住む場所で変わる?都市部と郊外のお金の話① 同じ年収でも、都市部と郊外で家計が変わる理由

同じ年収でも、どこにお金をかけるかは家庭によってさまざまです。例えば住む場所が違うと、家計の組み立て方や考え方は大きく変わります。
このシリーズでは、都市部と郊外の暮らしを比べながら、家計にどんな違いが生まれるのかをわかりやすく解説していきます。
第1回:同じ年収でも、都市部と郊外で家計が変わる理由
今回は、物価データをもとに都市部と郊外で何にお金がかかりやすく、その違いが家計全体をどう変えていくのかを見ていきます。また、都市部と郊外を単純に比較するだけではなく、家計を自分ごととして捉え直す視点を整理します。
なぜ、同じ年収でも家計の中身が変わるの?
「都市部は郊外より何を買うにも高そう」
「郊外に住めば家賃や生活コストを抑えられそう」
住む場所による家計の違いは、「どちらが得か」という見方で捉えられがちです。
しかし同じような年収であっても、都市部に暮らす家庭と郊外に暮らす家庭とでは、家計の内訳が大きく異なります。
例えば、都市部では住居費の負担が重くなりやすい一方で、公共交通の利便性が高く、車を必要としない生活ができる傾向にありますし、郊外では、家の広さがある半面、移動のための車関連費や交通費が家計に占める割合が高くなる傾向にあります。つまり、都市部と郊外、どちらも同じ年収だとしても、住む場所によってお金がかかる内容そのものが変わります。
総務省の「2024年平均消費者物価地域差指数」で地域間の生活コストの差をみると、全国の物価水準を100とした場合、都道府県別の総合指数は東京都が104.0で最も高く、群馬県が96.2で最も低く、その差は1.08倍です。
この差を金額で示すと、総務省が発表した令和7年の「家計調査報告」による2人以上世帯の平均消費支出(月31万4,001円)を基準にした場合、東京都と群馬県では月に約2万4,000円、年間で約28万8,000円の差になります。数字だけを見るとわずかに思えても、1年分で考えると家計への影響は意外に大きいことがわかります。さらに費目ごとに見ると地域ごとにより差が出ていることがわかります。

また、「住居」が最も高いのは、東京都の127.2ですが、「光熱・水道」が最も高いのは、北海道の119.6。つまり、生活費の地域差は、「都会は高く、地方は安い」と簡単に分けられる話ではなく、どの費目に差が出やすいかで見たほうが実態に近いのです。
大切なのは、都市部と郊外を損得や優劣で比べることではありません。住む場所が違えば、家計の組み立て方そのものが変わり、その結果として暮らしの見え方も変わります。こうした差は、家計のやりくりの上手さだけで生まれるものではありません。どこに住み、どんな暮らしを優先するかという選択の積み重ねが、生活を形づくっているのです。
家計の差を生むのは、年収より「お金の使い方」
年収に大きな差がなくても、都市部に暮らす場合と郊外に暮らす場合とでは、家計の中身が大きく異なることが先ほどの指数で見えてきましたが、この違いを読み解くうえで鍵になるのが、住居費、移動コスト、教育費など、「何に重点を置いてお金を使っているか」という視点です。
たとえば、都市部で暮らす共働き世帯では、駅から徒歩圏内の住まいを選び、通勤時間を短縮し、保育園や学校へのアクセスを重視するケースが多く見られます。その結果、住居費や教育サービス費は家計の中で大きな割合を占めますが、日常の移動は公共交通で完結し、車を持たないという選択をしている家庭も少なくありません。
一方で郊外では、より広い住まいを確保しやすく、子ども部屋や家族で過ごす空間にゆとりを持つことができます。ただし、通勤や買い物、子どもの送迎など、日常の移動に車が欠かせず、複数台所有している家庭もあります。住宅費は抑えられていても、移動にかかるコストは継続的に家計に影響します。
