2026.02.02 NEW
衆院選 自民大勝・辛勝・敗北の3つのシナリオで「為替」を予想 野村證券・後藤祐二朗
撮影/タナカヨシトモ(人物)
衆院選の投開票日(2月8日)が近づいています。今回は、(1)自民党大勝(自民党が単独で過半数を確保)、(2)自民党辛勝(自民党は単独過半数に届かないものの、日本維新の会との連立で与党過半数を確保)、(3)自民党敗北(自民党が議席を減らし、日本維新の会との連立を含めても与党過半数を割り込む)の3つのシナリオに分け、為替の反応に関する見方を整理しました。野村證券のチーフ為替ストラテジスト、後藤祐二朗が解説します。

円相場の反応を考える上での注目点
為替市場では2025年夏場以降、参院選や自民党総裁選など日本の政治イベントの前後で円安が加速してきました。衆院選の前後で円安が一段と進むかを考えるうえでは、① 選挙結果、② 政権および連立の組み合わせが変わる可能性、③ 財政政策および金融政策運営の変化、が焦点になります。
自民党単独過半数確保のシナリオ:短期的な円安加速か
野村證券が1月14〜15日に実施した顧客サーベイでは、自民党が単独過半数を確保する大勝シナリオの場合、「高市トレード」の継続、ないしは再加速を見込む向きが多いとみられ、株高・金利上昇・円安米ドル高を想定する回答が目立ちました。自民党が単独過半数を確保すれば高市早苗政権は存続し、政権基盤の安定を背景に、リフレ的(景気刺激を重視する)な政策運営が継続ないしは加速するとの見方が広がりやすいと考えられます。初動では米ドル円が上昇する公算が大きいと考えます。
もっとも、足元では当局が円安けん制を強め、債券市場の不安定化に対しても政府と日本銀行が「緊密に連携」して対応する意向を明確にしています。円安や国債利回り上昇への高市政権の警戒感は強まっているとみられ、米国側からも債券市場の安定に向けた働きかけが強まっている可能性があります。食料品を対象とする消費税減税は不可避となりそうですが、一部では見送りへの期待が高まる可能性も否定できません。追加的な財政政策および金融政策による景気刺激が実施される公算も、相対的に小さいでしょう。年後半に向けてはデフレ脱却宣言も視野に入り、リフレ的な政策からの転換が明確になり得ます。円安局面では日銀の利上げ時期が4月に前倒しされる可能性もあり、円安に歯止めがかかる公算が大きいです。
参院での過半数回復に向けて国民民主党や参政党などの支援を模索する場合、財政政策および金融政策の追加緩和を求める圧力が高まる可能性はあります。ただ、衆院で安定多数や絶対安定多数を確保できれば、連立交渉を急ぐ必要性は乏しく、国民民主党や参政党に対する政策面の妥協も限定的になる見通しです。初動で円安が進んだ後、年度末に向けて円安の勢いは鈍化し、米ドル円は155円前後で落ち着きそうです。
自民・維新での過半数維持のシナリオ:連立枠組み拡大がリスクに
概ね現状維持のシナリオに近く、高市首相は続投しても、自民党内での求心力が大きく高まるには至らない見通しです。高市トレードも、明確な加速も減速も起きにくいでしょう。市場が「自民党の単独過半数」をメインシナリオとして織り込んでいるとみられる中、初動は小動き、ないしは小幅な円の買い戻しとなっても不思議ではありません。
中長期の影響を考えるうえでは、自民党が単独過半数に届かない中で、高市首相が連立拡大によって政権基盤の安定を図るかどうかが焦点です。公明党が立憲民主党との中道改革連合の結成に動いたことを受け、追加の連立相手、ないしは支援勢力として国民民主党や参政党が意識されやすくなります。仮にこれらの政党の政策決定への影響力が強まれば、財政政策や金融政策運営における追加緩和圧力が台頭し、国債売りや円売り圧力の再燃につながり得ます。
自民党と維新のみで連立を継続する場合、市場への影響は限定的で、為替介入への警戒が残る中でも米ドル円は155円を下回った水準で3月末を迎える可能性が高まります。一方、国民民主党や参政党の影響力が強まるシナリオが意識されれば、160円に向けて円安が再加速する可能性も否定できません。
自民・維新での過半数割れのシナリオ:初動では円高、振れの大きい展開も
市場にとって大きなサプライズとなり、高市首相の退陣圧力も強まるとみられます。高市氏の後継を巡る動きが注目を集めますが、現段階で自民党内に、高市氏よりもハト派的(金融引締めに慎重で、景気下支えを重視)な経済政策を志向する有力な潮流は乏しい印象です。高市トレードが巻き戻され、初動では円高米ドル安が見込まれます。150円割れまで円高が進むケースも想定しておく必要があります。
中長期の影響は三つのサブシナリオに分けて考えることが重要です。まず、自民党と維新が過半数割れの少数与党として政策運営を余儀なくされるシナリオです。この場合、新たな自民党総裁が高市首相と比べて緊縮的な姿勢を採れば、リフレ的な政策運営への期待が後退すると見込まれます。ただし、政策運営が早期に行き詰まり、結果として連立拡大に動かざるを得なくなる可能性もあります。
第二のシナリオとして、国民民主党や参政党が連立相手として浮上する場合です。連立交渉の過程で、食料品に限らない消費税減税や、日銀に対する金融緩和の継続圧力が強まる可能性があります。結果として、国債売りや円売りのシナリオが再開する余地があります。初動の円高を経た後でも、3月末に向けて再び160円に向けた円安加速につながる可能性をはらみます。
一方、自民党と維新が大敗するケースでは、中道改革連合を中心とした政権への交代もあり得ます。また、高市総裁の退任により、新総裁の意向次第では自民党と中道が組む大連立や、連携相手として中道をより重視する展開も考えられます。
中道改革連合は、消費税減税に関しては恒久的な食料品減税を主張しており、自民党や維新の時限的な減税よりも緩和的です。一方、野田佳彦共同代表は、円安や国債利回りの急騰を抑えるには早急に財政健全化のメッセージを出す必要があると強調し、「従来の金融緩和と財政出動の路線はデフレ脱却のための社会実験としては一つあったかもしれないが、今は副作用ばかり」とも発言しています。このため、物価高抑制に向けてマクロ政策の急旋回が意識されやすいです。初動の円高が持続ないしは加速しやすいシナリオと言え、3月末時点でも150円割れの円高米ドル安となっている可能性が高いです。
自民党と維新の過半数割れは市場へのサプライズとなるうえ、高市首相退任後の不確実性も大きいと言わざるを得ません。この点は、初動では高市トレードの巻き戻しによる円高圧力と、日本の政治不安による円安圧力が交錯する可能性もあるため、相場動向を踏まえて機敏に判断していく必要があります。
- 野村證券 市場戦略リサーチ部 チーフ為替ストラテジスト
後藤 祐二朗 - 為替相場のリサーチ・ストラテジーを担当。8年半に渡るニューヨーク・ロンドン駐在時には海外ヘッジファンド向けを中心としたドル円ストラテジー、日米欧の資本フロー分析、日本及び欧州の金融政策及びマクロ分析を担う。2002年に野村総合研究所に入社、2004年に野村證券への転籍を経て、2011年以降は海外拠点にて外国人投資家向けの情報提供を中心に活動。2019年8月より現職。
※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。