2025.10.15 NEW

【プロの銘柄選び】「AI関連」の次のテーマは? 「量子コンピューター」の可能性を探る 株式ストラテジスト・大川智宏さん

【プロの銘柄選び】「AI関連」の次のテーマは? 「量子コンピューター」の可能性を探る 株式ストラテジスト・大川智宏さんのイメージ

文/斎藤健二(金融・Fintechジャーナリスト) 撮影/タナカヨシトモ(人物)

日本や米国でAI(人工知能)をテーマにした銘柄物色が続き、データセンター関連銘柄や半導体関連銘柄の騰勢が強まっています。株価の上昇は今後も続くのでしょうか。智剣・OskarグループCEO兼主席ストラテジストの大川智宏さんはAI関連銘柄への資金流入を「まだ5、6合目」と評価する一方、次の投資テーマを探るタイミングでもあるとも述べ、その1つとして「量子コンピューター」を挙げています。量子コンピューターのポイントや将来性、注目銘柄などについて詳しく聞きました。

AIブームの次を見据えた投資戦略

AI関連銘柄の株価上昇が続いています。

AI関連企業の業績は依然として好調で、株式投資家も積極的に資金を振り向けています。ある米ITサービス企業は、決算発表の翌営業日に株価が40%近くも上昇しました。日本でもデータセンター向けファイバーケーブルなどを手掛けるフジクラ(5803)の株価が前年末比でおよそ2.4倍に上昇(10月8日時点)したほか、AI分野に積極的に投資しているソフトバンクグループ(9984)が同期間で約2.2倍、半導体検査装置を手掛けるアドバンテスト(6857)も同じく約1.9倍に上昇するなど、AI関連銘柄が株価指数の上昇をけん引している印象です。

【プロの銘柄選び】「AI関連」の次のテーマは? 「量子コンピューター」の可能性を探る 株式ストラテジスト・大川智宏さんのイメージ

足元ではデータセンター向けなどハードウェアの需要が盛り上がっている段階です。AI技術はこれからソフトウェアへの応用が広がり、最終的には個人向けサービスなどでも活用されるようになるでしょう。そういった観点から、AI関連銘柄への資金流入は「まだ」5~6合目と言えます。一方で「もう」5~6合目だと考えれば、次の投資テーマを探し始めるタイミングかもしれません。

AIに続きそうな投資テーマは何でしょう。

テクノロジー分野では、「量子コンピューター」(注1)に注目しています。すでに、創薬、気候予測、金融などで量子コンピューティング技術の研究が活発化しています。創薬では、膨大な数の成分の組み合わせを並列で試験する必要があり、大規模に並列処理できる量子コンピューターが大いに活躍することが期待されています。複雑なモデルの計算が求められる気候予測も同様です。

また、金融では、資産クラスをどう配分し、どのくらいの期間運用すればリターン効率を高められるかなど、ポートフォリオの最適化などに役立ちます。

(注1)量子コンピューターとは

量子コンピューターとは「量子力学の現象を利用した次世代の計算機」。従来のコンピューターでは、情報を「0か1」という2通りの状態で表す「ビット」を最小単位として扱い、計算していたが、量子コンピューターでは情報を量子の性質である「0と1の両方を重ね合わせた状態」をとる「量子ビット」を扱い、計算する。従来のコンピューターでは解答に膨大な時間を要する問題でも、量子コンピューターでは短時間で解けるようになる可能性があり、さまざまな分野での活用が期待されている。量子コンピューターは計算機であり、技術そのものを指す場合は量子コンピューティングと言う。

量子コンピューターで重要な2つの方式

量子コンピューターの研究や実用化を進めている企業は多いのでしょうか。

量子コンピューターには「量子ゲート方式」と「量子アニーリング方式」(注2)という2つのタイプがあり、それぞれ得意とする企業が異なります。量子ゲート方式は従来のコンピューターの進化版で、汎用的な計算が可能です。米国の大手IT企業が多額の資金を投じ、研究を進めています。ただ、新しい物理学に基づいた技術であり、商用化には時間がかかっています。

もう一方の量子アニーリング方式は組み合わせ最適化問題を解くことに特化しており、運送ルートの最適化や資産運用でのポートフォリオの構築など用途はまだ限られているものの、実用化が進んでいます。この分野で先行しているのはカナダの企業で、日本でも高い専門性を持つ企業があります。

