2025.08.04 NEW
米雇用統計下振れもパニック売りは回避か 昨夏のショックとの違いを解説 野村證券・池田雄之輔
写真/タナカヨシトモ(人物)
米労働省が8月1日に発表した7月の米雇用統計では、非農業部門の就業者数の増加幅が市場予想を下回ったほか、過去2ヶ月分も大幅に下方修正されました。これを受けて、8月1日の米国株式市場ではリスク回避の動きが強まりました。また、週明け4日の日本株式市場でも株安が進み、日経平均株価は一時4万円を下回る場面が見られました。雇用統計の悪化の背景や今後の日本株のシナリオについて、野村證券市場戦略リサーチ部長の池田雄之輔が解説します。
雇用統計ショックにより株安・金利低下・ドル全面安
これまでの米国景気については「関税の悪影響はまだ見えないが、FRB(米連邦準備理事会)利下げ再開はもう見える」という、良いとこ取りの説がありましたが、その前半部分に狂いが生じたと言えます。8月1日の金融市場は、米国景気の急減速とFRB早期利下げを織り込み、株安・金利低下・ドル全面安の展開となりました。
ドル円相場は前週末(7月25日)の147.7円から、7月30日FOMC(米連邦公開市場委員会)でのパウエル議長のタカ派的(利下げに消極的)発言と、31日日銀決定会合での植田総裁のハト派的(利上げに消極的)発言の組み合わせで、約3ヶ月ぶりに150円を突破し、151円目前まで駆け上がりましたが、(ドル円相場急上昇、1ドル=150円台後半に 米利下げ期待が一段と低下 野村證券・後藤祐二朗)雇用統計ショックにより147円半ばに押し戻されました。ドル売りの相手通貨としては、「株高局面ではユーロ買い」「株安局面では円買い」がセオリーですが、今回は典型的な後者のパターンとみられます。
2024年8月のサーム・ルール抵触時とは異なる点
発表された米雇用統計(7月分)は、雇用増が前月比7.3万人と市場予想の10.4万人を下回ったことよりも、過去2ヶ月分が計25.8万人下方修正されたことがサプライズでした。「3ヶ月平均の雇用増ペース」は、前月時点で15.0万人だったのが、今回3.5万人にまで急減速し、景気のイメージが様変わりしました。(それゆえトランプ大統領の怒りを買ったことは後述します)。
この現象について、昨年2024年8月に大きく株価が下落した際、雇用統計の弱さにより「サーム・ルール」(直近の3ヶ月平均失業率が過去12ヶ月間の最低水準を0.5%ポイント以上上回ると景気後退局面に入るという経験則)が満たされたことが要因のひとつだったことを思い起こした方もいるでしょう。
参考:史上最大の日経平均株価変動の背景を解説 「米リセッション回避」の見方は変えない 野村證券・池田雄之輔
しかし、昨年とは状況が異なる点がいくつかあります。まず、移民など労働供給が減っていることもあり失業率は4.2%と、1年前から変わっていません。また、賃金上昇率の低下も足踏みしています。さらに、関税によるインフレ押し上げの影響を見極める必要があります。
8月1日のS&P500指数は前日比-1.6%、VIX指数は20超えとなりましたが米国株はオープン直後に急落した後は、利下げ期待にも助けられて下げ渋っており、パニック的な様相はありませんでした。野村證券の米国エコノミストは利下げ再開の時期は2025年9月ではなく同年12月、という予想を維持しています。
トランプ大統領の怒りは新たな「ドル資産離れ」の理由になる可能性
米国の雇用減速は、トランプ関税によってビジネス環境がスタグフレーション(景気減速下でのインフレ高進)的な影響を受けるか、あるいは少なくとも不透明化したことが主因とみられます。トランプ大統領は、雇用統計の下方修正を「政治的な操作だ」と断言し、労働統計局長を解雇しました。これについてウォールストリートジャーナル社説は「(悪いニュースを届けた)メッセンジャーを撃ち殺す行為」と非難しました(8月1日付け)。トランプ大統領に景気悪化のスケープゴートとされる被害者はパウエル議長だけではありませんでした。今回の局長解雇の件は、グローバル投資家に新たな「ドル資産離れ」の理由を与えた可能性があります。
当局者の反応はどうでしょうか。ウォールストリートジャーナルが報じたところによると、NY連銀のウィリアムズ総裁は今回の雇用統計を踏まえつつ、「過去1年間、労働市場は穏やかに減速しているが、(雇用増は)まだ堅調なペースだ」「(景気は)減速したが、この成長ペースは2四半期ほどで終わり、元に戻る」と楽観的でした(8月1日付)。ハマック総裁(クリーブランド連銀)も「労働市場は依然、健全なバランスを保っている」と評価しました(8月1日付ブルームバーグ)。
いったんは日本株は上値の重い展開が予想できる
先週までは日米関税交渉の合意内容もポジティブサプライズがあり、日経平均株価が4万円を回復しました。しかし、「トランプ大統領が結局は高関税の導入を回避する」、すなわち「TRUMP ALWAYS CHICKENS OUT(トランプ大統領は必ずヒヨって逃げる)」ことを前提とした「TACOトレード」の材料は出尽くしの感があり、マクロ、需給を踏まえても、日本株はいったん上値が重くなりそうです。
関税については「最悪の事態はもちろん回避した。事前予想よりも良かった。だが、関税は無くなったわけではない」と評価するのが妥当でしょう。

- 野村證券 市場戦略リサーチ部長
池田 雄之輔 - 1995年野村総合研究所入社、2008年に野村證券転籍。一貫してマクロ経済調査を担当し、為替、株式のチーフストラテジストを歴任、2024年より現職。5年間のロンドン駐在で築いた海外ヘッジファンドとの豊富なネットワークも武器。現在、テレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演中。
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