2025.04.10 NEW
“トランプ・プット”発動 相互関税の一部延期で日経平均株価急上昇 今後の注目点 野村證券・岡崎康平
写真/タナカヨシトモ
4月9日(日本時間10日未明)、トランプ大統領はSNSで、発動した直後の相互関税の上乗せ部分を、一部の国・地域について90日間延期する方針を表明しました。対象となったのは、関税の報復をせずに米国との交渉を求めている国・地域で、日本も延期対象です。対日本の関税は自動車関税が25%、相互関税部分は24%とされていましたが、相互関税部分は一律10%となりました。一方、関税の報復を表明している中国の関税は累計125%に引き上げられました。
これを受け、米国株式市場でNYダウは前日比2,962.86ドル高となり、過去最大の上げ幅を記録しました。また、翌10日の日経平均株価も寄り付きから大幅に上昇し、終値では前日比2,894.97円高となり、歴代2位の上げ幅を記録しました。さらに、東京外国為替市場では、円相場が1ドル=146円台から147円台での推移となり、前日9日から円安・ドル高が進行しています。トランプ政権の関税政策と市場に与える影響について、野村證券チーフ・マーケット・エコノミストの岡崎康平が解説します。
関税政策は「脅し」から「ディール」に移行か
トランプ政権による相互関税が、4月9日(米国時間)に全面適用開始となりました。ところが、適用開始からわずか13時間で、トランプ大統領は方針を修正しました。米国の相互関税に対して、報復関税を実行せずに交渉を申し入れている国・地域については、関税の適用を90日延期すると表明したのです。これにより、米国の株式市場は過去最大の上昇幅となり、為替も大きく動きました。
このことは、米国の関税政策のステップが一歩前に進んだことを意味します。ここまでは米政府が一方的に関税賦課を進める段階にあり、いわば「脅し」が政策の主眼でした。これに対して、交渉を申し入れた国に対する90日間の適用延期は「ディール(取引)」の段階と言えます。経済・金融市場に対する悪材料が出る「脅し」から、落としどころを探る「ディール」の局面に入ったことは、金融市場にとってひとまず安心と言えるでしょう。野村證券では、相互関税によりTOPIX(東証株価指数)の2025年度EPS(1株当たり利益)は前期比-7%になると試算していましたが、これが同-3%程度になると試算できます。
相互関税が発表された時点でのポイントは、中国からの迂回輸出にかかわる可能性のあるベトナムやカンボジアなど、東南アジアの相互関税上乗せ部分が高く設定されていたことでした。
(参考記事:相互関税への警戒で日米株価急落 反発のカギを握る米国景気の今後の見通し 米国野村證券・雨宮愛知 | NOMURA ウェルスタイル – 野村の投資&マネーライフ)
米国の貿易赤字解消を徹底する姿勢といって良いでしょう。それが、今回の90日延期を受けて、各国と「ディール」について話し合う姿勢となりました。単純に延期されただけでなく、コミュニケーションの“窓口”が開いたことは朗報だと思います。
米国との交渉での重要キーワードは「敬意」
日本はベッセント米財務長官と、関税の交渉を行うことになっています。ベッセント財務長官は9日、米国が軍事同盟国との関係性を重視しているのは変わらず、経済的にフェアでなかった部分を互いに協力して是正することができれば、関税に関しても協定を締結することは可能だと発言しています。
交渉のメニューは、
・米国の農産物を積極的に輸入する
・アラスカのLNG(液化天然ガス)を購入する
・自動車の非関税障壁を改善する
(参考記事:米トランプ政権による相互関税発動迫る 日本への影響が大きい非関税障壁とは 野村證券・岡崎康平 | NOMURA ウェルスタイル – 野村の投資&マネーライフ)
などが考えられますが、実はこれらはどれが実現しても米国と日本の貿易赤字が解消するほどの規模ではありません。しかし、それでも日米の貿易赤字の解消へ向けて真摯に対応することで道が開けるかもしれません。
関税交渉で最も大事なキーワードは「敬意」だと思います。4月2日に相互関税を発表したとき、トランプ大統領は突然ともいえる文脈で安倍晋三元首相について言及しました。私はそのときちょうど欧州にて機関投資家と接していましたが、「なぜトランプ大統領は、安倍元首相の話を出したのか」とよく聞かれました。
ジャーナリスト・船橋洋一氏の著作『宿命の子』には、当時の安倍政権による第1次トランプ政権との外交の内幕が詳細に記されています。それを読むと、安倍元首相はトランプ氏が最初に大統領に就任した際、最初から「敬意」をもって接していた様子がわかります。欧州の政治家などは、トランプ氏が政治経験の浅いビジネス界の人だということで軽んじて見る部分があったようです。この違いこそが、トランプ大統領に安倍元首相、ひいては日本の外交姿勢を強く印象付けた可能性があります。今後の交渉でも、トランプ政権の政策を全面的に拒絶するのではなく、互いに譲歩できる点を探りながらウィンウィンの関係を築くことが出来るかが重要になるでしょう。
米中対立は引き続き深刻 次の投資対象は
今回の決定により、世界の貿易バランスのなかで米国と中国の双方にかかる関税が際立って高い状況が生まれます。第1次トランプ政権の際に4回にわたって引き上げられた関税が、バイデン前政権でも元には戻らず、半導体規制なども加えられたことを考えると、米中の貿易対立の影響は長く続くとみていいでしょう。米中が高関税を掛け合うなか、相互関税の行く末を見極めつつ、企業はグローバル・サプライチェーンの再編を徐々に進めると思います。
成長著しい東南アジア諸国でも、単に中国からの迂回輸出経路になっているだけの国には相応のリスクが付きまといます。米国・中国とうまく距離感を保ちながら、自由で開かれた、ルールベースの経済・貿易活動を推進できるような国・地域には注目が集まるかもしれません。
関税の影響を受けにくい内需が活性化される国への投資を考えるのも、ひとつのアイデアです。日本はその代表例で、約30年ぶりに賃金の上昇が見られ、若者を中心に購買力が上がることで内需が底堅く成長する可能性があります。

- チーフ・マーケット・エコノミスト
岡崎康平 - 2009年に野村證券入社。2016年からシカゴ大学ハリス公共政策大学院に留学し、Master of Public Policyの学位を取得。日本経済担当エコノミスト、内閣府出向、日本経済調査グループ・グループリーダーなどを経て、2024年8月から、市場戦略リサーチ部マクロ・ストラテジーグループにて、チーフ・マーケット・エコノミスト(現職)を務める。日本株投資への含意を念頭に置きながら、日本経済・世界経済の分析を幅広く担当。共著書に『EBPM エビデンスに基づく政策形成の導入と実践』(日本経済新聞社)がある。
※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。
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