2021.08.05 NEW
企画やプレゼン、営業にも役立つ。すごいアイデアを生む【アイデアの6原則】とは?
仕事でプレゼンテーションをするときや、上司や先輩を納得させなければならないとき、あるいは新しい商品やサービスを生み出すとき、誰もが「アイデア」を捻り出すだろう。
だが、「すごいアイデアを考えられるのは一部の特別な人だけ」と諦めたり、「自分にはすごいアイデアを生み出す力なんてない」と思ったりしていないだろうか。
ある原則に従えば、誰でもすごいアイデアを生み出すことができるという。『アイデアのちから』の著者であるチップ・ハース、ダン・ハース兄弟は、「成功するアイデア」と「失敗するアイデア」の違いについて、それぞれ違う専門分野の観点から研究を重ねてきた。そこで見つけたのが、「アイデアの6原則(SUCCESs)」。このフレームワークに当てはめれば、誰もが相手の記憶に焼きつき、持続的な影響力を持つアイデアを提供できるようになるだろう。
そもそも「すごいアイデア」とはなにか?
世の中には成功するアイデアと失敗するアイデアがある。著者であるチップ・ハース、ダン・ハース兄弟によれば、成功するアイデアとは、「相手の記憶に焼きつく」もののこと。理解され、記憶に残り、持続的な影響力を持つ。つまり、相手の意見や行動を変えるアイデアのことだ。
たとえば、ポップコーンは体に悪いことを訴えようとする際、「街の映画館で売られているMサイズのバターポップコーンには、飽和脂肪37グラムが含まれている」と言われても、あまりピンと来る人はいないだろう。だが、「街の映画館で売られているMサイズのバターポップコーンには、飽和脂肪が多い。それは、朝食にベーコンエッグ、昼食にビッグマックとフライドポテト、夕食にステーキと付け合せをたっぷり食べるよりも、さらに多い」と言われた方がドキッとして、次回、映画館を訪れたときには、ポップコーンを食べるのを控えるかもしれない。
このように、相手が理解しやすく、また記憶に残るようにすることで「成功するアイデア」に昇華することができる。
では、どのように「成功するアイデア」を生み出せばよいのか。チップ・ハース、ダン・ハース兄弟は、成功したアイデアを多く研究するうちに、同じテーマや属性が共通して見られることに気がついた。そこから導き出したのが「アイデアの6原則」である。
すごいアイデアの6原則
(1)Simple…単純明快である
(2)Unexpected…意外性がある
(3)Concrete…具体的である
(4)Credible…信頼性がある
(5)Emotional…感情に訴える
(6)Story…物語性がある
6つの原則とは一体どのようなものか、ひとつずつ見ていこう。
(1)Simple…単純明快である
どんなに素晴らしい文章でも、タイトルから内容が分からなければ、読んでもらうことは難しい。「単純明快」とは「簡単な言葉で述べる」ということではなく、「的確に、正しい優先順位で伝える」ということが大事なのだ。
「単純明快」には二つの側面がある。ひとつは、「核となる部分を持っていること」、それから「簡潔に伝えること」だ。
「核となる部分」がどんなものか理解するには、新聞記事のリードが役立つ。通常、新聞記者はリードに最重要情報を記述するよう、教えこまれる。リードのあとは、重要な情報から順番に提示される。ジャーナリストはこれを「逆ピラミッド構造」と呼んでおり、読者の「もっと続きを読みたい」という行動を促してくれる。
そして「簡潔に伝える」とは、情報量を極限まで減らして相手の記憶に焼きつかせることだ。人間の脳には処理能力の問題がある。短く、誰もが容易に理解できる言葉で説明することが大事であり、こうした言葉は相手に適切な行動を促しやすくなる。
(2)Unexpected…意外性がある
アイデアに興味を持ってもらうためには、相手の予想をはるかに超える意外性を盛り込み、相手の関心をつかむ必要がある。関心をつかむもっとも基本的な方法は、「パターンを破る」ことだ。人間は、なんらかのパターンがあればすぐに順応してしまう。同じような感覚的刺激を与え続けられると、それに対して注意を払わなくなるのだ。そのため、アイデアを考えるときには、「驚き」や「意外性」を含ませると良い。
「そうはいっても、相手に驚きや意外性を与えるのは、そう簡単なことではない」と、考える人も多いだろう。そんなときには、「相手の知識の隙間を突く」という手法を覚えておくと良いだろう。
人がゴシップ好きなのも、そういった点に起因している。当の人物のことはよく知っているのに、足りない情報をチラつかせられると好奇心がかき立てられ、食いついてしまう。人が有名人のゴシップや恋愛面の噂に興味をかき立てられるのも、そういった点に起因している。当の人物のことはよく知っているのに、足りない情報があると、それを埋めたくなるからだ。つまり、「すごいアイデア」を生み出せるかどうかは、相手がきっと知りたくてしようがないだろうと思われることを指摘できるかどうかがポイントになってくる。
(3)Concrete…具体的である
アイデアがつまずく原因の多くは、コミュニケーションが成立しないことにある。アイデアを理解してもらうためには、人間の行動や五感を通じて説明する必要があるからだ。たとえば料理のレシピでも、「粘りが出るまで煮詰める」と言葉で説明されるだけでは具体的に何分くらいなのか分かりづらい。だが、「粘りが出るまで、10分煮詰める」など明確な指標を示すことで容易にわかる。
