2025.04.01 NEW
米トランプ政権による相互関税発動迫る 日本への影響が大きい非関税障壁とは 野村證券・岡崎康平
日経平均株価の下落が続いており、3月31日には前日比1,502.77円安と大幅に下落しました。翌4月1日にはわずかに反発し同6.92円高となりましたが、終値は35,624.48円でなお3万6,000円台を下回り、年初来安値付近にとどまっています。第2次トランプ政権の誕生以降、関税政策に関するニュースが出るたびに市場はネガティブに反応し、日米の株価が激しく動く展開が続いています。
トランプ大統領は4月2日に関税政策の柱である「相互関税」の全体像を発表する予定です。同氏は規制や商慣行、税制といった非関税障壁に問題があると指摘しており、日本にも関税リスクが懸念されています。実際、トランプ氏は特定の国だけでなく全ての国を対象にする考えを示しており、一部報道では「全世界に一律20%の関税」が導入される可能性が伝えられています。
4月2日は市場からイベントデーとして警戒されており、前後で株価が大きく動く可能性があります。日本株への「相互関税」の影響について、野村證券のチーフ・マーケット・エコノミスト、岡崎康平が解説します。
相互関税の詳細は現時点では不透明
相互関税とは、米国が貿易相手国と対等の関税率を求める動きであり、具体的にどのような関税になるのかは現時点では不透明です。当初は同じ品目同士の関税率を米国と貿易相手国で比べてギャップを埋める形式も予想できましたが、ここ数日出てきたトランプ大統領の発言からはそうではないことがわかってきました。あくまで国全体の総合的な関税障壁の高さを勘案して、国ごとにフレキシブルに関税の形を決めるであろうと考えられます。
「2019年、第1次トランプ政権のときに発表された相互関税に関する米大統領府の報告書によると、非相互的な関税を敷く国として名指しされたのは以下の6か国・地域でした。日本は貿易額全体で見た平均課税額も高くなく、個別品目での関税率格差についても、132か国中、123位と下位にありました。非相互的な関税を敷く主要国と名指しされた6か国・地域に比べると、マクロで見た日本株への影響は限定的である可能性があります。

日本の非関税障壁について批判されている例
しかし、ここでキーワードとなっているのが、「非関税障壁」です。非関税障壁とは、関税以外の要因によって貿易に障壁が生まれることを指します。
米国政府が日本の非関税障壁について具体的に批判している例として、自動車業界の構造的な障壁があります。例えば国産の自動車の電子キーの方式をグローバル基準に合わせるべきだというわけです。また、EV(電気自動車)のチャージャーも日本独自規格です。こうした独自規格の部品やシステムをグローバルの規格に合わせて、米国の自動車メーカーが日本市場に入りやすくすることを求めてくる可能性があります。
3月26日(日本時間27日早朝)には、トランプ大統領は自動車輸入に一律で25%の関税を課すという大統領令にサインしました。日本企業にとっては打撃と言えるでしょう。ただ、日本政府は、関税対象から日本を除外するよう、米国政府に働きかけているようです。先ほどの非関税障壁の緩和も併せて、今後、両国間でどのような「ディール」が出るかに注目です。
このように、トランプ政権の関税政策は、定量的に貿易赤字を減らす目的だけでなく、各国とのディールの一環として使われるという側面がありそうです。
今目立っているのは自動車業界ですが、他にも、医薬品、半導体、林業などの分野が問題視されています。自動車に比べ注目度合いが低い様に思いますが、半導体に関する関税賦課にも注意が必要です。ここ数年、日本では国産半導体の復活に向けた動きが産官学金(産業、政府、大学、金融)で活発化していますが、米国が日本からの半導体輸入に高い関税率を課す場合、こうした動きに対する向かい風と認識される可能性があります。
