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2020.09.17 NEW

【日本発】空中で操作する非接触タッチパネル―感染症対策としての需要が急増

【日本発】空中で操作する非接触タッチパネル―感染症対策としての需要が急増のイメージ

空中に浮かぶバーチャルなサイネージ画面に、触れるような感覚で操作できるタッチパネル。これまではSF映画の中でしか見ることができなかったそんな技術の実用化に向け、いま各社が研究開発や実証試験を急いでいる。

もちろん背景にあるのは、新型コロナウイルスの感染拡大だ。ウイルスの感染拡大を防ぐためには、咳やくしゃみなどの飛沫防止に加え、モノに触れる手指を清潔に保つことが重要になる。とはいえ、個人のスマホからエレベーターの操作ボタンまで、日常生活のなかで我々が触らざるを得ないモノは数多くある。そうした接触する機会をできる限り減らす社会へと変容していくことが、ポストコロナの時代には求められているのだ。

「当社では2015年から空中に画像を表示する技術開発を始め、当初は大型のサイネージなど新しい映像表示装置という位置づけで研究を進めていました。加えて、ここ数年はタッチパネル操作が増えてきたこともあり、特殊な環境の工場や医療施設などでの需要を見越し、非接触なユーザーインターフェイスとしての開発にも着手していました。

そうした中、当社では『空中タッチ操作ディスプレイ』といわれる技術が、最近はウィズコロナ、アフターコロナという側面で大きな注目を集め、一般社会でもニーズが高まっているのを感じています」

そう話すのは、三菱電機株式会社 先端技術総合研究所で開発を担当する菊田勇人(きくた はやと)さん。空中タッチ操作ディスプレイの研究開発の現在地と、社会実装までの展望を聞いた。

空中に映像が浮かぶ! SFのような機械の仕組み

菊田さんによると、空中タッチ操作ディスプレイには、空中に映像を映し出す空中映像技術と、空中での操作を可能にする技術の2つが必要だという。

同社の空中映像技術には「再帰反射」という入射した光を同じ方向に返す特性を持った、特殊なシートが使われている。このシートに、装置内のディスプレイから出る光を反射させ、何もない空間に再投影することで、あたかも空中に映像が浮かんでいるように見せることができるのだという(図1)。

図1:空中映像技術の仕組み

図1:空中映像技術の仕組み

ディスプレイ映像を反射させて空中に投影する仕組みなので、専用の映像データを作成する必要はない(出所:三菱電機株式会社)

この空中映像技術に加え、空中で操作できるタッチパネルとして利用する場合に必要となるのが、センサーを使用してさまざまな情報を収集する「センシング技術」だ。同社のセンシング技術では、赤外線カメラなどを使って手の三次元的な位置関係を取得できるセンサーカメラを設置し、指の位置を検出することで、空中での非接触なタッチパネル操作を可能にする(図2)。

図2:空中タッチ操作ディスプレイのデモ機

図2:空中タッチ操作ディスプレイのデモ機

センサーが位置関係を取得するため、例えば工場であれば、汚れた手や手袋を装着したままの手でも操作することができる(出所:三菱電機株式会社)

「空中タッチ操作ディスプレイは、光学技術を応用した技術です。もともと空中映像表示技術は世界でも日本がかなり先行しており、最近では海外からの注目も高くなっています

3D技術などとは異なって専用のメガネを用意することなく観察することができ、投映される映像は高解像度で文字もぼやけずはっきりと読むことが可能。また、特定の角度でないと視認することが難しく、のぞき見がしにくい仕様になっている。これはセキュリティを求められるような場面などでは大きなメリットになるはずだ。

コロナによって早まる社会への実装

では、空中タッチ操作ディスプレイが、社会の中で当たり前のように実装されるのはいつ頃になるのだろうか? 「はっきり何年後とは言えませんが、われわれが思っていたよりもずっと早くそうした未来が来るのではないかと思います」と菊田さんは言う。

「そもそも空中映像などは先進的なものなので、実際に実物に触れてもらわないと、どういったものなのかが伝わりづらい技術です。これまでは一般の方々に触れてもらう機会も少なく、普及するにはまだまだ時間がかかると思っていました。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大もあって現在は多くの企業がこの技術を扱い始めていますし、一般の方々が技術に触れる機会も多くなるかもしれない。そうした多くの方々の体験を通じて、われわれの予想よりも早く普及するのではないでしょうか」

2019年に幕張で開かれた最先端技術・製品が集結する展示会では、エントランスでのシチュエーションを想定した道案内表示用大型ディスプレイなど、昨年の時点での最終製品イメージを発表した。同社は、以前より想定していた特殊環境の工場をはじめ、コロナ禍での新たなニーズの探索も進めながら2021年度中の製品化を目指す

【日本発】空中で操作する非接触タッチパネル―感染症対策としての需要が急増のイメージ 大型の空中サイネージなら、目の前に映像が飛び込んでくるためアイキャッチ性の高い広告が可能だ(出所:三菱電機株式会社)

また菊田さんは、衛生的な作業空間が必要になる工場や医療現場のタッチパネル、そして公共施設やオフィスの案内板など、まずは各個人が所有することを想定した製品よりも、複数人が利用するような製品から普及するのではないかと予想する。のぞき見ができない構造を活かした銀行のATMなどへの導入はもちろん、エレベーターの操作パネルや飲食店での注文に使用する端末、アミューズメント施設のアトラクションへの活用など、さまざまな応用が期待できそうだ。

たとえば買い物に出かけるといったシチュエーション。空中に浮かぶ大型広告ディスプレイをすり抜けながら目当てのものを物色し、キャッシュレス払いで金銭の受け渡しなく支払いを済ませる。店舗への出入りなどで必要なドアの開閉も非接触で操作し、エレベーターでも非接触パネルボタンで操作して帰路へ向かう、など――空中タッチパネルが普及すれば、公共空間での不必要な接触は極限まで排除されるだろう。場合によっては、帰宅するまで何にも触れずに済むこともあるかもしれない。

ウィズコロナ時代の新たな生活様式に有効な、日本の強みになりうる技術に注目したい。

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