2026.02.03 NEW
FRB新議長ウォーシュ氏はどんな人物か 共和党寄りの思想で、マネタリスト的側面も 野村證券・小清水直和
トランプ米大統領は1月30日、2026年5月に任期を迎えるFRB(米連邦準備理事会)のパウエル議長の後任として、ケビン・ウォーシュ元FRB理事を指名しました。ウォーシュ氏はどのような人物で、米国の金融政策は今後どのような方向性に向かうのでしょうか。野村証券の小清水直和シニア金利ストラテジストが解説します。
ウォーシュ氏の経歴
ケビン・ウォーシュ氏はスタンフォード大学を卒業し、ハーバード大学で法学位を取得しました。モルガン・スタンレーで投資銀行業務に携わり、ブッシュ政権では大統領経済政策担当特別補佐官を務めました。その後、FRBでは2006年から2011年に理事を務めました。2008年の金融危機時には、バーナンキ元議長の下で、危機対応を巡るFRBと米議会、ウォール街の間の情報共有や調整を担いました。
ウォーシュ氏は、2008年の世界金融危機前夜からインフレ上昇を懸念して金融引き締めを志向し、世界金融危機が沈静化した後もQE(量的緩和)や低金利政策の長期化に懸念や批判を示しました。2010年のQE2の決定について、ウォーシュ氏は当時のバーナンキ議長への敬意から賛成票を投じたものの、その後は公然と批判を強め、2011年に理事を辞任しました。ウォーシュ氏はトランプ政権1期目でもFRB議長候補とされましたが、最終的にトランプ大統領は、よりハト派(金融緩和に前向き)とみられていたパウエル氏を議長に指名しました。
FRB理事の辞任後、ウォーシュ氏は著名投資家のスタンリー・ドラッケンミラー氏の投資会社でパートナーに就任しました。一方、ベッセント米財務長官は、ソロス・ファンド・マネジメント在籍時にドラッケンミラー氏の下で働いた経歴があります。ウォーシュ氏とベッセント財務長官は、①FRBは財政領域などに踏み込み過ぎず、任務を本来の範囲にとどめるべき、②FRBのバランスシートが巨額化した結果、資本配分がゆがみ、インフレが上昇して経済の二極化が進んだ、③FRBの独立性が重要である、といった見解で共通しています。
ウォーシュ氏は、化粧品大手エスティ・ローダーの創業家一族と結婚しました。ウォーシュ氏の義父に当たるローダー氏は、トランプ大統領に多額の献金をしてきた共和党支持者としても知られています。
ウォーシュ氏の金融政策観
ウォーシュ氏の金融政策スタンスは、経済状況に応じて柔軟に変化すると見込まれます。ウォーシュ氏はFRB理事時代に低金利政策やQEを批判していたことで知られますが、常にタカ派(金融引き締めに前向き)とは限りません。
例えば2018年末にはドラッケンミラー氏との共著で、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿し、当時進んでいた利上げとQT(量的引き締め)という「二重の引き締め」を速やかに停止すべきだと主張しました。また、理事時代も大規模な金融緩和を含む重要な政策決定で、必ずしも反対票を投じ続けたわけではありませんでした。
足元のウォーシュ氏は、AIの普及による生産性の向上を背景に、インフレ率が低水準で推移しやすいとの見方を重視しているように見受けられます。このため当面は、利下げを志向すると予想されます。また、ウォーシュ氏はFRBバランスシートの縮小が望ましいとの考えを示しています。ただ、マネー・マーケットにストレスが生じている局面で、直ちにQTの強化を訴える可能性は高くありません。
AIによる生産性上昇によって高成長と低インフレが両立し得るとの発想は、1990年代のIT革命期に「ニューエコノミー」を唱えたグリーンスパン元議長を想起させます。FRBの任務を本来の範囲にとどめるべきだとの主張や、供給面(サプライサイド)の改善を重視する姿勢からは、伝統的な保守共和党に近い思想を持つ様子がうかがえます。また、ウォーシュ氏は、コロナ禍以降のインフレ急上昇がFRBバランスシートの膨張による結果であるとの見方を取っており、マネタリスト的な側面も持ち合わせていると言えます。
なお、パウエル議長の下でも、今後の利下げの妥当性を巡りFOMC(米連邦公開市場委員会)参加者の見方は大きく割れつつあります。ウォーシュ氏の下で利下げが進むかを見極めるには、ジェファーソン副議長やウィリアムズNY連銀総裁といった「中道寄り」の参加者が、生産性上昇によるインフレ減速というウォーシュ氏の見立てに同調するかが重要になります。
(注)敬称・役職略。年末値。丸印は中央値。斜体太字は26年投票権あり。四角の黒枠はFRB理事。
(出所)FRBより野村證券市場戦略リサーチ部作成
FRBの独立性について、ウォーシュ氏は「トランプ大統領が利下げを主張している」という理由だけで利下げを妥当と判断するとは考えにくいです。ただし、FRB理事会が地区連銀総裁を解任するリスクは、今後も残り得ます。
ウォーシュ氏の就任スケジュールは?
ウォーシュ氏は、早ければ2026年3月の会合から理事としてFOMCに参加し、その後パウエル議長の任期満了後に新議長に就任して6月の会合を迎える、という日程が想定されます。
トランプ政権の閣僚から理事に就いたミラン氏の任期満了は1月31日とされています。ウォーシュ氏はまずミラン氏の後任として理事に就任する可能性があります。理事や議長に就任するには、大統領の指名後、上院の過半数による承認が必要です。ミラン理事は規定に基づき、後任が承認されるまでは理事職にとどまる見通しです。
ウォーシュ氏の承認を巡っては、トランプ政権がパウエル議長の弾劾に動く構えを見せたことに対し、共和党議員からも反発が強まった点が障害となっています。特に、FRB人事の承認審議を担う上院銀行委員会のティリス共和党議員は、弾劾やFRBの独立性を巡る問題が解決しない限り、FRB人事を承認しない意向を示しました。ティリス議員は1月30日、指名されたウォーシュ氏を適任と評する一方で、弾劾問題が解決しない限り、議長を含むFRB人事を承認しない考えを改めて表明しました。
もっとも、ウォーシュ氏は共和党寄りで、FRBの独立性も一定程度確保されると見込まれることから、上院議員の賛同を得やすいとの見方があります。1月30日にはホワイトハウスが、ウォーシュ氏の指名を複数の上院議員が称賛していると公表しました。ウォーシュ氏は上院承認プロセスの一環として公聴会で証言するため、その発言内容が改めて注目されます。公聴会での説明次第では、共和党議員が「ウォーシュ氏の下でFRBの独立性が担保される」との見方を強め、承認に動く可能性もあります。
なお、新議長が理事を兼ねて就任する場合、上院は両者の承認手続きを一括で進めるのが通例です。そのため、ミラン氏の後任としての理事承認の局面で、パウエル議長の後任としての新議長承認も同時に行われる可能性があります。
- 野村證券 市場戦略リサーチ部 シニア金利ストラテジスト
小清水 直和 - 米国市場を担当。経済・金融政策・政治といったファンダメンタルズに、投資家ポジション・規制動向といった需給要因を加味し、金利見通し・投資戦略を提供。2007年野村證券入社。2007~2010年日本経済エコノミスト、2011年より金利ストラテジーを担当。2013~2015年在英日本大使館経済専門調査員。2015年より現職。
※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。