例えば台湾の半導体企業、台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(TSMC)は、日本の熊本に大規模拠点を建設し、2024年から本格稼働しています。日本での半導体需要を満たすことが主な狙いですが、様々なリスクを念頭にサプライチェーンを多様化・強靱化する狙いもあるとみられます。サプライチェーンの多様化・強靱化それ自体の価値は、米国が関税を半導体に賦課しても変わりません。しかし、米国が半導体の国内供給にこだわる姿勢を強めるならば、米国外の半導体工場立地の魅力は低減する可能性があります。
分野 | 主な内容 |
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輸入政策 | 非関税障壁が存在する分野の例として、コメ、小麦、豚肉、エタノールが挙げられている。 |
衛生・植物検疫 | 殺菌剤使用のタイミング(収穫前か後か)による食品表示上の違いや、輸入品における残留農薬の基準値違反時の対応、(BSE(牛海綿状脳症)への対応としての)牛肉における特定危険部位の除去基準の緩和、生ジャガイモ・リンゴ・石果(モモやプラムなど)輸入の基準緩和などが挙げられている。 |
サービス分野における障壁 | 日本郵便と国際配送業者の競争条件、ゆうちょ銀行・かんぽ生命の改革の進捗、共済の所管官庁、海外大学の日本キャンパスに係る税・奨学金・研究費などの扱い、弁護士と依頼者の秘匿特権の拡大、電気通信事業法の在り方、周波数オークションの在り方、再エネに係る送電キャパシティ問題などが挙げられている。 |
補助金 | 木材・木製品に係る補助金、森林整備に係る森林税の使途などが言及されている。 |
他の障壁(自動車関連) | 米国ベースの安全基準を採用しないこと、自動車標準・試験プロトコルが独自のものであること、車両通信システム(短距離)に対する周波数帯割り当ての独自性、規制導入プロセス全体における外部からの情報提供システムの欠如、供給とサービスのネットワーク開発における障害、燃料自動車(FCV)に対する補助金、充電済み自動車からの送電システムに対する補助金、充電スタンドが日本独自規格であること、などが挙げられている。 |
他の障壁(医療機器及び医薬品関連) | 薬価における新薬創出加算の適用基準、薬価改定等における透明性と予測可能性の欠如、臨床開発・複数地域臨床試験・リスク管理に関する国際基準の考慮、などが挙げられている。 |
他の障壁(その他) | 審議会・研究会の開放性の低さ、パブリック・コメント制度の運用面での問題、特定保健用食品と栄養機能食品の指定基準、医薬部外品の認可プロセス迅速化などが挙げられている。 |
(出所)米通商代表部資料より野村證券市場戦略リサーチ部作成
非関税障壁の緩和が意味するところ
短期的には、相互関税の内容次第では、4月2日以降も株式市場へのネガティブな反応が続く可能性があります。最悪シナリオとして、「全世界に一律20%の関税」という見方も浮上しています。4月2日に悪材料が出尽すとはいえず、しばらくボラティリティの高い状態が続くでしょう。
しかし、非関税障壁を緩和させるということは、競争促進政策でもあり、長い目で見れば日本の経済成長に資する可能性もあります。また、日本の大企業はすでに米国内に生産拠点をつくるなど、関税の影響を受けない直接投資を他国に比べると進めており、相対的に関税の影響を受けにくい面もあります。トランプ政権の関税政策は不透明な部分が多くありますが、日本企業全体の中長期的な成長がこれでストップすると悲観視する必要はないでしょう。

- チーフ・マーケット・エコノミスト
岡崎 康平 - 2009年に野村證券入社。2016年からシカゴ大学ハリス公共政策大学院に留学し、Master of Public Policyの学位を取得。日本経済担当エコノミスト、内閣府出向、日本経済調査グループ・グループリーダーなどを経て、2024年8月から、市場戦略リサーチ部マクロ・ストラテジーグループにて、チーフ・マーケット・エコノミスト(現職)を務める。日本株投資への含意を念頭に置きながら、日本経済・世界経済の分析を幅広く担当。共著書に『EBPM エビデンスに基づく政策形成の導入と実践』(日本経済新聞社)がある。
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