2023.04.06 NEW
インバウンド需要の回復や越境ECの拡大! ウィズコロナの経済に光明が!
訪日外国人旅行客によって生み出されるインバウンド需要が、再び拡大してきた。
政府がウィズコロナ時代を見据えた出口戦略を模索する中、2022年10月に外国人が日本へ入国する際の水際対策が緩和された。これによって、2023年には約3年ぶりに訪日外国人によるインバウンド市場の活況が期待され、実際、徐々にポジティブな効果が表れている。
この動きの背景には、コロナ禍で見えてきた日本の強みがあった。これからのウィズコロナ時代、新しいインバウンドビジネスはどのように変化するのかを探ってみよう。
ウィズコロナでインバウンドは回復傾向!
日本を訪れる外国人の数は年々増加し、2018年には初めて3,000万人を超えた。コロナ禍前の2019年には、訪日外国人数が3,188万人を数えた。訪日外国人数が増えれば、それだけ日本経済にも良い影響を及ぼす。
観光庁の「訪日外国人消費動向調査」における2019年の訪日外国人旅行消費額は年間約4兆8,000億円に及んだ。また、経済産業省の調べによると、インバウンド需要による飲食・宿泊などへの直接的な効果に加え、それを支える産業への生産波及効果は7兆7,756億円で、消費額の1.75倍にもなると試算され、今後の経済を占う上で良い兆しとなっていた。
しかし、コロナ禍によって様相は一変。2019年と2022年の2月の訪日外国人数を比較すると、2019年は260万4,322 人、2022年は1万6,719人と、99.4% も減少した(注1)。
(注1)出典:日本政府観光局(JNTO)「訪日外客統計(報道発表資料)」2022年12月
状況が好転したのは2022年10月。それまで続けられていた個人旅行の受け入れ拒否や査証免除措置の一時停止の解除などの水際対策の緩和もあり、徐々に回復に向かっていることがわかってきた。2022年10月の訪日外国人数は約50万人(前月比約241%)、11月は約93万人(前月比約187%)、12月は137万人(前月比約146%)、2023年1月は約150万人(前月比約109%)と着実な伸びを見せている(図1)。
年月 | 訪日外国人数 | 対前月比伸び率 |
---|---|---|
2022年10月 | 49万8,600人 | 約241% |
2022年11月 | 93万4,500人 | 約187% |
2022年12月 | 137万0,000人 | 約146% |
2023年1月 | 149万7,300人 | 約109% |
出典:日本政府観光局(JNTO)「訪日外客統計(報道発表資料)」2022年10~12月、2023年1月(推計値)をもとに編集部作成
このような訪日外国人数の伸びを背景として期待されるのが、インバウンド需要の盛り返しだ。
インバウンド需要について、まずはコロナ禍前の2019年の状況を振り返る。
この年の訪日外国人旅行客の年間消費額は、先述の通り約4兆8,000億円と推計される。また、観光庁の資料によると、訪日外国人1人当たりの旅行消費額は15.8万円となり、訪日外国人の約8人で日本人1人の年間消費額に匹敵するインバウンド消費があると分析されている(注2)。
(注2)出典:観光庁「観光を取り巻く現状及び課題等について」
旅行者(1人1泊当たり宿泊費)上位15%を対象とした観光庁の調査をもとに、より具体的な内訳をみていこう。
まず、1人当たりの旅行支出額は、欧米豪342,616円、中国334,566円、台湾199,178円、韓国107,194円の順となっている(図2)。
出典:観光庁 「訪日外国人(観光・レジャー目的)の宿泊費上位15%の旅行者に関する詳細分析」(2019年)をもとに編集部作成
東南アジア、香港を除き記載。
ただし、平均泊数はそれぞれ異なるため、1泊当たりに換算すると、欧米豪が約37,241円、中国が約63,126円、台湾が約44,262円、韓国が約38,284円となり、1泊当たりの旅行支出額ではアジア圏の方が高いことが分かった。
また1人当たりの旅行支出の買い物代は、最多の中国が150,938円、次いで台湾が53,464円、欧米豪の31,512円、韓国21,261円となる。中国からの旅行者が特に買い物代を惜しまないようだ。
このようにインバウンドは、人口減による経済成長率の低下が懸念される日本で、新たな需要として期待されてきた。しかし、そんな矢先にコロナ禍に陥ってしまったのだ。
コロナ禍のインバウンドはリアルから ウェブ“越境EC”へ
では、コロナ禍において国内のインバウンド需要はなくなってしまったのか、というとそうではない。デジタル時代ならではの消費が活発化していたのだ。
なかでも注目されているのが、国と国をまたいだEC(電子商取引)利用である「越境EC」だ。
越境ECとは、消費者が居住地以外の商品を、ECサイトを利用し購入することを指す。世界の越境EC市場は、2019年は7,800 億ドル、2026 年には 4 兆 8,200 億 ドルにまで拡大すると予測されている(図3)。
出典:経済産業省 商務情報政策局 情報経済課「令和3年度 電子商取引に関する市場調査報告書」(令和4年8月)をもとに編集部作成
では、越境ECは日本経済にどれほどの影響を与えるのだろうか。同資料による日本とアメリカ、中国との一般消費者を対象としたEC市場規模推計を見比べてみよう(図4)。
