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「投資して良かった人」の研究

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投資して良かったと思っている人と、投資して失敗したと思っている人の差はどこにあるのだろうか。この差は、当人のその後の行動だけではなく、その家族・友人・知人の考えや行動にまで強い影響があるので重要だ。ここで、「投資して良かったかどうかは投資成果の良し悪しで決まるだけだ」と考えるのは単純に過ぎる。人によって投資で重視する点や投資期間が異なり、満足度に影響するからだ。また事後的な投資成果を事前の投資判断に使うことはできないという当たり前の事実もある。

青山学院大学で行われた今年の日本ファイナンス学会で、筆者と野村アセットマネジメントの胡桃澤氏・森田氏が共同で行った報告『投資成績が「良かった」のはどんな投資家なのか?』は、前述の問題を国内の個人投資家の広域アンケート調査をもとに研究している。この研究で分析したのは、人が投資をする際に重視していることや想定投資期間と満足度との関係である。

まず投資をする際に国内の個人は、投資商品のコストの安さや運用実績の良さ、将来の運用の見通しの良さといった一次的なものに加え、それらがわかりやすかったかどうかも同様に重視している。関連して、新しい世代では従来メディアよりもSNSを重視している。特に会社発よりも個人発の情報を重視するようになったと言うのは、有効なチャネルの時代的な変遷を伺わせる。他にも多くの点を検討して投資していることが確認されたが、総じて「投資して良かった人」が多数を占めているのは、まず参加してみることの重要性を示している。

一方で、個別の統計分析で次のような結果も得られた。

  • 中長期投資をしている人々は自身の投資成績に満足しているが、短期投資をしている人々はそうではない。
  • 投資する際に「分配金・配当の多さ」、「短期で利益が見込めること」、「元本割れしにくいこと」を重視して商品選択をする多くの人々は自身の投資成績に不満足である。

 広くこれからの「金融教育」においては、投資家が見たいことを見せるだけではなく、結果的に満足度に繋がるような情報を適切な方法・チャネルで提供していくことが、継続的・長期的な投資行動に繋がるということだろう。

(クオンツ・ソリューション・リサーチ部 大庭 昭彦)

  • 野村週報 2022年10月3日号「資産管理」より
大庭 昭彦

野村證券株式会社金融工学研究センター エグゼクティブディレクター、CMA、証券アナリストジャーナル編集委員、慶應義塾大学客員研究員、投資信託協会研究会客員。東京大学計数工学科にて、脳の数理理論「ニューラルネットワーク」研究の世界的権威である甘利俊一教授に師事し、修士課程では「ネットワーク理論」を研究。大学卒業後、1991年に株式会社野村総合研究所へ入社。米国サンフランシスコの投資工学研究所などを経て、1998年に野村證券株式会社金融経済研究所に転籍、現在に至るまで、主にファイナンスに関わる著作を継続して執筆している。2000年、証券アナリストジャーナル賞受賞。

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