2025.03.26 NEW

インド株はなぜ下落基調? 中長期での成長ストーリーは変わらず 野村證券ストラテジストが解説

インド株はなぜ下落基調? 中長期での成長ストーリーは変わらず 野村證券ストラテジストが解説のイメージ

分散投資のひとつとして新興国への投資をしたいと考える人にとって、存在感のある国といえばインドだと思います。インド株は2020年以降急激な上昇を見せていましたが、ここ最近はインドの通貨ルピーの対米ドル価格とともに下落しています。

インド SENSEX指数 月足

インド SENSEX指数 月足のイメージ (注1)直近値は2025年3月17日。(注2)トレンドラインには主観が入っておりますのでご留意ください。 (注3)日柄は両端を含む。
(出所)ボンベイ証券取引所より野村證券投資情報部作成

インドの主要株価指数SENSEXは、2024年9月26日に8万5,836ポイントの過去最高値を付けましたが、2024年12月中旬以降は下落基調となり、2025年3月初旬には7万3,000ポイントを割り込む場面もありました。対米ドルのインドルピーも2024年後半から下落し、2025年2月5日には1米ドル=87ルピー台と最安値をつけました。

インドルピーの推移

インドルピーの推移のイメージ (注)データは日次で、直近値は2025年3月17日。
(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成

この背景にあるのは、端的にいうと米国の金利の高さです。新興国通貨は全般的に米国の金利上昇に弱い面があります。

インド準備銀行(中央銀行)は、政策金利を2024年は6.5%としていましたが、2025年2月7日には約5年ぶりに0.25%引き下げて、6.25%としました。一方、米国はトランプ政権の関税政策などの影響により市場予想よりも政策金利の引き下げが遅れ、長期金利が高止まりしています。

インド準備銀行が景気を支えるために利下げをしたくても、それが通貨安を招いてしまうため、なかなか踏み切れないという状態です。金利が高い状態は企業にとっては向かい風となり、株価の下落を招いていると考えられます。

2024年はインドの成長スピードの減速が見られた

そもそも、これまでなぜインドの株価は上昇していたのでしょうか。

インドは若年層の人口が多い「人口ボーナス期」が続く国であり、高い成長率を魅力としてここ数年、世界から投資が集まっていました。人口ボーナス期とは、従属人口(0~14歳と65歳以上の人口)に対する生産年齢人口(15~64歳の人口)の比率(人口ボーナス指数)で2倍以上の時期のことで、経済が拡大しやすいと考えられます。なお、インドの人口ボーナス指数がピークを迎えるのは、2030~2040年頃になると予想されます。

従属人口に対する生産年齢人口の国別比率

従属人口に対する生産年齢人口の国別比率のイメージ (注)データは2024年公表値。2024年以降のデータは中位推計値を採用。全ての国を網羅しているわけではない。「アフリカ地域」は、United Nationsの地域(Region)定義に基づく。
(出所)国際連合「World Population Prospects 2024」より野村證券投資情報部作成

中長期的に成長が期待できる国であることに加え、2014年から続くモディ政権による製造業の振興策「メイク・イン・インディア」をはじめとする経済政策の推進が奏功しました。

第2次モディ政権発足後、政府は2019年7月に「デジタル・インディア」計画を発表しました。「21世紀のテクノロジー、通信インフラ、サービス」「未来に向けた電子政府」などの9分野に重きをおき、インドのデジタル経済を2025年までに1兆米ドルへ拡大する計画です。

それが2024年に入ってからは、成長スピードが鈍化する指標が出始め、景気の減速が見え始めました。2024年の実質GDP成長率は、2024年7-9月期に前年比5.4%となり、7四半世紀ぶりに6%を下回りました。その後は回復しているものの、史上最高値を更新し続けてきたインドのファンダメンタルズに不安を感じた投資家もいたと思います。

