2023.01.19 NEW
サウナの効果は健康だけではない! ビジネスパーソンこそ、サウナで“ととのう”べき
ブームを迎えているサウナ。2019年に放送されたテレビドラマなどにより、改めてその魅力が広まったといわれる。そして、2021年はサウナ用語の1つである「ととのう」が流行し、サウナに特化した施設やサブスクリプションサービスも続々と誕生している。「サウナ好き」を公言する著名人や会社経営者も多く、ビジネスシーンでの活用が注目されている。大人の社交場であり、自らを“ととのえる”場所でもあるサウナが、ビジネスの効率アップや健康面にどのような効果をもたらすのかを追ってみた。
サウナブーム・ルネッサンス! その実態は?
「サ活」なる造語が生まれる空前のブームとなっているサウナ。きっかけは、2015年に連載が開始され、その4年後にはテレビドラマ化された漫画にあるだろう。最近は各界の著名人や日本有数のIT会社のトップが「サウナ好き」を公言するなど、多忙なビジネスパーソンの間でもサウナが人気となっているようだ。サウナの本場フィンランドでは、「入ると友好の気持ちが生まれ、心の鎧が溶ける」といわれている。ビジネスシーンから国際外交の場まで、サウナが交渉事との相性も抜群に良いことがうかがえる。
そんなサウナ人気のなか、2021年には新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)流行の影響で、サウナ人口は前年と比較し約1,000万人が減少。そのうちの約8割を、年に1回以上サウナに入るライトサウナ―が占めている(図1)。
出典:一般社団法人 日本サウナ・温冷浴総合研究所調べ「【日本のサウナ実態調査2022】サウナ愛好者人口1000万減/Japan Sauna Survey 2022」をもとに編集部作成
日本全国1万人の成人男女を対象にしたインターネット調査。2021年12月に実施(18~69歳の男性5015人、女性4985人、推計人口に関しては各年の総務省統計局人口推計を用いたウエイトバックを行っている)
しかし、新型コロナの新規陽性者数が爆発的に増加したコロナ禍の時期においても、Twitterによる「サウナ」の投稿数は増加し続けている(図2)。サウナに対する関心は、依然として高いようだ。
また、新型コロナの陽性者数が急増した時期(第5波/2021年、第6波/2022年)に、個室サウナの投稿数が急増している。これは安全・衛生面から他の利用者との接触を避けてサウナを利用したいというニーズからだと考えられる(図3)。
図2および図3出典:ソーシャルワイヤー株式会社 @クリッピング調べ「サウナブームは止まらない! 最新人気サウナ施設&人気熱波師ランキング2022年版を発表! コロナ禍で「個室サウナ」の投稿数は調査開始月の2020年1月から約38倍に急増」
アットクリッピングのTwitter投稿調査サービスを使用したキーワード調査。2020年1月1日~2022年6月30日まで(2年6カ月間)。調査キーワードは、サウナ、個室サウナ関連(個室サウナ、個室型サウナ、ひとりサウナ、ソロサウナ、プライベートサウナ、貸切サウナ)、サウナ女子、サウナ施設名、人気熱波師・アウフギーサー。
「Twitter」は、Twitter,Inc.の商標または登録商標です。
このようなサウナブームを後押しするもう1つの要因は、強い影響力を持つ「インフルエンサー」の存在にもあるのだろう。「サウナー」と呼ばれる彼らは、新しいサウナ施設や楽しみ方などを発信しながらブームを牽引しているようだ。
「サ活」の多様化でビジネスパーソン向けのサウナ施設が続々登場
新しいサウナ施設やサービスなども続々と誕生している。例えば、健康的に働ける仕事場としての月額制のサービスオフィス『WORKING PARK EN』。 2021年11月にオープンされ、早くもビジネスパーソンの間で大きな話題を呼んでいる。健康促進型サービスオフィスのワーキングスペース内に、フィンランド式プライベートサウナが設置されており、心身のリフレッシュを図りながら集中力を高められる環境となっているためだ。
2022年4月にオープンした、完全予約・貸切制のサウナ『SAUNA OOO(オー)』も、「仲間うちで語り合える」コミュニケーションサウナというコンセプトから、ビジネスパーソンの注目を集めている。「茶室」からインスピレーションを受けたという和洋折衷型のフィンランド式サウナや、坪庭に見立てた水風呂、縁側をイメージした休憩スペース(内・外気浴場)で、仲間同士でじっくりと語り合える点が魅力だ。
脳をリフレッシュさせコミュニケーションの場ともなるサウナで、ビジネスも“ととのう”
