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メタバースがもたらす「快適な世界」―仮想空間でのビジネスチャンスはどこにあるか―

メタバースがもたらす「快適な世界」―仮想空間でのビジネスチャンスはどこにあるか―のイメージ

最近、ニュースなどでも多く取り上げられている“メタバース”。1日に19億人もの人々が利用する巨大なSNSプラットフォームを展開するアメリカの企業が、メタバースを意識して社名を変えたことでも大きな注目を集めた。国内でも2022年3月に大手企業役員や大学教授が理事として参画している団体が設立されたり、経済産業省が仮想空間の可能性と課題について報告書を取りまとめたりと、注目度が高まっていることが伺える。

本記事では、『メタバースとは何か ネット上の「もう一つの世界」』(光文社新書)の著者で、中央大学 国際情報学部教授の岡嶋裕史(おかじま ゆうし)さんに、メタバースとは果たして何なのか、そしてメタバースが今後の私たちの生活やビジネスをどう変えていくのか、その影響について伺った。

メタバースはすでに多くの人が経験している世界の延長にある

メタバースとは、「Meta(超越)」と「Universe(宇宙)」を組み合わせた造語だ。アメリカの大手金融グループは、メタバース市場は2030年までに最大13兆ドル(約1,600兆円)に達する可能性があるとのレポートを出した。一般的にメタバースは、現実世界とは異なる仮想空間や、そこで提供されるサービスだと説明されており、現実の世界を拡張するAR(拡張現実)や、リアルとは異なるVR(仮想現実)をイメージする人も多い。しかし必ずしも、メタバースはヘッドセットなどを装着して、ゲームのような現実とは異なる世界を体験することと同義というわけではないようだ。岡嶋さんはメタバースの定義について、こう説明する。

「現状のメタバースは、さまざまな関連業界がそれぞれに都合のいい定義を主張しており、一般的な定義は定まっていません。それでも、『リアル世界とは異なる理屈で動く、自分にとって都合がいい快適な世界』という説明が多くの人や業界の共通理解となっており、当面はこれがメタバースの定義になると考えています」

では、「都合がいい快適な世界」とは何か。実は、これはすでに多くの人が経験していると岡嶋さんは指摘する。たとえば、SNSもそのひとつだと言う。価値観が合う人だけをフォローし、不快な情報や価値観が合わない人はブロックすることで、居心地のいいコミュニティーに浸ることができるからだ。

そしてもうひとつ、わかりやすい例としてはゲームだろう。

「リアルではできない冒険やバトル、空を飛ぶといった体験がゲームだとできる。これも『都合がいい快適な世界』のひとつです。他にも、コロナ禍でヒットした『あつまれ どうぶつの森』は、特にゴールを目指さなくてもユーザーが思い思いの時間を過ごせますよね。自分にとって都合のいい、自分好みの空間を作ることができるサービスがSNSだったりゲームだったりすると思います」

いずれもメタバースとして設計されたものではないが、ユーザーが快適に過ごせる空間を自ら創造して多くの時間を消費できるプラットフォームであり、ゲーム内での課金も活発だ。アバターを自分好みに着飾らせたり、ユーザー同士がコミュニケーションしたりする機能が充実しているうえ、ゲーム自体に終わりがなく、自分で世界を作り込むことができる。

要するに、私たちはすでにメタバース的なサービスに親しんでいる。多くの人は仕事や学校、勉強などの“本業”があるため、ゲームやSNSで過ごせる時間は限られているが、こうした限界を突破してリアルでしかできなかったことを実現していくことがメタバースなのだ。たとえば、メタバースの中で学校に通って勉強したり、職場がメタバースの中にあって上司や取引先とコミュニケーションしたり、デジタルツールを生産・販売するなどして生計を立てたりすることで、オフだけでなくオンの時間もメタバース空間で過ごせるといったことが考えられる。

しかし、なぜ今、メタバースが脚光を浴びているのか。岡嶋さんは「いずれ登場する概念ではあったが、コロナ禍で時計の針が大きく進んだ」と指摘する。コロナ前はオンラインの世界に長時間没頭するような過ごし方は社会的な理解を得にくかったが、あらゆる物事がオンライン化したコロナ禍では受け入れられやすくなったことが盛り上がりの背景にあると考えられると言う。

日本企業のメタバース・ビジネスにおける成功の可能性とは?