ここで大切なのは、「住宅にお金をかけすぎている」「車を何台も持つのは贅沢」といった表面的な見方で判断しないことです。支出している項目は違っていても、どちらもその家庭が優先したい暮らしの選択が反映された結果と言えます。
住む場所は、その家庭の「価値観」と「条件」のあらわれ
住む場所には、その家庭のお金の使い道や価値観が表れやすいと言われます。実際には、「何を大切にしたいか」という思いと、仕事、通勤、子育て、教育、介護、実家との距離、住宅価格といった現実の条件とが重なり合い、その折り合いの中で住まいは選ばれていきます。住む場所は、理想だけで決まるものでも、条件だけで決まるものでもなく、その両方が混ざるものだといえます。
特に住居は、今日明日に簡単に変えられるものではありません。通信費や保険料の見直しのように短期間で調整できる支出とは異なり、住む場所は一度決まると、その後の暮らしや家計に長く影響します。駅までの距離、車の必要性、子どもの送り迎え、休日の過ごし方など、日々の生活行動にも大きな影響を与えます。
そう考えると、郊外に住んでいる人は、便利さよりゆとりある空間や環境を選んだのかもしれませんし、都市部に住んでいる人は、住宅の広さより時間や利便性を選んだのかもしれません。見えている支出の違いは、損得ではなく、「何を優先した結果なのか」という視点で見たほうが、実態に近づきます。
家計簿は、家庭の意思決定の情報基盤
こうした違いを考えるとき、「家計簿」をどう見るかという視点が重要になります。
家計簿というと、一般には「何にいくら使ったか」を確認するためのものと思われがちです。しかし、家計簿は単なる支出記録ではなく、住居費、移動コスト、教育費、余暇などにどう配分してきたかがわかる、いわば意思決定の情報基盤・データベースとして読むことができます。何にお金をかけたかだけでなく、何を優先し、何に価値を感じて支出してきたかが、家計簿には表れているのです。
ですから、家計簿を単なる数字の羅列として見ると、本質を見誤りやすくなります。例えば、住居費を下げれば家計の負担は減りますが、その代わりに通勤時間が増えて、子どもと過ごす時間が減ってしまうかもしれません。車を減らして家計の支出が下がったとしても、暮らしの自由度や買い物の不便さが増す可能性があります。家計の見直しは、単に節約するための作業ではなく、どの価値を大切にするかを選び直す作業でもあるのです。
つまり、価値観と現実の条件との折り合いをつけて見直した家計は、その家庭が積み重ねてきた選択の結果でもあります。だからこそ、家計の違いを表面的な印象だけで比べるのではなく、その背景にある考え方や条件まで含めて見ていくことが大切なのです。
まとめ:家計の正解は「どこに住むか」ではなく「何を優先するか」
このように家計を見直すときに大切なのは、「そこに住むと得かどうか」を考えることではありません。同じ年収でも、住む場所が違えば、家計の支出のバランスが変わるのは自然なことです。
自分たちは何を優先して、この家計になっているのか。その選択が「自分たちの暮らしにとって心地よいものになっているか」という視点が大切です。家計は単に収支を整えるものではなく、日々の安心感や納得感、将来への見通しといった、暮らしの質にも深く関わっています。だからこそ、「この使い方は自分や家族の価値観に合っているだろうか」と立ち止まって考えてみることが大切です。
そして家計簿も、単なる記録ではなく、価値観を映す鏡として捉えることができます。なぜその項目に使っているのかを見ることで、家計は「大切にしたい暮らしを選び直すツール」へと変わります。表面的な数字や条件にとらわれないこと。それが、自分たちらしいお金の使い方や暮らし方を見つめ直す一歩になるのではないでしょうか。
編集協力:寺澤真奈美 2級ファイナンシャル・プランニング技能士
編集/文責:野村ホールディングス株式会社 ファイナンシャル・ウェルビーイング部
記事公開日:2026年4月24日


