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2022.03.03 NEW

技術の確立で暮らしはどう変わる? ―開発が進む全固体電池の魅力と展望

技術の確立で暮らしはどう変わる? ―開発が進む全固体電池の魅力と展望のイメージ

世界でEV(電気自動車)化の動きが加速する中、安全で航続距離が長く、低コストで生産ができる電池の開発が求められている。そこで期待されているのが「全固体電池」だ。全固体電池は、正極と負極の間でイオンを伝達させる物質「電解質」を固体にした電池で、電解質が液体であるリチウムイオン電池より安全性が高く、EVに搭載すれば航続距離を伸ばすことや、充電時間を短縮することが可能になると言われている。

日本では政府が全固体電池の技術開発を後押しし、一部では開発が始まっている。また、日本の大手自動車メーカーは、全固体電池を搭載した車両で試験走行を行い、さまざまなデータを得ている。実用化への期待は高まっており、今後、全固体電池の量産技術を確立した企業は、EV市場でゲームチェンジャーとなる可能性があるだろう。また、将来的にはスマホやウエアラブル端末などへの搭載も予想され、1回の充電で長時間使える時代が来るかもしれない。

今回は、全固体電池の開発の様子や性能について紹介する。あわせて、全固体電池の実用化によって未来の生活がどう変わるのか、今後の展望を見てみよう。

次世代の電池と言われている理由とは?

全固体電池は、EVをはじめ、スマホやパソコンなどに広く使われているリチウムイオン電池に代わる、高性能な次世代の電池だ。実用化すれば、二酸化炭素を排出しないEVの普及に弾みがつきそうだ。

日本は、2050年カーボンニュートラルを宣言し、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする目標を掲げたものの、その道のりは厳しく、大胆な投資によるイノベーションが欠かせない。そこで、経済産業省は「グリーンイノベーション基金事業」により、経営課題としてカーボンニュートラルに取り組む企業を支援し、カーボンニュートラル実現のための応用・展開を期待している。基金が支援する「グリーン成長戦略」の重点14分野には「自動車・蓄電池産業」が含まれおり、その分野では、全固体電池も研究開発支援の対象になっている。

図1:グリーン成長戦略において実行計画を策定した重点14分野

図1:グリーン成長戦略において実行計画を策定した重点14分野

出典:経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」をもとに編集部作成

リチウムイオン電池は、リチウムイオンが電解液(電解質)という液体の中を通って正極・負極の間を移動することで、電気を放出したり蓄えたりしている。全固体電池も同様の仕組みだが、電解質が液体ではなく固体である点が大きく異なり、リチウムイオン電池の欠点を補うことが可能になる。

図2:従来のリチウムイオン電池と全固体電池の仕組み(イメージ)

図2:従来のリチウムイオン電池と全固体電池の仕組み(イメージ)

全固体電池が持つ魅力

一般的に使われている電池にはさまざまな種類がある。リモコンや置時計、懐中電灯などで使われているのは、アルカリ乾電池が多い。一方、スマホやタブレット端末、ノートパソコン、EVのバッテリーなどには、小さくて大容量の電力を備えることができるリチウムイオン電池が広く使用されている。

ただ、リチウムイオン電池は、電解液に揮発性の有機溶剤系の材料を使用しているため、液漏れによるショート(短絡)をすることがあり、発火・破裂などが生じるリスクがある。強い衝撃が加わるなどで火災事故に発展するケースがあり、「スマホが突然発火した」といった事故があるのはこのためだ。しかし、全固体電池は電解質が固体のため高温に強く、発熱量も小さいため、リチウムイオン電池より安全性が高いとされる

また、全固体電池は電解質が固体のため、リチウムイオン電池よりも劣化しにくいというメリットもある。スマホを長く使っていると電池が劣化して、「すぐに電池切れになる」「バッテリーを定期的に買い替えなければならない」といったことがある。全固体電池が普及すれば、それらの心配や手間が削減されるかもしれない。

ほかにも、全固体電池はリチウムイオン電池と比べて大容量であることや、作動温度範囲が広く高温や低温でも問題が生じないことなどが魅力として挙げられる。

全固体電池が使用できるシーンは?

全固体電池の普及が進みそうなのは、技術の確立を待ちわびているEV市場だろう。EVが日本より普及している国では、走行中に爆発を起こすなど、火災事故が数多く報告されている。火災は、事故の衝撃などでリチウムイオン電池がショートして、大きな電流が流れて発熱することなどが原因で起こる。これからEVが本格的に普及すると、日本でも車両火災が現在よりも増えるかもしれない。高温への耐熱性が高い全固体電池の搭載は、EVの安全性を高めるポイントになるのだ。また、全固体電池は容量が大きく充電時間が短い点でも、搭載するメリットが大きい。走行できる距離が長くなり、安全性が確保されれば、EV普及が一気に進む可能性が高まるだろう。

もちろん、全固体電池はEV以外の用途もある。国内のベンチャー企業は、開発した全固体電池を、発電所内の蓄電システムや太陽光発電と組み合わせた家庭用蓄電池、さらには、潜水機や航空機といった特殊な環境で使われる機械向けのバッテリーへの展開も想定している。身近な用途では、スマホやタブレット端末、ノートパソコンなど、身近なデバイス機器の電池だろう。現在、リチウムイオン電池が使われているシーンの多くで、全固体電池に置き換わる可能性がある。

実際に、一辺が数ミリメートル程度の超小型の全固体電池がすでに製品化されている。全固体電池の技術が向上すれば、電子機器の小型化がさらに進みそうだ。

製品化・量産化に向けた課題は多い

全固体電池の量産化が実現すれば、今後いっそう普及が期待されるEVの分野で、市場をリードできるかもしれない。そのため、多くの企業が全固体電池の技術確立に向け、研究に取り組んでいる。日本の自動車メーカーも、2020年代に全固体電池を搭載したクルマを発売する計画を立てている。

しかし、製品化・量産化のハードルは高い。前述の日本の大手自動車メーカーも、試験走行の結果から、EV用の電池にふさわしい電解質の材料開発を中心に、開発を続ける必要性があると述べている。また、コスト面では、一般に流通しているリチウムイオン電池を上回り、低コストで生産するための技術が求められるだろう。

とはいえ、全固体電池の技術は着実に前進している。国内のベンチャー企業が2021年5月に発表したプレスリリースによると、電極を含めほぼ全てを樹脂で形成する樹脂系全固体電池の技術を確立し、量産を目指す段階に入った。この電池は配線や外装といった部品の点数を減らすことが可能で、従来のリチウムイオン電池よりも生産工程を短縮することができる。そのため、製造コストや発注から納品までの時間の削減ができる。

量産開始当初は発電所内の蓄電システムといった特殊用途を中心に生産するものの、将来的には家庭などに設置される定置用蓄電池や各種公共交通機関のバッテリーにも拡大させていく予定だ。低コスト化と量産化が進めば、どの家庭にも全固体電池の蓄電池が設置される未来が訪れる可能性がありそうだ。

日本の技術は優れており、電池に関する特許出願数は世界でもトップクラスだ。電池の分野では近い将来、イノベーションが期待されており、その際には日本企業が世界をリードする可能性がある。政府も企業の技術開発を後押ししているので、全固体電池の分野には今後も注目しておきたい。

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