2025.04.02 NEW
【投資テーマの探し方】AIを利用して成長する企業を野村證券ストラテジストが解説
生成AI(人工知能)が実際に社会に実装されていく中で、AIインフラを構築する企業のほか、AIをうまく利用し、大きな成長を遂げる企業が登場し始めると予想されます。AI・半導体市場の動向や投資家が着目すべきポイントについて、野村證券ストラテジスト・大坂隼矢が解説します。
ディープシーク・ショックの影響は限定的?
AI・半導体市場において、1月27日に起きた“ディープシーク・ショック”は大きな話題となりました。中国のDeepSeek(ディープシーク)が低コストで生成AIを開発したことを受け、AI半導体大手の米エヌビディアなど、米国株市場でAI関連銘柄が急落するなどの影響がありました。急落の要因として、低コストで開発したAIシステムが先行する米国企業の脅威になると報じられ、米国企業を中心に行われている巨額な設備投資の資金回収に対する警戒感が高まったことが考えられています。
米国の株式市場では、半導体や電力など、AIインフラを構築する企業の下落が目立ちましたが、メタ・プラットフォームズやアップルなど、AIを利用する企業の株価は上昇しました。AIを利用している企業の株価がディープシーク・ショックの初動で上昇したということは、仮に、DeepSeekの登場により低コストのAI開発が可能になったとしても、AIの普及という大きなトレンドに変化はないと市場が捉えている証左とも言えます。もっとも、ディープシーク・ショック後の2月中旬まで、AI関連株は堅調に推移し、S&P500指数は落ち着いた値動きとなっていました。
(注1)データは日次で直近値は2025年3月21日。
(注2)AIモデルの比較は、会社発表および各種報道を基に作成。MoE(MixtureofExperts、混合専門家モデル)は、ディープラーニング(深層学習)の1つで、複数のAIモデルを組み合わせ、モデルの必要な部分のみを利用することで学習や推論効率を改善する手法。Transformerは、ディープラーニングの1つでLLM(大規模言語モデル)開発の主流となる手法。学習データ量、計算量、モデルサイズを大きくすることでLLMの性能が向上するとされている。
(出所)ブルームバーグ、各種資料より野村證券投資情報部作成
2月中旬以降、米国株式市場は軟調な展開が続いており、3月10日の米国株式市場では、主要ハイテク株が急落する展開となりました。ただし、主な要因は米国景気減速への懸念が強まる中で、トランプ大統領の関税政策を巡る不透明さが要因とみられ、ディープシーク・ショックに対する注目は薄れているといえそうです。
その要因としては、依然として不確かな部分はあるものの、DeepSeekの手法がAI開発の根底を覆すものではないということが徐々に明らかになってきたことが考えられます。
DeepSeekのAIモデルは、米国の大手テクノロジー企業が開発したオープンソースのLLM(大規模言語モデル)を活用して開発されました。米国テクノロジー企業大手のLLMは先端AI半導体などを使用し、巨額の費用をかけて開発したものです。こうした点から、先端AI半導体を使用せず、高性能なAIモデルを開発することは難しいと考えられます。
実際に、ディープシーク・ショック後に発表された米国大手テクノロジーの決算では、引き続きAI向けの設備投資増額が発表されています。少なくとも3月時点では、米国テクノロジー企業は膨大なコストを投入して、汎用的なAIモデルの開発を継続していく意向を示しています。さらにその後に発表されたエヌビディアやブロードコムなどのAI半導体企業の決算も非常に好調な結果となり、AI半導体需要の減速懸念を和らげる内容でした。
3月17~21日、エヌビディアは開発者向けイベント「GTC 2025」を開催しました。18日の基調講演でエヌビディアのジェンスン・フアンCEOは、当社の最先端AI半導体「Blackwell(ブラックウェル)」の需要が極めて旺盛で、急成長していることが強調されました。
また、DeepSeekの登場により、エヌビディア製の半導体の需要が伸び悩むのではないかとの見方を否定し、むしろDeepSeekの「R1」やOpenAIの「o1」のような高度なAIモデルの普及により、必要な計算量が大幅に増加するとの見解を示しました。増加する必要計算量に対して、エヌビディアは新製品を逐次投入していくとしています。
政府による規制もあり、各国独自の進化へ
ディープシーク・ショックが長引かなかったもう一つの要因としては、政府による規制によって他国のサービスを利用できないことも挙げられます。