つまり、記憶に残りやすいアイデアとは、具体的なイメージを人間の脳に作り出すことができるアイデアと言い換えることができる。アイデアに具体性を与えることは、目標を分かりやすくし、他者との協調を促すことにつながる。そのアイデアを聞いたすべての人を共通の場に立たせ、同じ課題に取り組んでいるという安心感を一様に与えてくれるのだ。
(4)Credible…信頼性がある
アイデア自体に信頼性がなければ、記憶に焼きつけることはできない。誰が言ったことなのか、根拠は何か、といったことが分からないアイデアは、どれほど意外性があるものだったとしても、疑いの目が向けられるだろう。その結果、人の行動を促すことは難しくなる。
信頼性を得ることは難しい。有識者の声を盛り込むのは、アイデアに信頼性を与えるための良い方法だが、誰からもそれが得られないこともあるだろう。また、統計的な情報を示すのも良いが、反対に数字が入ることで、物事の客観性ばかりが強調され、「自分ごと」として捉えてもらえない可能性もある。
むしろ、鮮明な細部描写を少し盛り込む方が、統計を並べたてるより説得力を持つこともある。結局、「これをすれば、アイデアに信頼性を与えることができる」という最良かつ唯一の手法は存在せず、状況に応じて、最適な手法を選ぶのがよい。大事なことは、「どんな場合でも、アイデア自体に信頼性がなければ、記憶に焼きつけることはできない」と覚えておくことだ。
(5)Emotional…感情に訴える
アイデアを相手の心に焼きつけるには、相手の感情をかき立てる、つまり、感情に訴えることが必要だ。なぜなら、感情は人々を行動へ駆り立てるからだ。
たとえば広告界では、「メリットのメリットを述べよ」と言われている。分かりやすく言えば、「あなたにとって、こんなメリットがありますよ」というメッセージを中心に据えることである。広告のなかに「あなた」という言葉が多用されるかどうかでも、効果は大きく変わってくる。なぜならその広告は、他の誰でもなく、「あなたに対して、こんなメリットがあるのですよ」と語りかけているからだ。メリットの大きさを語るのではなく、メリットを実感させることが重要である。
本書でも、「史上最高のコピーライター」とされるジョン・ケープルズが、「『グッドイヤーのタイヤを使うと、誰でも安心できます』と言わず、『グッドイヤーのタイヤを使うと、あなたは安心できます』と言うべきだ」と述べていたことが紹介されている。このように、相手が手軽に実感できるほどのメリットを約束すれば、相手の感情は動き、行動につなげやすくなるだろう。
(6)Story…物語性がある
アイデアには物語性を持たせることが大事である。アイデアに物語性があれば、そのアイデアを聞いた相手は、まるで自分が体験したかのような気になる。さらには、「実際に自分も体験してみたい」という欲求にかられるかもしれない。たとえば、消防士は消火活動を終えるたびに、体験談を交わしているそうだ。そうすることで、消火活動の体験値を何倍にも増やし、いざというとき、スムーズに行動ができるように普段から準備しているのだ。
アイデアに物語性があるとよい理由は、物語はほぼ例外なく具体的で、感情に訴える要素を含んでいるからだ。大事なことは、普段の生活のなかでアイデアの緒として使えそうな物語の種を見つけること。そうした日常的な習慣が、アイデアを生み出す力を養ってくれるだろう。
以上、6つの原則が、人に影響を与えるアイデアを生み出すためのフレームワークである。
フレームワークを日常に持ち込む
身の回りにある成功しているアイデアを思い出してみると、この6原則に当てはまっているものが多いのではないだろうか。人を動かし、世の中に影響を与えるすごいアイデアを考えることができるのは、決して創造性にあふれた、特別な人たちだけではない。誰でもこのフレームワークを使えば、相手の意見や行動を変えるような影響力を持たせることができるはずだ。
終章で、著者らは「SUCCESsチェックリストは、ごく実用的な道具として使ってほしい」と語っている。ロケット科学のように難しいものではない。だが、無意識に、本能的にできるものでもない。常に意識し、まじめにコツコツと努力を積み重ねた者だけが、「すごいアイデア」を生み出すことができるのだ。
企画立案だけでなく資料作成やプレゼン、営業活動時など、日常的に「SUCCESsチェックリストをクリアできているか」ということを習慣づければ、あなたのアイデアも「すごいアイデア」になるかもしれない。アイデアを考える際に使えるように、ぜひ、このSUCCESsを覚えておいてほしい。
■書籍情報
書籍名:アイデアのちから
著者 :チップ・ハース(Chip Heath)
スタンフォード大学経営学部教授(組織行動論)
著者 :ダン・ハース(Dan Heath)
デューク・コーポレートエデュケーションのコンサルタント。ニューメディア教科書会社「シンクウェル」の共同創設者
訳者 :飯岡 美紀
出版社:日経BP
※本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです。