2025.10.27 NEW
日経平均株価が5万円を突破 世界経済の最大リスクが後退 野村證券・池田雄之輔
撮影/タナカヨシトモ(人物)
10月27日の日本株式市場で日経平均株価は前営業日比で大幅に続伸し、取引時間中に初めて5万円台に乗せました。終値は前営業日比1,212.67円高の50,512.32円でした。10月4日の自民党総裁選で高市早苗氏が勝利して以降、日本株の上昇基調が続いています。高市氏の総裁選出前である10月3日の日経平均株価の終値は45,769.50円で、5,000円に迫る上げ幅となっています。日本株上昇の背景について、野村證券市場戦略リサーチ部長の池田雄之輔が詳しく解説します。

日経平均株価の5万円超えを後押ししているマクロ要因は3つあると思います。
⑴米中貿易戦争の「停戦」への期待
⑵米国インフレ懸念の後退
⑶高市政権の長期化、安定化への期待
という海外2つ、国内1つの要因です。順番に検討していきましょう。
米中首脳会談前に、市場の予想以上の歩み寄り
まず米中貿易戦争は、最大の焦点だったトランプ米大統領と習国家主席の首脳会談が10月30日に開催されることが確定しています。一部では「不調に終わる」というリスクシナリオへの警戒もありましたが、先立って行われた閣僚級会議の結果は、市場の予想以上の大きな歩み寄りとなっています。
具体的には、ベッセント米財務長官は米メディアに対し、中国側がレアアース(希土類)の輸出規制を1年間延長するかわりに、米国は100%の対中関税発動を見送る方向だと述べました(日本経済新聞10月27日付)。中国商務省の李代表(国際貿易交渉担当)も、輸出規制やフェンタニル(合成麻薬)問題、船舶入港料などをめぐり「暫定的な合意に至った」と明言しています。
30日の米中首脳会談でトランプ大統領は、中国の大豆輸入再開を含め、「ディール成功」を米国民にアピールできそうです。金融市場は、世界経済にとって当面最大のリスクが後退したと、前向きに受け止めそうです。米国のクリスマス商戦の見通しも晴れるため、日本企業にとっても大きな安心材料です。
もちろん、これで米中の対立関係が完全に解消したということにはなりません。米中は、いずれも、相手国への経済的依存度を引き下げる「ディカップリング」を目指すという、長期戦略を固めています。双方の依存関係がなくなるまでの間は、相手の弱み(米国のレアアース、中国の半導体)を握りながら、対立関係は、激化→緩和→激化を繰り返すことが予想されます。中国の、米国からの大豆輸入、米国へのレアアース輸出が約束通りに再開されるかを注視する必要があります。米国側は2026年秋の中間選挙を控えており、来年春先以降は、景気への打撃は何としても回避したいはずです。そこに中国がつけ込んで大豆やレアアースで揺さぶりをかけてくることはあり得ると思います。
米インフレ懸念が後退 10月分のCPIが発表されない可能性にも注目
次に、米国のインフレについて、政府閉鎖の影響で発表が遅れていた9月のCPI(消費者物価指数)が、24日に発表されました。結果はコア前月比+0.2%と市場予想(同+0.3%)を下回りました。基調部分に相当する「粘着コアCPI」(アトランタ連銀算出)の前月比年率の推移をみても、7月から9月にかけて同+4.8%→同+3.6%→同+2.5%と、順調に低下しています。
さらに、ホワイトハウスが、次回10月分のCPIは政府閉鎖の影響で発表できないとの見通しを示したことも重要です。調査員は価格データを収集するのが困難とみられます。
結果的に、10月分データは、11月分の発表時に、「9月分と11月分をベースにした平均値」として発表される可能性があると、野村證券では見ています。そうだとすると、10月分のデータは9月のインフレ下振れの半分を引き継ぐことになります。10・11月分のCPI発表は12月10日が予定されていますが、その辺りまでは「米インフレ懸念」は気にしなくて良い状況となりそうです。また足下で、全米平均のガソリン価格は3.0ドル/ガロン付近と、2024年12月以来の低さとなっています。これも、年末商戦には支援材料となります。
高市内閣の支持率が軒並み高い
最後に、国内政治です。10月21日に発足した高市内閣の支持率は、各社の世論調査で軒並み高い数値になっています。日本経済新聞:74%、読売新聞:71%、朝日新聞:68%、毎日新聞:65%、共同通信:64%などです。公明党の連立離脱直後は、「高市政権が、仮に発足できても不安定」という見方が多かったと思いますが、日本維新の会との連立合意、および組閣によって流れが変わってきました。
一方で、公明党の選挙協力なしでは多くの自民党衆議院議員が選挙区で議席を失うという試算(10月10日付 日経電子版)もあり、与野党ともに早期解散は望まない状況と言えそうです。2028年夏の参院選まで、向こう3年弱、国政選挙は実施されない可能性も出てきたかもしれません。
注目の財務大臣ポストには片山さつき氏が就きました。片山氏は元大蔵官僚ですが、積極財政派と目され、就任後の会見でも、「責任ある積極財政」を繰り返し述べています。「サナエ・サツキ」による成長志向の財政政策には市場の期待も高まりそうです。ただし、自民党内では、麻生太郎副総裁と鈴木俊一幹事長という「元財務相コンビ」が一定のブレーキ役になることにも注意が必要です。消費税率引き下げのハードルは引き続き高いとみています。
今後は為替変動に注目
以上、米中貿易戦争は停戦、米国のインフレ懸念は後退、日本の新政権は想定以上に安定、と好材料が揃いました。いずれの点も、年内には大きな落とし穴はなさそう、と言えそうです。もちろん、株価は日米ともにかなり好調に史上最高値を更新してきていますので、小さな材料でも、利益確定売りにつながるリスクはつきまといます。とくに為替変動には注意が必要です。ドル円が154円を抜けると、日本の財務省・日本銀行ともに神経質にならざるを得ず、相場も乱高下し、株価を巻き込む可能性があります。
- 野村證券 市場戦略リサーチ部長
池田 雄之輔 - 1995年野村総合研究所入社、2008年に野村證券転籍。一貫してマクロ経済調査を担当し、為替、株式のチーフストラテジストを歴任、2024年より現職。5年間のロンドン駐在で築いた海外ヘッジファンドとの豊富なネットワークも武器。現在、テレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演中。
※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。