例えば米中では、主に現地企業が開発したインターネットサービスが普及しており、それぞれの国に適したサービスが展開されています。DeepSeekを巡っては業務利用でのリスクも懸念されており、AIも従前のサービスと同様に、米中それぞれの国で独自に進化、普及していく可能性があります。実際に、DeepSeekの登場により、中国では新たなAI開発が活発化しており、中国ではデータセンターをはじめ、AIインフラ投資が活発化しています。
DeepSeekによる効率的なAI開発の登場は、AI市場へ参入する企業の活発化につながり、ソフトウエアなどを通じてAIを利用する企業を増加させ、結果的にデータセンターなどのAIインフラに対する需要を拡大させる要因にもなり得ると考えます。
効率的なAI活用を促す技術・RAG
株式市場では半導体やデータセンター関連など、AIインフラを構築する企業が、生成AIの分野ではまず注目を集めました。AIが実際に社会に実装されていくことで、株式市場においても「AIを利用して成長する企業」への視点は重要といえるでしょう。
AIを効果的にかつ、低コストで運用する技術として、「検索拡張生成(RAG)」があります。RAGは、AIモデルの外部にあるデータベースの情報(顧客情報や企業情報、インターネットの情報等)を検索して、生成AIの回答に反映させることで、回答の精度を高める技術です。例えば、コールセンターで顧客からの質問に対し、社内の顧客情報や内部文書を活用して迅速に回答するなど、様々な業種でRAGを使った業務の効率化が進んでいます。
多くの企業がアルファベットやアマゾン・ドット・コムなど大手クラウド企業にRAGの構築を依頼し、アプリケーションだけ自社で開発して利用しています。そもそもAIモデルの開発には、クラウド環境が必要不可欠です。
AIの普及に伴い、一時伸び率が低下傾向にあった大手クラウド企業の業績は、生成AIのサービスが本格化した2023年下期以降、再び増収率の上昇が加速しています。例えば、マイクロソフトのクラウドサービス「Azure」の2024年10-12月期の増収率は、AIサービス機能の追加によって13%ポイント押し上げられたと会社はコメントしています。
(注)データは四半期で直近値は2024年10-12月期。マイクロソフト(Azure)は為替の影響を除いたベース。
(出所)会社資料、ウルフ・リサーチ社より野村證券投資情報部作成
インターネット広告の最適化で収益性が向上
生成AIの業績への貢献はインターネット広告事業にも広がりを見せています。アルファベット傘下のグーグルが提供する「パフォーマンスMAX」は、広告主が予算や成果目標、広告素材を準備するだけで、クリエイティブの作成や最適な広告面への配信を自動で実行・調整する仕組みです。メタ・プラットフォームズは、ターゲットの拡大やキャンペーン予算の最適化を自動的に実行するツールを提供しています。
これらの生成AIツールをビジネスの効率化や追加の機能として広告主向けに提供することで、両社は広告単価や広告数を上昇させて、収益性を向上させています。
(注)データは四半期で直近値は2024年10-12月期。
(出所)会社資料、ウルフ・リサーチ社より野村證券投資情報部作成
人の代わりに複雑な業務を遂行するAIエージェント
生成AIの収益化に成功しているのはGAFAMと呼ばれるような巨大IT企業だけではありません。SaaS企業も、自社のプラットフォームに生成AI機能を組み込むことで、顧客の利便性を向上させています。
CRM(顧客管理システム)で世界トップのセールスフォースは、ChatGPTなど、外部のLLMと自社サービスを活用することで、顧客企業のRAG構築を支援するツールを提供しています。
またセールスフォースは、従来人手を介していた一連の業務を、生成AIで自動化する「AIエージェント」の提供も開始しています。2024年9月に、AIエージェント機能をまとめた「Agentforce(エージェントフォース)」を発表しました。Agentforceでは、「商品の発送方法を変えたい」といった顧客からの入力内容を読み解き、AIエージェントが顧客管理システムから最新の発注履歴を取得、物流システムにアクセスし、顧客への発送方法を変更するといった動作まで自動で行います。
セールスフォース以外にも、クラウド業務管理の米サービナウ、ソフトウエアの独SAP、米オラクルなどの業務系SaaS企業が、AIエージェントの提供を活発化させています。また、日本企業では富士通、NEC、日立製作所などが、こうした海外のSaaS企業のサービス導入支援や独自のAIサービスを通じて、生成AI分野での事業拡大を進めています。

- 野村證券投資情報部 シニア・ストラテジスト
大坂 隼矢 - 2010年入社。3店舗での支店業務を経て、2015年3月より投資情報部。現在は月刊誌「Nomura21 Global」等、個人投資家向け株式資料の作成をはじめ投資情報の提供を行う。
※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。