江戸時代の経済から学ぶ(前編)

2025年の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺(つたじゅう・えいがの・ゆめばなし)〜」は、江戸時代中期、8代将軍徳川吉宗による享保の改革(1716年~)の後、田沼意次、松平定信らの改革が行われていた18世紀後半が舞台になっています。学校の社会科などで習ったことを思い出している方も多いのではないでしょうか。
江戸時代後半から幕末にかけて災害や飢饉が頻発し、江戸幕府や諸藩も財政の悪化に苦しんだ時代でした。吉宗は財政悪化に対処するために、倹約令を打ち出す一方で年貢(税金)の負担を増やしました。その結果、百姓一揆が相次ぎ、農業生産量の低下、人口減少が進みました。一方で、石見銀山の生産量の減少で通貨供給量が落ち込み、デフレが続きました。こうした時代に登場したのは田沼意次(たぬま おきつぐ)でした。

江戸の三大改革(享保、寛政、天保)や新井白石の助言による「正徳の知」など様々な改革が行われてきた中で、現在の我々が学べることは何か。本コラムでは、田沼意次、上杉鷹山、二宮尊徳といった偉人たちの活動を見ていきましょう。
質素倹約が必ずしも正解ではない ~老中・田沼意次の斬新な経済政策~
1719年に紀州藩士から徳川吉宗の旗本に抜擢された田沼意行の長男として生まれ、1735年に9代将軍・徳川家重の小姓となったことを皮切りに出世を重ね、1767年には10代将軍・徳川家治の側用人となります。この時が「田沼時代」の始まりとされます。

田沼意次は、かつて日本史の教科書では「汚職」のイメージが付いていたこともあります。しかし、最近の研究では、これに異を唱える学者も増えてきています。
意次は大奥の規模縮小などの倹約による歳出削減は継続しましたが、重農主義から重商主義への転換、農民に対する重税を行わずに実現した財政改革、インフレを伴わないリフレーション(通貨膨張)政策による景気刺激など、当時としては斬新な経済政策を行ったことが高く評価されています。
田沼意次の主な経済政策のポイント
- 歳出の削減:倹約令
- 収入の増加:経済拡大による税収増
- 重農主義から重商主義へ産業政策の転換
- リフレーション(通貨膨張)政策による景気刺激
- 民間資金を活用した新田開発の推進
- 外国貿易の推進

リフレーション(通貨膨張)政策とは
リフレーションとは、通貨供給量を増やすことで、経済活動を活発化させ、デフレを食い止める政策です。近年の「アベノミクス」もこの一つの政策であったといえます。
当時の日本では、江戸では金が大坂では銀が主要な決済単位となっていました。小口の支払いに使われた銅や鉄で作られた銭貨を含めると3つの通貨が混在して流通しており、江戸時代初期から田沼時代の前までは、銀貨は重さによって価値が決まる秤量(ひょうりょう)貨幣といわれるもので、両替商や商人たちは天秤で重さを計ってその価値を算出していました。
しかし、この制度は大きな問題を起こしていました。
まず第一に、通貨間の換算レートが変動していたために、換算が大変だったことです。一方で、このことは、両替商たちに多大な利益をもたらし、大きな利権を生むことになりました。
第二には、金銀鉱山の産出量が減少したことや長崎貿易の赤字による銀の流出、貯蓄手段の乏しかった時代の中で商人たちの貨幣退蔵が進んだことから、通貨流通量が減少しデフレが進みました。
第三には金貨に対して銀貨の減少が大きく、金安、銀高が進んだことです。このため、大坂におけるデフレ傾向は江戸と比べても顕著でした、当時の日本最大の経済都市は大坂で、米の最大の取引市場も大坂にありました。このため、米価も低迷。年貢に大きく依存していた幕府や藩の財政、武士の家計をも大きく悪化させていました。
こうした中、田沼意次は後に勘定奉行となる川井久敬(かわい ひさたか)をとりたて、通貨改鋳に乗り出します。川井は、1765年に五匁銀貨を発行し、1両=5匁銀貨12枚の金銀固定レート制を採用しました。幕府による権威の下で、銀を一定の価値を持たせる「係数通貨」とし、事実上の金本位制が採用されました。また、このことは銀貨を取引に使いやすいようにすることで、商人による貨幣退蔵を防ぎ、経済活動を刺激する目的がありました。
さらに川井は1772年に南鐐二朱銀貨(なんりょうにしゅぎんか)という新通貨を発行します。金貨と銀貨の比率を従来よりも銀高にしました。幕府には通貨発行益が発生し、幕府の財政赤字補填にも貢献しました。
幕府による通貨の改鋳は幕末にかけてたびたび行われましたが、幕府の財政補填のための通貨発行差益の獲得という要素が強く、急速なハイパーインフレーションを起こし、庶民の不満もあり倒幕につながっていきました。これに対して、田沼時代のリフレーションでは経済活動も大きく伸びたため、ひどいインフレがおきることはありませんでした。しかし、田沼意次は1784年に若年寄を務めていた嫡男田沼意知の暗殺や、1786年の将軍家治死去の後、老中の辞任に追い込まれ失脚します。火山の噴火や冷害による飢饉で米価が高騰し、庶民からの批判も高まる中、1788年にその生涯を閉じます。
日本史の教科書では三大改革や新井白石による「正徳の治」など、質素倹約を評価するような記述が多く、現代でも質素倹約は美徳のように扱われています。質素倹約だけでは財政改革は実現せず、文化の振興もできません。「タヌマノミクス(=田沼意次の経済政策)」の功罪だけでなく、なぜ彼が守旧派の幕閣たちの批判を受け、失脚したのかも現代を生きる我々に多くの教訓を与えてくれるものと期待されます。
次回の【江戸時代の経済から学ぶ(後編)~米沢藩中興の祖・上杉鷹山と報徳思想・二宮尊徳から学ぶ~】は、ジョン・F・ケネディ大統領も尊敬していたと言われている上杉鷹山と、報徳思想を唱え農村復興政策を行った二宮尊徳について触れていきます。
編集協力:野村證券株式会社 投資情報部 山口 正章
編集/文責:野村ホールディングス株式会社 ファイナンシャル・ウェルビーイング室
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