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2021.03.11 NEW

農業で、地方の弱みを武器に変える/変身~尖ったスモールビジネスの投資価値~#2

農業で、地方の弱みを武器に変える/変身~尖ったスモールビジネスの投資価値~#2のイメージ

スモール・ジャイアンツ EL BORDE特別賞を受賞したグリーンリバーホールディングス株式会社の代表取締役・長瀬勝義

かつてない速さで変化する時代のなか、たしかな技術力と企業規模ゆえのフットワークの軽さを誇るスモール・ジャイアンツ。彼らが起こしてきた「変化」のストーリーを届けていく連載「“変身”~尖ったスモールビジネスの投資価値~」の第2回は、グリーンリバーホールディングス株式会社の代表取締役・長瀬勝義に話を聞いた。

同社はIoTを活用した農業を推進し、独自で縦型水耕栽培装置「3D高密度栽培バイグロウシステム」を用いた簡易植物工場を開発。作物の成長を自動管理し、遠隔でも制御・監視が可能だ。

次世代型の地産地消を推奨するモデルが評価され、2月3日に開催された「スモール・ジャイアンツアワード2021」にて、本WEBマガジンEL BORDEから特別賞を受賞した。

「栄誉ある賞をいただけて本当に光栄です。まさにいま力を入れているSDGsの観点から評価されたのは、大変ありがたいこと。喜びよりも、いままで以上に頑張らないと、という責任感の方が強いです」とコメント。

「たくさんのファンに支えられる、愛される会社を作りたい」と人懐っこく語る言葉は、土ではなく工場から生まれた野菜でも、作り手の真心や喜びは変わらないと思わせてくれる。農業の力を信じて進んだ、彼の道のりを見ていこう。

建設業から農業への転身

グリーンリバーホールディングス株式会社は「技術革新で人々の幸せを実現する」をテーマに、現在、再生可能エネルギー事業・次世代農業事業を手掛けている福岡の会社だ。

長瀬が開発した縦型水耕栽培装置「3D高密度栽培バイグロウシステム」は、薄いフェルトをスポンジのような素材でサンドイッチしたような独特の形状をしている。

女性一人で持ち歩けるほど軽く、簡単に組み立て・設置ができ、「農作業=力仕事」というイメージを覆す。また、農業は生産量を増やそうとすると作業範囲が平面的に広がっていくが、縦に設置するバイグロウシステムは小さなスペースで収穫量を増やせる。

縦型水耕栽培装置「3D高密度栽培バイグロウシステム」のイメージ 縦型水耕栽培装置「3D高密度栽培バイグロウシステム」

かがまずに目視確認ができるため農薬を減らし、作業負担とコストを抑えられる。農薬が減るのは作物にとってももちろんメリットだ。将来的には全ての野菜を作れるプラットフォームを目指している。「我々はもちろんですが、それ以上に生産者さんに負荷をかけることなく儲かってもらえる仕組みを作りたかった。そうでなければ広がるはずもありません」と笑顔を見せた。

「農業は農家本人が儲かりにくい。私はそういうシステムもどうにかしたいと考えています。バイグロウシステムの目下の課題はコスト面なので、私たちが企業として成長して大量生産できるようにし、もっともっと安くしていきたい。ホームセンターのプランターくらい気軽に買えるものとして、この装置を普及させていきたいのです」

農業に大きな変化をもたらすシステムを生み出してきた長瀬。南九州で400人近い職人を抱える建設会社を経営する父の背中を見て育ち、幼い頃から経営者への道を思い描いていた。職人の仕事を間近で見ていたせいか「ものづくりの仕事がしたい」と考えていたが、その思いとは裏腹に「私は四人兄弟の次男坊なので、小さい頃から『兄貴を助けろ』って言われていたんです」と明かす。

会社を継ぐ兄をサポートするために経理・総務を担うかたわら、「やるならとことんやりたい」と施工管理や営業、工場の生産管理に至るまで必死で取り組んだ。しかし、その後リーマンショックを機に父の会社から独立。借金を抱えてスタートを切ることとなった。

独立当初は北陸新幹線の現場などやはり建設関連の仕事を手がけていたが、地元での太陽光発電所の造成工事の経験が農業分野へ進む転機になった。きっかけは発電システム設置のために伐採される山々を見て覚えた違和感だ。

持ち前の「やるならとことん」の精神で、過去の事例や文献を紐解いていくと「炭素資源である木を切り倒すことは、エネルギー生産の観点から見ると矛盾する」「森林伐採は自然災害を引き起こし、周辺の田畑に深刻なダメージを与える」という事実に行きついた。「しかもここで作られるエネルギーは大都市圏に送られ、この地域の人々がメインで使うわけではない。私は人びとを豊かにする仕事をしたいのに、この土地の人たちは豊かにならない。自分がしていることは正しいのだろうか?」と大きなショックを受けた。

そして導き出した結論は、エネルギーと産業どちらも作り出すこと。太陽光エネルギーを有効活用する産業を生み出して地域を活性化させるため、「農業」への道を志す。長瀬は「当時は、エネルギーは使うより売る方が儲かるに決まっている、と言う人が大半でしたね」と苦笑する。しかし長瀬はビジネスの「儲け」ではなく、故郷への思いが先に立った。

「僕が育った宮崎県都城市は当時人口13万人くらいの街で、主な産業は甘藷(かんしょ・主に焼酎の材料となる芋)農業くらい。加工用農業は非常に単価が安いんです。産業の必要性に気づいたとき、幼少期に見た、朝から晩まで延々と芋を拾っている農家の姿がフラッシュバックしました。地域で産業を活性化させて、人々の所得を向上させたい。『やらなきゃ』と強く思いました」

