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2018.09.18 NEW

【メタ認知特集:後編】“メタ認知”を高めるために、まずやるべき、たった1つのこと

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ビジネスに役立つ、さまざまな効用があるメタ認知。高めるためには何から始めればいいのか。心理学博士の榎本博明さんに聞いた。

心理学を学ぶと、自己や他者を理解する視点が増える

前編では、メタ認知の3つの効用について紹介した。後編のテーマは、メタ認知能力を高めるためには、具体的に何から始めればいいのか。前編に引き続き、心理学博士の榎本博明さんに聞いた。

メタ認知能力を高めるための方法としては、自己モニタリング=自分を振り返って、言動を書き留めるという手法が王道だ。だが、榎本さんが推奨しているのは、自己モニタリングだけではなく「心理学を学ぶ」こと。心理学的な見地から人を見ることで、自分や他者に対する視点が増え、「内面」まで掘り下げて考えたり、解釈したりできるようになるためだ。

さらに榎本さんは「最近は、多様な人たちと触れ合った経験がない大人が多い」と指摘。昔は、縦の関係や横の関係などの多様な人間関係で揉まれる中で、自己を客観視するモニターカメラの精度、つまり多様な物の見方ができる力が自然と育まれていたが、現代は子育て環境の変化(子どもの減少や近隣とのつながりの希薄化など)によって、幼少期の交友関係が狭くなっているのだそうだ。

「自己モニタリングの精度をあげるには、経験と知識が欠かせません。経験から学ぶ機会が少ないのであれば、心理学を活用して知識を増やし、経験を補うことで、メタ認知能力を高めていくことが有効です」と榎本さん。
では、自己モニタリングの精度をあげるためには、どのような知識が有効となるのだろうか。

「価値観の違い」をメタ化、タイプ別に落とし込んだフレームワーク

手始めに、良好な人付き合いに欠かせない心理学の知識を紹介しよう。下に記したのは、人生を構成する主要な価値観を「メタ化」して、その中のどれを特に重視するかによって、人間をタイプ分け(フレームワーク化)したもの。他者を理解するうえで役に立つ手法の一つだ。

  1. 理論型=理屈に合わないことは納得できない

  2. 政治型=「支配-被支配」で人を見る

  3. 経済型=儲けることに価値をおく

  4. 社会型=友愛に価値を置き、面倒見が良い

  5. 審美型=自分の美学へのこだわりがある

すべての人が、この5つにきっちり分けられるわけではないが、他人の「どちらかというと○○型」という傾向を理解するのには有効だ。
たとえば、政治型の人は、出世するために人間関係を利用することに罪悪感を抱かない。そのため、利用価値がなくなれば、平気で人を切り捨てるし、もし自分が相手に同様のことをされても、大抵動じない。
そんな政治型の人に苦手意識を持ちがちなのが、社会型の人たち。社会型の人たちは、人との信頼関係が何よりも大事なので、人を利用価値で判断する政治型を嫌うが、政治型の人たちも利害で取引ができない社会型を面倒くさく感じる傾向がある。

そうした、相手とのかかわりを重視する社会型に苦手意識を持つのは、経済型や審美型の人たちも同様。だが、だからといって政治型・経済型・審美型が近しい性質かというと、そうではない。審美型の人は、世俗的なものに巻き込まれたくない意識が強いため、権力や儲けのために人と駆け引きをしたり、恨んだり、そんな見苦しいものと関わりたくないと思っており、その点において政治型とは異なる。

5つの解説の詳細は、榎本さんの著書『かかわると面倒くさい人』(日経新聞出版社)に委ねるが、ここでは、人間がいかに多様で、自分と同じような考えをするわけではなく、非常に奥深い生き物だということを理解していただきたい。

知っておきたい心理メカニズム3選

人間は多様ゆえ、時に想像を超えるような反応に直面することもある…。そんな人間の言動を理解するために、知っておきたい心理メカニズムの知識についても紹介しておく。
以下に示すバイアスなどの心理メカニズムは、心理学の先達たちが人々の言動を「メタ化」し、その行動パターンなどに名前をつけ、再利用できるようにしたものだ。メタ認知能力を高めるためにも、ぜひインプットしておいて欲しい。

  1. 敵意帰属バイアス

    相手の何気ない言葉や態度にも敵意を感じ取り、ときに親切心による言動にさえ勝手に敵意を感じ取り、相手に攻撃的な行動を示してくるときの認知の歪み。

  2. 自己愛過剰

    尊大なほどに自信たっぷりな態度を示すかと思えば、虚勢を張ったり、尊重されないと拗ねたりキレたりして、不安定さを見せる人にありがちな心理傾向。

  3. セルフ・ハンディキャッピング

    自己防衛意識が異常に高く、不必要な言い訳が多い、また保身的な姿勢が強い人が取りがちな行動。万一失敗した時に、無能な人と思わせないように、あらかじめ自分にハンディがあることをアピールするもので、印象操作の一種。

いかがだろうか。以上は、心理学の知識の“ほんの一部”でしかないが、「メタ化」された認知パターンを学ぶことで、「人間を多面的に認識する」ための視点が、少しだけ増えたのではないだろうか。

メタ認知能力を高め、物事を柔軟に受け止められるようになれば、コミュニケーション能力や思考力が向上する。そして、今まで「関わりたくない」と思っていた人の印象が変わり、人付き合いも楽になる。あなたも、一度じっくりと自分を見つめ直し、より深く理解するように努めてみてはいかがだろうか。

監修:榎本 博明(えのもと ひろあき)

心理学博士。1955年東京生まれ。東京大学教育心理学科卒。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授等を経て、MP人間科学研究所代表。代表作に、今回のテーマに関連する著書『かかわると面倒くさい人』や、近著『ビジネス心理学 100本ノック』(共に日経新聞出版社)がある。

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