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ビジネス界のワトソンをめざせ! 天才と渡り合うための能力、論理的思考力の伸ばし方

ビジネス界のワトソンをめざせ! 天才と渡り合うための能力、論理的思考力の伸ばし方のイメージ

天才になれなかった人に残された、イノベーションを起こすために有効な手段、「論理的思考」。

前編では、なぜ「論理」が「創造」の手助けになるのかを解説した。では、論理的思考力を磨くにはどうすればいいのだろうか。前編に引き続き、哲学者の野矢茂樹さんにお話をうかがった。

思考のフレームから出よう

そもそも、創造的思考力は鍛えることができないのだろうか? 結論からいうと、残念ながら創造的思考力を後天的に身につけるのはむずかしい。発想力やひらめき力は、良くも悪くも生まれもった能力によるところが大きく、「こうすれば伸びる」といった明確な方法がない。「そんなものがあったら私が教えてほしい」とは野矢さんの弁だが、それでもやれることはあるという。

「ひとつは、物事を決めつけないことでしょうね。ある結論に達しても『これはこうだ』と決めつけず、それ以外の可能性をつねに考える訓練をしておく。要するに頭を柔らかくしておこう、ということですね。我々はたいてい、自分でつくったフレームのなかでものを考えます。しかし、アイデアの多くはそのフレームを壊して外に出たり、フレームを掛けかえたときにもたらされるのです。

ありふれた例になりますが、たとえば化粧品メーカーが新製品をつくって発売したものの、あまり売れなかったとしましょう。そうするとメーカーの担当者は、もう少し生産コストを削減して、価格を下げようと考えたりする。

この『価格が高い=売れない』というのもフレームなんですね。そのフレームのなかであれこれ考えるより、いっそのことフレームを壊して、製品のクオリティを上げて価格設定を高くしたほうが売れるということもあるわけです」

世間で常識とされていることや、お約束とされていることがあれば、それを疑ってみる。まるきり信じるのでもなく、疑いすぎるのでもない、フレームのすぐ外という絶妙なポジションに自分を置く。そうすることが、新しいアイデアやひらめきにつながることもあるのだ。

接続表現を意識する

とはいえ、やはり創造的思考力を磨くのはむずかしい。一方で論理的思考力はトレーニングすることで伸ばすことが可能だと野矢さんはいう。では、その方法は?

「ものを書いたり話したりするときに、言葉と言葉をつなごう、筋道立てて一貫したものにしようという意識をつねに持つことです。言葉と言葉をつなぐのは『だから』『しかし』といった接続表現。多少野暮ったく感じても、こういったものを意識的に使っていく。

特にSNS全盛の昨今は、ぶちぶちに途切れた言葉がそこらじゅうに飛び交っていて、論理的な文章に触れる機会が減っています。だから大人も国語を学びましょう。学ぶには論理的な文章を読むのが良い。できれば論文なんかを読むことをおすすめします。

小説やエッセイの文章は論理を重視していないことが多いですし、谷崎潤一郎も『接続詞を多用すると言葉に重みがなくなる』と言っている。でも、ビジネスの場面で文豪の言うことに従う必要はないですから(笑)」

野矢さんの言うとおり、最近はSNSをはじめメディア環境が大きく変化し、論理的な文章に触れたり書いたりする機会が少なくなった。人とのコミュニケーションもメッセージツールで済ますのが主流になった結果、短文のやりとりで相手に誤解を与えたり、逆に人からのメッセージを誤解してしまったり、といった経験がある人も少なくないだろう。

じつはこの「相手に伝わっていない」という実感を持つことがとても大事だと野矢さんはいう。それを持てるか持てないかで、論理的思考力の伸び具合は全く異なってくるというのだ。

「メッセージのやりとりにしろ、雑談にしろ、多くの人には『相手に伝わっていない』という自覚がない。だからまずはそれを自覚すること。自覚することができたら、次は、相手のことを『こいつはわかっていないな』と切り捨てないこと。へたをすると、伝わっていない相手を『話にならない』として切り捨てたりするでしょう?

自分の言うことを相手がわかるのは当然と思っている人、あるいは、わかっていない相手を簡単に切り捨てる人は、一生論理的になれません。伝わっていないけれど伝えたいという強い気持ちがあれば、論理の力は自然と身についていくはずです。それでもやっぱり人からのアドバイスがほしいという場合は、私の『論理トレーニング101題』(産業図書)という本を読んでみてください(笑)」

「論理的思考」でイノベーションに貢献する

新しいアイデアを生み出す「創造的思考力」は鍛えにくいが、創造を支える「論理的思考力」はトレーニングで鍛えることができる。そのトレーニングとは決してむずかしいものではなく、日々の生活のなかで使う言葉が筋道だったものになるよう意識するだけでいい。野矢さんは最後にこんな話をしてくれた。

「こういう仕事をしていると、『発想力やひらめきを生む力は伸ばせるんですか?』とよく聞かれるのですが、やはり『伸ばしづらい』と答えるほかない。そんなとき私が持ち出すのはシャーロック・ホームズの例です。だれもがホームズのような天才肌になれるわけではないけれど、論理力を鍛えればワトソンになることはできますよ、と」

ホームズがイノベーションを起こす(=事件を解決する)ためには、ワトソンの存在が欠かせない。ワトソンといえばホームズの助手だと思われがちだが、実際にはホームズは探偵業務においても精神面においてもあきらかにワトソンに依存しており、ワトソンなしではあれほど華々しい業績を上げることができなかっただろう。そしてなにより、ワトソンが事件の一部始終を論理的に読者目線で語らなければ、あの名作シリーズが生まれることはなかったのだ。

あなたも今日から“ビジネス界のワトソン”をめざしてみてはいかがだろうか。

【お話をお伺いした方】
野矢 茂樹(のや しげき)
1954年、東京生まれ。東京大学大学院博士課程修了。東京大学教授を経て、現在は立正大学教授。専攻は哲学。平明な文章による論理学入門書を多く執筆。著書に『はじめて考えるときのように』(PHP文庫)、『哲学な日々』『心という難問』(講談社)、『増補版大人のための国語ゼミ』(筑摩書房)など多数。訳書にウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』(岩波文庫)などがある。

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