2021.07.29 NEW
SNSの投稿が数億円に? 話題の「NFT」の仕組みと魅力を解説
2021年3月22日、短文投稿SNSの現CEOによる世界で最初の投稿が、約3億1,500万円で売却された。これは、投稿をNFTというブロックチェーンの一種に情報化することで投稿に固有の価値を与え、売買したのである。このニュースを見て、はじめてNFTのことを知ったり、関心を持ったりした人もいるのではないだろうか。
NFT(Non-Fungible Token)とは非代替性トークンと訳され、代替が不可能なブロックチェーン上で発行された、送信権が入った唯一無二のデータのこと。デジタル上での資産の鑑定書や所有証明書としての役割を持っている。
これまでのデジタルデータの大きな特徴といえば、誰でも簡単に情報にアクセスし、コピー・複製できることだが、一方NFTではSNSの投稿に数億円の値がつくなど世界的に注目を集めている。一体、NFTとは何か、その実態と今後の可能性を見ていきたい。
NFTがもつ「1点モノの価値」
はじめてNFTを知った人は、「非代替性」という言葉に疑問を感じるかもしれない。非代替性とは文字通り、同じモノとして他に代替することができないということ。これがどういうことか、まずはスポーツ分野とアート分野の実例からヒントを見ていこう。
(1)スポーツ分野
米国プロバスケットボールリーグのトレーディングカードを、NFTで発行した「デジタルトレーディングカード」が高騰している。カードというと静止画のプリントを想像するが、デジタルトレーディングカードの場合、ハイライト場面を切り取った動画もデジタルカードとなってパッケージに封入されている。
データは専用サイトで売買することが可能であり、希少性により販売価格が分かれ、封入の少ない人気選手のスーパープレーは高額で取引が行われている。
(2)アート分野
あるアーティストが、動画のNFTを660万ドル(約7億1,280万円)、コラージュ作品のNFTを約6,900万ドル(約74億5,200万円)で売却したことが世界中に衝撃を与えた。後者の作品は、現在までに取引されたデジタル上のアート作品で最も高額になっている。こうしたNFTを応用したアート作品を、クリプトアートとも言う。
NFTがこうした高額で取引されるのは、ブロックチェーン技術によりオリジナル性(1点モノの価値)を証明されていることで、「希少なモノを所有しているという実感」があるからだろう。
これがまさに非代替性だ。これまで「1点モノの価値」といえば絵画などの「物理的に存在するモノ」に限られており、インターネット上ではこの価値を証明できる仕組みがなかった。しかし、NFTによって無形のアセットにも所有権を付与できるようになったことで、デジタル上のアート作品などに希少価値を持たせることが可能になった。
NFTの主な特徴、暗号資産との違い
現在はまだ、NFTについて法令上の定義は存在しないが、主な特徴は以下の通りである。
(1)非代替性
ブロックチェーンにより、デジタルデータに「唯一の価値」が証明される
(2)移動可能性
所有者は暗号資産と同様に、自身のNFTを自由に取引することが可能
(3)価値の可視化
マーケットプレイスに再販価格が表示されるなど、価値を簡単に把握することができる
(4)誰でも作成できる
誰でもNFTを作成し、市場に流通させることができる
(5)プログラマビリティ
さまざまな付加機能をデータ自体にプログラムできるため、「作者の手を離れても、流通時には作者に一部の収益が還元される」など新しい仕組みを構築できる
「デジタル上での資産」といえば、同じくブロックチェーン技術を活用している暗号資産を想起する人もいるだろう。NFTと暗号資産の特徴の主要な違いは、(1)の非代替性だ。その他の通貨と同様に、ひとつひとつの資産にオリジナル性はなく、その数字の大きさが価値に比例する暗号資産は、FT(Fungible Token)に分類される(図)。
NFT(Non-Fungible Token) | FT(Fungible Token) | |
---|---|---|
活用される分野の例 | スポーツ分野/アート分野/ゲーム分野/記念通貨分野/(仮想空間上の)不動産分野など | 暗号資産など |
代替性 | 代替不可能(同質のトークンが存在しない) | 代替可能(同質のトークンが存在する) |
移動可能性 | 譲渡が可能 | 譲渡が可能 |
NFTは、既述の通りスポーツやアートの分野で大いに活用されているが、その他でもさまざまな分野で活用が期待される。ゲームやアニメが世界で人気を集め、知的財産権等使用料収支が米国に次ぐ世界2位であるコンテンツ大国の日本では、特にゲーム分野を中心に強みを発揮できそうだ。
なぜ、NFTが高額で取引されるのか?
実は、NFTの技術自体は2017年頃から存在していたとされているが、NFT市場が勢いづきはじめたのは2020年頃だ。
なぜ、このような盛り上がりをみせているのか。背景として主に3つの理由がありそうだ。
1つめに前提となるのが、ブロックチェーン技術によって唯一無二の証明を得た、コピーできないデジタルデータを所有することへの需要が急速に高まったことだろう。代替不可能な価値を保持することは「所有欲」を満たすものである。
2つめは、記事の冒頭で挙げたように、短文投稿SNSの現CEOが自身の投稿を販売したり、NFTのプログラマビリティに着目したアーティストたちが継続的にインセンティブを得られる仕組みを作品そのものに組み込むなどといった、活用例が出始めたことで注目が集まっているためだ。
3つめは、仮想通貨の人気上昇である。ビットコインの時価総額は2020年と2021年とで比べ、一時期600%以上成長した。こうした流れにのり、ブロックチェーン技術を活用しているという点で分野が近いNFTも注目を集めている可能性がある。
NFTの課題と可能性
注目を集めているNFTだが、少なからず課題もある。現在、国内において法的な定義や取り扱いや販売のルールが明確に定められていないことが、将来的に事業者の参入やユーザー利用の妨げにつながる可能性も否定できないからだ。
具体例を挙げると、NFTは、マネーロンダリング(資金洗浄)の観点からも注意喚起がされている。日本暗号資産ビジネス協会が2021年4月に策定した「NFTビジネスに関するガイドライン」によると、「NFT自体を対象とするAML(※)規制は現在のところ存在しないものの、デジタルアートやゲームアイテムを始めとする一部のNFTは高額で取引されており、AML等の観点から取り扱いにおける匿名性については注意が必要」と注意喚起している。NFTが悪用されるのを防ぐため、今後は徐々にルールが定められる可能性がある。
※AMLとは、anti-money launderingの省略
今後に残されている課題はあるものの、インターネットビジネスの世界をさらに進化させるかもしれない、NFTの革新的な影響は無視できない。インターネット上で完結する従来のビジネスモデルに、たとえばEコマースがあるが、この価値は実体のあるモノに紐づいている。あるいはストリーミングサービスであれば、コンテンツを一次的に再生できる権利が価値である。NFTはデジタルデータの所有という、これまでのデジタルの世界にはなかった価値を生んだ。
2021年6月には、日本国内で8,600万人を超えるユーザーを抱える事業会社をはじめ、複数の企業がNFT市場への参入を検討していることを発表。テクノロジーによって新しい価値をもたらすNFT市場に今後も注目したい。