「注目すべきは、やはり社名を『Meta(メタ)』と変えた旧フェイスブックです。30億人近くのユーザー基盤を持つ同社がメタバースの“器”となるプラットフォームを提供すれば、それがスタンダードになる可能性は高い。同社以外にも参入する企業はあるでしょうが、いずれ主要なプラットフォームが絞り込まれ、その中で世界中の企業が、それぞれの強みを活かしたビジネスを展開することになるでしょう」

そのイメージとしては、ゲーム機向けにさまざまなゲームソフトが販売されているように、いくつかのメタバースプラットフォームに対して、さまざまな企業が独自の仮想空間を構築して競い合う形だ。さらに、それぞれの仮想空間内で旅行やライブを体験できるサービスや、アバターが身に着けるアイテムを提供するビジネスも考えられると言う。すでに、人気シンガーたちがオンラインゲーム内でイベントを開催して注目を集めたほか、いくつかの有名ブランドもゲーム内でアバターが身に着けるファッションアイテムの販売に乗り出している。

岡嶋さんは、「メタバースにおける日本企業の役割として、プラットフォームを握る可能性は高くないものの、コンテンツビジネスで成功できる可能性を秘めている」と指摘する。

「日本企業はメタバースとの親和性が高いゲームやアニメなどのサブカルチャーの分野で世界をリードしており、この強みを活かせば大きな存在感を示すことができるはずです」

その他の業界では、不動産業界からも「どうすればメタバース内で土地が売れるのか」といった問い合わせが多いそうだ。アバターの見た目や家にこだわりを持つ人が多いため、アパレル業界や不動産業界が初期にビジネスを立ち上げていく可能性があると言う。だが、長期的に見れば、メタバースは生活のほぼすべてをデジタルに置き換えることを目指しているため、最終的にはあらゆる産業に恩恵が及ぶだろうと岡嶋さんは予想する。

メタバース内でのビジネス成功のポイントとしては、「リアルを絡めない」ことだと岡嶋さんは言う。

「現時点で、リアルを代替するサービスや、リアルでの販売につなげようとするサービスよりも、メタバースの中で消費を完結するようなものを売ったほうが成功すると思います。特に、最初にメタバースの住人となる、流行や新しいものに敏感な層は、こうした価値にこだわる傾向があり、リアルを上回る体験をメタバース内で完結する形で得ることを求めています」

たとえば、人気アーティストのライブの場合、観客がパフォーマンスを見るだけではリアルと変わらず、むしろリアル空間を共有できない点で劣ってしまう。本人とコミュニケーションや記念撮影ができたり、自分もステージに上がったりといった現実のライブステージでは叶わない夢を叶えることこそが、メタバースの価値となる。リアルを超えた体験を創造することで、ユーザーを仮想空間に惹きつけることが求められているのである。

メタバースで、リアルとは異なる仮想空間にいる没入感を得るにはVRデバイスが不可欠だが、それを必須としてしまうとメタバース普及の妨げになる。当面は多くの人が持つスマートフォン上でサービスが展開されることになるだろうと岡嶋さんは予想している。

諦めていたことも、メタバースでなら叶えられる

今後メタバースが発展し、普及していくことで、どのような未来が訪れるのだろうか。岡嶋さんは、SNSやゲームの域を超えて、あらゆる人にとって「都合がいい快適な世界」がやってくると言う。

たとえば、メタバース上のオフィスなら満員電車に乗る必要もないし、会議のときだけ通話する単なるテレワークとは違って、気軽な雑談を交わすことも可能だ。また、年齢や容姿にコンプレックスを持つ人や性別に違和感を持つ人でも、理想のアバターを作ることができる。体が不自由な人や高齢者でも、メタバースの世界では制限なく自由に動けたり、激しいスポーツをしたりすることも可能になる。リアルの世界で実現できなかったことを、メタバースでは叶えることができるのだ。

そのために最も乗り越えるべき壁は、「人々の意識改革」だと岡嶋さんは言う。

「一般に広く普及するには、仮想世界で長い時間を過ごすことに対する抵抗感や偏見を払拭する必要があります。技術面の課題は企業間競争で解決できそうですが、人々の意識改革には時間がかかるかもしれません」

その他にも、たとえば、仮想空間で過ごす時間が長くなるほど体を動かさなくなるため、運動不足や肥満といった健康上の問題が懸念される。また、メタバースに没入し過ぎてリアルとの境界線がわからなくなるおそれも指摘されていると言う。

多くの課題が残されているとはいえ、私たちの生活を劇的に変えてしまう可能性があるメタバース。その先には、今とはまったく異なる新しいマーケットやビジネスチャンスが広がっているのかもしれない。

【お話をお伺いした方】
岡嶋 裕史(おかじま ゆうし)

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