サウナの利用法は、従来の健康増進のための入浴施設としてだけでなく、ビジネスシーンでの活用が今後も増えていくことが予想される。では、サウナは本当に健康やビジネスに良い効果を発揮するのだろうか。温泉やサウナについて医学的研究を行う温泉療法専門医である東京都市大学人間科学部教授・早坂信哉氏にお話を伺った。
「サウナ入浴は、血流改善の効果が期待できます。温熱によって血管が拡張し血流が良くなると、疲労物質が除去されてすっきりします。いったん上がった体温が下がるタイミングで寝床に入ると良い睡眠がとれます。寝入りばなの急激な体温の低下が睡眠の質を上げるのです」
また、リラックス効果については、「体が温まることによって副交感神経が刺激されるからです」と解説する。多忙なビジネスパーソンなら、睡眠の質を高めることがいかに重要かはご存じのはず。サウナは、適度に副交感神経を刺激して手軽に気分転換でき、良質な睡眠につながることが魅力なのだろう。
サウナ好きがよく言う“ととのう”という状態について早坂さんは、「まだ医学的には完全に解明されてはいません。高い温度への温泉入浴の研究結果から推定すると、おそらく急な温度刺激による脳内ホルモンの変化、特にβ-エンドルフィンの分泌による影響である可能性があります」と推し量る。β-エンドルフィンとは、脳内で働く神経伝達物質「エンドルフィン」の1つ。鎮痛効果や気分の高揚・幸福感などの作用があり、マラソンの「ランナーズ・ハイ」も同じ作用による現象だという。
個室サウナのビジネス需要が伸びている背景については、「個室サウナは、自由に自分の好きな温度や姿勢で楽しむことができます。人目を気にしなくてもいいので、よりリラックスできます」と、クローズドな環境により、さらなるリラックス効果が得られると指摘する。また、「使い方としては“リラックス”よりも“リフレッシュ”の感覚が強いのかもしれません」とも言い、新しいアイデアの創出にサウナが一役買っている可能性を挙げている。
ビジネスエンゲージメントとの関係については、「フィンランドに駐在していた会社員の方に話を聞いたことがあります。同国にはサウナを持っているオフィスが多く、商談で使うこともあるそうです。裸の付き合いで信頼関係も築けるようです」と語ってくれた。ビジネスで重要な、顧客との関係をいかに早く深めるかというアイスブレイクの手段としても、サウナは効果があるようだ。
とはいえ、「サウナ=万能」なわけでは決してなく、きちんとデメリットも認識した上で利用すべきだと、早坂さんは言う。特に、サウナ後に入る水風呂について、「急な水風呂は強い温度刺激となって血圧を急上昇させるため、いわゆる『ヒートショック状態』を引き起こす可能性があります」と警鐘を鳴らす。ヒートショックは、心臓の負担を増やし、心筋梗塞や脳卒中、不整脈などを起こしやすくなると考えられている。20~40代でも、「心筋梗塞や脳卒中は少ないと思われますが、急激な血圧上昇に伴う不整脈はあり得ます。また、サウナ後のビールが楽しみで水分補給をしない場合もあるかもしれませんが、脱水症、熱中症は若い方も十分に気をつけることです」と注意喚起を促した。また、飲酒後の利用についても、「サウナ内で寝入ってしまい、重度な熱中症ややけどを負うこと」への危険性にも言及した。
では、サウナをうまく活用するための方法は、どのようなものだろう。「慣れの度合いにもよりますが、1回『数分のサウナ→休憩』を3サイクル程度が一般的には良いでしょう。慣れていない場合は『80℃以下』『数分以内』『水風呂は避ける』など、とにかく無理をしないことが大切です」とアドバイスする。ちまたで言われている「サウナ→水風呂→外気浴でととのう」のパターンの善し悪しは年齢とも関係があるそうで、「慣れていない方でも、40歳代までならできる入浴法だと思います」と指摘。流行に流されず、自分を苦しめない、心地よい入浴法を心がけることが、サウナの上手な活用につながるようだ。「50℃程度のミストサウナもおすすめです。フィンランドの研究結果を見ても、安全に利用すれば、心疾患や脳卒中を防ぐ効果も期待できます」と、通常のサウナ以外の選択肢も提示してくれた。
「無理のない自分に合った入浴法」に気をつけさえすれば、専門家も太鼓判を押してくれる「サ活」。「サウナ室内ではなるべく会話を避ける」「水風呂は静かに入る」「外気浴スペースを占領しない」などの基本マナーをきちんと守った上で、サウナで有意義なひとときをすごし、日々多忙なビジネスパーソンの心身を“ととのえて”みてはいかがだろう。
- 【お話をお伺いした方】
- 早坂 信哉(はやさか しんや)
- 東京都市大学人間科学部教授・学部長。温泉やサウナについて医学的調査研究を行う温泉療法専門医として多くのメディアにも出演。20年以上にわたり3万人以上の入浴を調査。一般財団法人日本健康開発財団温泉医科学研究所所長。著書に『おうち時間を快適に過ごす 入浴は究極の疲労回復術』(山と溪谷社)など。