝ってくれたら | Total | Z世代 | ミレニアル 世代 | X世代 | ベビー ブーマー |
|---|---|---|---|---|---|
| より長くその会社に留まる | 45% | 52% | 47% | 39% | 21% |
| 401k等のリタイアメントアカウントへの拠出を増やす | 17% | 20% | 15% | 15% | 25% |
| 上記の両方を行う | 38% | 28% | 37% | 46% | 54% |
家計全体のストレスにも波及
さらに、学生ローンを抱えている従業員は、医療負債も抱えている可能性が2倍高く、学生ローンのない人と比べて医療費の支払いに対するストレスは約50%高いとされています。つまり、学生ローンは単なる返済負担にとどまらず、家計全体の心理的な余裕にも影響を及ぼしているといえます。
出所:Fidelity Investments ” Fidelity® Research Reveals Many Borrowers Delaying Major Life Milestones Due to Student Loan Debt”
学生ローン負担軽減を福利厚生に取り込む米国企業
米国企業では人材確保の一環として、従業員のためのファイナンシャル・ウェルネス・プログラムの中に学生ローン軽減策を組み込む動きが散見されます。
例えば、より低利率の借換えローンの紹介や、返済額を企業が一部負担する、雇用契約にサインすれば全額を企業が肩代わりして返済(本人は返済免除)する、といったような事例も見受けられます。
日本の奨学金制度との違い
日本では、米国ほど学生ローンが社会問題として大きく取り上げられることは多くありません。主に利用されているのは、日本学生支援機構(以下、「JASSO」)の貸与型奨学金です。
下記のグラフはJASSOにおける総貸付残高と返還を要する債権額の推移です。このように長期的には増加傾向にはあるものの近年では横ばい状況にあり、2024年度末における総貸付残高は9.3兆円、返還を要する債権額は7.5兆円となっています。

また、延滞額は下記グラフのように低下傾向にあり、2024年度末における延滞額は723億円となっています。
3か月以上の延滞者の割合も2024年度では2.6%(2014年度では4.6%)と低位で推移しています。


米国のように高額な授業料を民間ローンで広く賄う構造ではありませんが、下記からもわかる通り卒業後の返還が若年層の家計に負担となる点は共通しています。
労働者福祉中央協議会の「高等教育費や奨学金負担に関するアンケート2024」によると、JASSOの貸与型奨学金を利用し、返済が終わっていない方の71%が「返済に関して不安を感じている」との回答でした。
また、JASSOの貸与型奨学金を利用した方(これから返済予定の方を除く)の返済に関する負担感について44.3%が「苦しい」と回答しています(「余裕がある」との回答者は11.6%)。
さらに、奨学金の返済が米国と同様に生活設計に一定の影響を及ぼしているようで、特に貯蓄については62.3%の奨学金利用者が影響していると回答しています。
日米で異なる課題のかたち
以前のコラム『大学の学費ってどれぐらい? 国公立と私立、学部で大きく違う学費を検証(大学編)』でもお伝えしましたが、大学の授業料は日本においても私立大学では継続的に上昇していますし、国公立大学では2005年以来標準額が据え置かれていますが、東京大学をはじめ一部の大学は値上げに踏み切っているものも散見され始めており、昨今のインフレ環境を鑑みれば、早晩標準額も引き上がる可能性があり、その内容によっては家計負担の上昇につながる可能性があるものと思われます。
ここまでご覧いただいた通り、米国の学生ローンに関する問題は広く社会に認知され、人材獲得等の観点から採用企業も対応策を講じてきています。
一方、日本においては延滞率も低下傾向であったことや、米国に比して学費が相対的に低いこともあり問題があまり表出してこなかった状況がありましたが、今後は米国で見られる課題に近い状況が生じる可能性もあると考えられます。
進学前から考えたいこと
大学進学は、人生の可能性を広げるための投資です。ただし、借りる前に「いくら必要か」だけでなく、「卒業後にどう返すか」「その返済が将来の生活設計にどう影響するか」まで考えることが重要です。
教育の価値を最大限に活かすには、進学前の情報収集、在学中の借入管理、卒業後の返還計画を丁寧に立てることが欠かせません。日米いずれにおいても、学ぶためのお金を家計全体の中でどう位置づけるかが、これからの金融リテラシーの大きなテーマといえるでしょう。
文責:野村ホールディングス株式会社 ファイナンシャル・ウェルビーイング部 籔内 大助
記事公開日:2026年7月17日


