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【3分で読める】江戸時代の経済から学ぶ(後編)

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前回の記事である【江戸時代の経済から学ぶ(前編)質素倹約が必ずしも正解ではない~老中・田沼意次の斬新な経済政策~】では、重商主義への転換や税収増を目指した田沼意次の政策に触れてきました。その後、落首で「白河の清きに魚も住みかねて もとの濁りの 田沼恋しき」など庶民の不興を買った質素倹約にこだわった松平定信による寛政の改革を経て、時代は江戸時代後期・幕末へと進んでいきます。

本コラムでは、松平定信と同時代に活動した、米沢藩中興の祖・上杉鷹山と、報徳思想を唱え農村復興政策を指導した二宮尊徳について説明します。

ジョン・F・ケネディ大統領も尊敬~上杉鷹山の「伝国の辞」~

2025年1月20日、アメリカではドナルド・トランプ氏が史上最年長78歳で第47代大統領に就任し、首都ワシントンの連邦議会議事堂で就任演説を行いました。トランプ大統領からさかのぼること64年、1961年1月20日に選挙で選ばれた大統領として史上最年少43歳で就任式に臨み、歴史に残る就任演説を行ったのがジョン・F・ケネディ第35代大統領です。ジョン・F・ケネディ大統領の演説は「あなたの国があなたのために何ができるかを問うのではなく、あなたがあなたの国のために何ができるのかを問うてほしい」という内容で、米沢藩第9代藩主・上杉鷹山(治憲)の「伝国の辞」に影響を受けたとも言われています。

上杉鷹山の銅像(米沢市の上杉神社)
出所:野村證券投資情報部

上杉景勝の時代の最盛期には120万石の知行のあった米沢藩は、関ケ原の戦いで敗れたことや、世継ぎ問題での不祥事などから、15万石まで大幅に減封されてしまいます。言い換えれば、月収120万円の家計が同15万円になったようなものです。上杉鷹山は、窮乏していた米沢藩の財政を立て直したことで「中興の祖」として尊敬され、明治時代には内村鑑三が1894年に著した「代表的日本人」の中で「愛民」「質素倹約」「勤勉」といった精神を挙げ紹介しました。ジョン・F・ケネディは内村鑑三の著書を読み、上杉鷹山を尊敬していたとも言われています。

「伝国の辞」三ヶ条

一、国家は先祖より子孫へ伝え候国家にして我私すべき物にはこれ無く候

一、人民は国家に属したる人民にして我私すべき物にはこれ無く候

一、国家人民の為に立たる君にて君の為に立たる国家人民にはこれ無く候

右三条御遺念有間敷候事

1点目は「国(藩)は先祖から子孫へ伝えられるものであり、我(藩主)の私物ではない」、2点目は「領民は国(藩)に属しているものであり、我(藩主)の私物ではない」ことを、3点目は「国(藩)・国民(領民)のために存在・行動するのが君主(藩主)であり、”君主のために存在・行動する国・国民”ではない」ことを示しています。

また、詠み人に関しては諸説ありますが、「為せば成る為さねばならぬなにごとも成らぬは人の為さぬなりけり」という名言も伝えられています。ジョン・F・ケネディの娘、キャロライン・ケネディ元駐日大使が米沢市を訪れた時のスピーチ「父は、人は一人でも世の中を変えることができる。皆やってみるべきだ。とよく語っていました」という内容からも、ケネディ家がいかに鷹山から感化されていたかをうかがい知ることができます。

キャロライン・ケネディ元駐日大使の講演記念碑(米沢市の松岬神社)
出所:野村證券投資情報部

これらの言葉から私たちは何を感じ、考えるべきか様々な示唆を与えてくれています。

「徳を積む」ことの重要さ~報徳思想・二宮尊徳~

小学校等の前に設置された薪を背負いながら読書をする像が思い出される二宮尊徳は、19世紀前半・江戸時代後期の経世家、農政家、思想家で本名を二宮金次郎といい、幕臣名である尊徳は正式には「たかのり」と読みます。現在の神奈川県小田原市にあった相模国小田原藩領栢山村の農家に生まれ、洪水で崩壊した生家の再興に成功したことを皮切りに、小田原藩の家老家の家政立て直しや、経世済民を目指して報徳思想を唱え、農村復興で実績を上げました。晩年には幕臣に取り立てられ、日光神領の財政改革に力を注ぎました。

継承者たちが取り組んだ経済と道徳の融合(小田原報徳二宮神社にある銅像)
出所:野村證券投資情報部

二宮尊徳の生誕地小田原にある報徳二宮神社には「経済なき道徳は戯言であり、道徳なき経済は犯罪である」が掲げられています。これは、尊徳自身の言葉でなく、後年、報徳思想の継承者たちが「経済」と「道徳」の融合のために使った表現のようです。

ちなみに、 「経済」の語源は、中国の古典にある経世済民(世を經さめ、民を濟ふ)で政治・統治・行政全般を指していました。明治時代になり「Economy」の訳語として使われるようになり、中国に逆輸出されたという歴史があります。体系的な経済学や経営学を学んだはずがない二宮尊徳の教えが、今日でも通用する経済政策や経営のあり方と整合的になっている点は注目に値します。

報徳思想の基本精神の概要について説明文をまとめた図。経済と道徳の融和を訴え、私利私欲に走るのではなく社会に貢献すれば、いずれ自らに還元されると説く思想。「至誠」「勤労」「分度」「推譲」。
注:報徳思想とその概要は小田原報徳実践会より引用
出所:野村證券投資情報部作成

二宮尊徳の思想は「報徳思想」と呼ばれています。至誠・勤労・分度・推譲に基づいてそれぞれが「分」に応じた生活を守り、余剰分を拡大再生産に充てることの重要性を強調しています。この報徳思想を実践した財政再建策は総称として「報徳仕法」と呼ばれており、藩や旗本知行所など領主財政を対象としたもの、村を対象としたもの、家を対象としたもの、があります。報徳思想は日本経済の礎を築いた渋沢栄一や安田善次郎、昭和に活躍した松下幸之助、土光敏夫など多くの実業家に影響を与えたと言われています。企業の経営のあり方だけでなく、個人や家計についても多くの示唆のある思想かもしれません。

二宮尊徳もまた、内村鑑三による著書「代表的日本人」の中で紹介されています。

後編では上杉鷹山と二宮尊徳を、前編では江戸時代の経済背景と田沼意次について見てきました。少子高齢が進み、災害などの不安もある現代だからこそ、社会と個人の関係に着目し、歴史上の偉人たちから学ぶことを見つけてみませんか。

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編集協力:野村證券株式会社 投資情報部 山口 正章
編集/文責:野村ホールディングス株式会社 ファイナンシャル・ウェルビーイング室

記事公開日:2025年2月14日

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