出典:経済産業省 商務情報政策局 情報経済課
「令和元年度 内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(電子商取引に関する市場調査)」(令和2年7月)、「令和2年度 産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)」(令和3年7月)、「令和3年度 電子商取引に関する市場調査報告書」(令和4年8月)をもとに編集部作成
アメリカの消費者が日本から購入した額は、2019年9,034億円、2020年9,727億円、2021年1兆2,224億円となり、2年で約74%増加している。また、中国の消費者が日本から購入した額は、2019年1兆6,558億円、2020年1兆9,499億円、2021年2兆1,382億円となり、2年で約77%増加している。
同資料は、外国人による訪日経験と越境 EC には密接な関係があるとも言及している。調査結果では、日本滞在時に商品に触れたり、自身の目で確認したり、信頼できると認識した経験があることで、越境 EC の利用が促進されているとしている。つまり、日本の商品が好まれた結果、越境EC利用が促進されているのだ。
越境EC市場は拡大傾向を見せており、インバウンドの受け皿となっているといえる。日本国内の企業もこれを商機と捉え、海外向けのEC利用を活用しているようだ。
日本貿易振興機構(JETRO)の2021年度の調査によると、「ECを利用または検討している」と回答した企業のうち、69.4%の企業が「海外向け販売でECを活用/検討している」と回答している。最近の為替市場で各国通貨に対して円安傾向になったことも越境EC市場の追い風となったのだろう。
越境ECで日本カルチャーが人気! リピート消費で経済に追い風
越境ECの有望株として注目を集めているのが、日本の強みであるエンタメ関連商品やファッション関連商品だ。
グローバルECサービスを運営するBEENOS 株式会社によると、エンタメ関連商品が越境ECで人気となっている背景は、多言語で翻訳された動画の世界同時配信や、ボーダーレスなファンコミュニティなどにより、ヒットの時差がなくなりつつあることと分析している。その一例として、2021年における日本のあるアニメ作品に関する商品の流通額が1年で約215倍に急増したことを挙げている。
2019年と2021年の人気商品を比べたデータでは、トレーディングカードやアニメフィギュアといったいわゆるアニメやコミックなど、日本ならではのカルチャーといえるエンタメ関連商品の流通が3.16倍へと拡大している。アクセサリーや時計をはじめとするファッションの分野も好調で、4.82倍に拡大している。
2022年は、円安の影響もあり、購入金額の商品ジャンル別ランキングでは、高額なブランド腕時計やトレーディングカードが人気だ(図5)。
出典:BEENOS 株式会社「越境EC世界ヒットランキング2021」「越境ECヒットランキング2022」をもとに編集部作成
インバウンド回復+越境ECによるリピート消費で日本経済に光明
インバウンドが回復したことに加え、越境ECが盛り上がっていることは朗報だ。
BEENOS 株式会社による、インバウンド再開後の利用意向の調査(アメリカ、台湾、マレーシア、イギリスの約1,900人)では、「訪日時のお買い物の際に、店頭での購入だけでなく、ECも活用したいですか?」という質問では「ECも活用したい」 と全体の56%以上が回答しました。
また、「訪日後、越境ECで気に入った商品などをリピート買いしたいですか?」という質問に対しては、全体の92%以上が「越境ECでリピート買いしたい」と回答している。
訪日時に日本のコンテンツに直接触れ、帰国後は利便性の高い越境ECを利用するという積極的な意向が多いことは、日本経済の今後にとって大きなプラスとなるだろう。
訪日の目的も「コト消費」へと変化の兆しが!
日本には、訪日外国人旅行客を呼び込める「モノ消費」のためのコンテンツがあることがわかった。これが水際対策緩和後のインバウンド消費の呼び水になることは確かだろう。
コロナ禍前、日本政府は2030年の訪日外国人旅行客数を6,000万人、訪日外国人旅行消費額を15兆円とする目標を掲げ、「観光立国」の本格的な復活を目指していた。コロナ渦で中断された形になったが、2023年の盛り上がりを見ると、目標達成への期待が高まる。
コロナ禍以降のインバウンド市場の潜在需要の調査によると、「モノ消費」だけでなく、今後は温泉や自然観光地に代表されるような地方訪問、ウォーキングや登山といったアウトドア・アクティビティなどの「コト消費」へも注目が集まりそうだ。
なかでも目を引くのが、日本の強みである「食事」「治安」「買い物」「宿泊施設」が高く評価されていること。さらに、ウォーキングや登山などの体験ニーズが高く、農山漁村などの地域資源に関するアウトドア・アクティビティにも高い関心があるという。
コロナ禍でインバウンド消費は大きく落ち込んだ。しかし、マイナスに見える環境でも「モノ消費」「コト消費」を取り込んだコンテンツ開発や、越境ECを活用した新しいビジネスなどが生まれている。このように、ある出来事を契機として、新しい需要を支える産業が興隆し、ときに日本経済を活性化する牽引役として、有望視されることがあるのだ。このような動向にも、ぜひ目を向けていきたい。