長瀬 勝義のイメージ 故郷のことを笑顔で振り返る長瀬

知識やテクノロジーを扱える人材を、地方の武器に

農業にIoTやITを組み込み革新的なシステムを作ってきた長瀬が目指すものは、人材の育成だ。長瀬は「都会に比べ、地方はテクノロジーを使いこなす人材が少ない」と地方の弱みを危惧している。「人」を中心とした経営は、数々の変化を起こしてきた長瀬の唯一変化していないものだった。

「いかに技術革新しても、テクノロジーを使いこなすのは人であって欲しい。そこで農業をゼロベースで捉え直し、先進テクノロジーと掛け合わせた農業を普及させ、次世代対応型の人材を地方で創出したい。使いこなす人材が増えれば、相乗効果でこの技術はさらに成長するはずなんです」

そこで長瀬が心がけているキーワードが「楽しみながら学ぶ」こと。

「これまで農業に全く馴染みがなかった人に対しても、強制することなく、『楽しみながら農業にチャレンジしませんか?』と呼びかけています。楽しければ人は集まるし、人が集まれば、農業に関わる母数が増える。その中から本気で農業する人もいれば、『向いてないな』と気付く人もいる。すると今度は『面白い、楽しい』から『ハマる、マニアになる』人が出てくる。そこまで到達できれば、人材を呼んでくる必要はなく自然と集まるんじゃないか、その可能性にかけているんです」

注目され、好かれ、人が集まる会社を作りたい。「人」を地方の武器にしたい。これこそが長瀬の強い想いだ。そこでネックとなるのが行政上の仕組みだけでなく、一般的な農業のイメージに基づく、心理的な農業参入へのハードルの高さだった。

「理数系学問の延長に農業があると、もう一度世の中に投げかけたい。建築科の延長に建築業があるのに、農家はそこがつながっていません。農業は化学の世界なんだと若い頃に気づければ『私は理数系が得意だから農家になる』という選択肢ができますし、現在の社会課題を解決するには、その選択が普通にならないと駄目だと考えています。根本的には、私は“食事”という絶対無くならない行動を、もっと意義のあるものにしたい。そのために農業のファンを作り、気づきを与える場を作りたいのです」

全ては、自分の視点次第

己の志に邁進してきた長瀬だが、2020年は新型コロナウイルスの打撃を受ける事態に。しかし徐々に冷凍食品やテイクアウトなどで「国産」需要が後押し。大手企業の冷凍食品を受け持つまでに漕ぎ着けた。

もうひとつ鍵となったのは、リモートワークの急増。人びとが都会を離れ、地方移住が増えていった。しかし長瀬は「地方でのリモートワークやワーケーションといっても、そのまま長期のリビングシフトにつながるかは疑問です。最終的な定住につなげられるかは、地方の課題」と、冷静に局面を見つめている。

そこで、バイグロウシステムをベースに2016年に開発した小型の栽培施設「Veggie」をリデザインした、「ONE FARM」事業を展開。コンテナと同等のスペースにバイグロウシステムのほか養液管理装置、空調機等を搭載し、トラックなどで移動できる水耕栽培システムを開発。執務スペースも設けられ、デスクワークをしながら農業に参画できる画期的な「アグリワーケーション施設」となっている。

移設が可能な簡易型植物工場「Veggie」のイメージ 移設が可能な簡易型植物工場「Veggie」
コロナ禍における新たな地方での働き方を提案する「ONE FARM」事業のイメージ コロナ禍における新たな地方での働き方を提案する「ONE FARM」事業

社会情勢を独自の視点で見抜き、新たな挑戦を続ける長瀬だが、会社の所有欲はあまりないと語る。

「この立場なら面白いことを色々やれるからやっているだけ(苦笑)。会社を作ってくれるのは、私ではなくファンやスタッフ一人ひとりです。多くの人に愛され『あの会社があってよかったな』と思われる存在になりたい。そういうことが成し遂げられたらゴールなのかなと思っています」

最後に長瀬はスモール・ジャイアンツの同志たちにこうアドバイスした。

「アイデアは、お金をかけずに練り上げられるもの。死ぬほど考えれば、絶対いいアイデアが出る」

ないと思ったらない、あると思ったらある。全ては自分のモノを捉える力次第──長瀬はそう考える。「捉える力があれば、いろんな富に気づけます。地方ビジネスの勝機って、発見からスタートすると思っているので、まずは見方を変えて、とことん考えること。それを繰り返しやることが、新しいビジネスを作り上げるのに一番必要なことだと思います。モノを捉え、考える力は誰にでもフェアにあるし、自分に『備わっていないこと』はひとつもないんです」

「大企業」や「中小企業」という規模のモノサシだけで、企業の真価は測れない。Forbes JAPANは、創業10年以上で売上高100億円未満ながら、私たちのライフスタイルを変えるようなユニークなプロダクトやサービスを生み出した企業に注目。2017年から発掘プロジェクトを推進している。未来を切り開く、日本が誇る小さな大企業──それこそが「スモール・ジャイアンツ」だ。
長瀬 勝義(ながせ かつよし)
グリーンリバーホールディングス株式会社代表取締役。太陽光発電所の施工を手掛けるグリーンリバー株式会社、縦型水耕栽培装置による独自の次世代農業事業を展開するグリーンラボ株式会社の代表取締役。直近ではコロナ禍における新たな地方での働き方を提案する「ONE FARM」事業を手掛けるなど「技術革新で人々の幸せを実現する。」をミッションに、日本の課題を解決し、豊かで魅力ある地域の実現に貢献する。
取材・文=伊藤七ゑ 写真=吉澤健太
「Forbes JAPAN web」2021.3.11 配信記事より転載

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