(注2)量子ゲート方式と量子アニーリング方式とは

量子コンピューターは主に量子ゲート方式と量子アニーリング方式の2つに分類される。量子アニーリング方式は組み合わせ最適化問題を解くことに特化しており、カナダの企業が商用化を実現させるなど、金融や製造現場などでの利用が進展している。一方で、量子アニーリング方式に比べて利用範囲が広い量子ゲート方式は、まだ商用化に至っていない。小中規模(量子ビット数が数百個程度まで)の量子ゲート方式の量子コンピューターであるNISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum)はすでにクラウドを経由して実用化されているが、NISQは量子コンピューターの課題である量子誤り(エラー)を訂正する機能を持たないため、正確な計算は難しいとされている。

大川さんが選ぶ量子コンピューター関連銘柄

日本にはどんな量子コンピューター関連銘柄があるのでしょうか。

日本には量子コンピューター関連銘柄が十数社あります。例えばフィックスターズ(3687)は量子コンピューターを事業の柱とし、量子コンピューティングモデルを使ったソリューション提供に強みを持っています。大手IT関連企業ではNEC(6701)や富士通(6702)も量子コンピューターの研究・開発に取り組んでいます。

量子コンピューターに関連する5銘柄を以下に紹介します。大手IT関連企業は多角的にビジネスを展開しており、量子コンピューターの商用が本格化したとしても、業績への影響は相対的に小さくなるかもしれません。そのため、以下の表では量子コンピューターや量子コンピューティング技術を事業の中核に据えている銘柄のみを取り上げています。

大川さんが選ぶ量子コンピューター関連5銘柄
銘柄コード 銘柄名 株価終値
(2025年10月8日時点、円)
主な事業内容
4847 インテリジェントウェイブ 1,046 量子ソフトウェアを開発できるシミュレーターを製品化。
3687 フィックスターズ 2,138 最適化問題を解決する量子コンピューターサービスを展開。
6597 HPCシステムズ 2,010 量子化学計算に強み、量子コンピューター開発企業と業務提携。
5582 グリッド 2,739 トヨタ自動車と量子機械学習の研究分野での協業を発表。
4069 BlueMeme 2,081 量子コンピューターによるゲノム解析、大規模言語モデルを研究。

(出所)LSEG Workspace、QUICKのデータを基に智剣・Oskarグループ作成

量子コンピューターの本格普及と投資のリスク

量子コンピューターが本格的に普及し始めるのはいつごろでしょうか。

例えば米国株式市場では量子コンピューターや量子コンピューティング技術を専業とする企業が数社上場していますが、代表的な企業の多くは最終赤字の状況が続いています。アナリストの予想によれば、商用技術として本格的に普及し、収益貢献が見込まれるのは5年ほど先と見込まれています。ただし、量子コンピューティング技術と親和性の高いAI技術の進化によって、普及タイミングはもっと早まるかもしれません。

投資の際に気を付けるべき点はありますか。

量子コンピューターはテクノロジー分野でAIブームの次を担う有望な投資テーマであると考えています。ただし、期待感が先行しがちな分野だけに、いざ投資を始めたとしても、投資期間中は株価の乱高下に見舞われる可能性があります。実際、米国株式市場の量子コンピューター関連銘柄は値動きがとても大きく、投資家から見ればやきもきすることも多いでしょう。

米国株式市場に上場する量子コンピューター関連銘柄の株価推移

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(注)2025年9月5日までの過去1年間の株価の推移、2024年9月5日を1として指数化
(出所)LSEG Workspaceのデータを基に智剣・Oskarグループ作成

こうした傾向はAI関連、バイオ医薬品関連などでも見られました。量子コンピューターや量子コンピューティング技術も本格的な普及には時間がかかり収益貢献も当面先になるため、投資が実を結ぶまでは忍耐強く待つ必要があると思います。とはいえ、次世代のテクノロジーとして世界の名だたる企業が力を入れている分野であるほか、日本政府や米国政府も育成に力を入れており、長期投資が報われる可能性は決して低くないと考えています。

【プロの銘柄選び】「AI関連」の次のテーマは? 「量子コンピューター」の可能性を探る 株式ストラテジスト・大川智宏さんのイメージ
智剣・Oskarグループ CEO兼主席ストラテジスト
大川智宏さん
野村総合研究所、JPモルガン・アセットマネジメント、クレディ・スイス証券、UBS証券を経て、独立系リサーチ会社の智剣・Oskarグループ設立。専門は計量分析に基づいた日本株市場の予測、投資戦略の立案など。テレビ東京「Newsモーニングサテライト」、テレ東BIZ「モーサテわからん」、日経CNBC、ラジオNIKKEIなどの経済番組でコメンテーターを務めるほか、経済誌やウェブにて連載多数。

※本コラムで取り上げられたマーケットや投資に関する考え方などについては、あくまで個人の見解によるものであり、野村證券の意見を代表するものではございません。本コラムは、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。

本コラムの内容等は野村證券において確認したものではなく、また、将来変更される場合があります。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

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