IT先進国というインドの強み

しかし、中長期に見てインドの成長ストーリーが崩れたとはいえないと思います。人口ボーナスの強さは変わりませんし、インドは今後、IT先進国となりうるポテンシャルを秘めている点にも注目したいと思います。

インドは自動車、半導体などのセクターでグローバルハブになることを目標に掲げ、AI、量子コンピューターの研究に力を入れています。モディ政権のビジネス戦略のもと、IT人材が多数育成されています。世界を代表する米国の企業にインド人CEOが多く就任していることからわかるように、インドはIT関連のリソースとしての認知度が上がっています。

いわゆるシステム・インテグレータであるTCS(インド最大財閥タタ・グループのIT企業)やインフォシスといった優れた企業はグローバルプレーヤーとしての地位を確立しています。

また、マイクロソフトやマイクロンテクノロジーといった、米国の主要ハイテク企業もインドに拠点を設立する動きが増加しています。たとえば、アップル社はインドの製造拠点を拡大させ、iPhoneの製造を行っているのはよく知られています。インドからの電子部品の輸出が拡大していることも、データで確認できます。

インドの輸出総額に占める電気機器のシェアの推移

インドの輸出総額に占める電気機器のシェアの推移のイメージ (注)データは年度(当年4月から翌年3月)で、直近値は2024年度(4~12月)。
(出所)インド商工省より野村證券投資情報部作成

米国を中心に、生成AIの市場拡大が期待されてIT企業による設備投資が見込まれるなかでは、インドのIT人材や企業への期待を背景に、インド株が大崩れすることはないと思います。

国が強くなったからこそ、売られる宿命

足元で株価が調整しているのは、インドが成長したからこその宿命と言えると思います。

投資家にとってアジアの成長チャンスをポートフォリオに組み入れたいと考えるとき、株式市場の流動性の点で日本が選ばれがちでした。そのため日本株は、グローバルの株式市場に何か変調があると売られるという特徴があります。その役割がインドに移ってきて、インドの成長見込みに大きな変調がなくても、トランプ政権の揺さぶりなどが影響することが考えられます。史上最高値を更新するような状況では、他市場での損失を、利が乗っているインド株売却で相殺する、という面も否定できないでしょう。

米国はインドに対しても関税を課すなどの発言はありますが、メキシコ、カナダ、欧州連合(EU)に比べると相対的に関税の影響は小さいと思います。25年2月13日にトランプ大統領とモディ首相はワシントンで首脳会談を行いました。米国とインドは早期の貿易協定締結と関税を巡る対立解消に向けた協議を開始することで合意しました。インドは米国産石油・ガスや軍装備品の購入拡大、不法移民対策に取り組む方針を示しました。また、AIや半導体分野で協力し、医薬品などのサプライチェーン強化の取り組みも合意されました。米国のインドに対する大幅関税回避の可能性はルピーの追い風となるでしょう。

インド株が再浮上するための条件として、米国の金利水準が落ち着き、インド準備銀行が利下げを安心して進めていけることが重要ではありますが、米国の金融政策は不透明です。再浮上が難しいのかというと、それ以外の要素もあるでしょう。モディ政権は、消費を底上げするための所得補助などの政策を打ち出しています。ルピー安により、先述したシステム・インテグレーターなどの企業が世界から受注しやすくなるため、価格面での国際競争力が増し、株価を牽引する可能性もあります。

足元で株価は調整しましたが、中長期で見るとインド株はポートフォリオにいれておきたいアセットということに変化はありません。高すぎるバリュエーションに躊躇していた人にとっては、インド株投資を始めやすくなったともいえるでしょう。

野村證券投資情報部 シニア・ストラテジスト
佐々木 文之
日本生命保険(国際投資部、ニューヨーク現地法人)、野村総合研究所、旧郵政省・郵政研究所、野村證券(英国現地法人)勤務を経て現職。グローバルトップダウンアプローチに基づくグローバル投資戦略を提供。運用担当者としての経験を活かした投資アイディアに強み。主な著書は「賢者の投資」(東洋経済新報社)。

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