2021.09.30 NEW
“できる人”ほどテレワークで潰れやすい? 健康的に過ごすストレスコントロール術
自身のメンタルヘルスをうまくコントロールすることは、社会人に欠かせないスキルだ。コロナ禍が長引くいま、その必要性はますます高まっている。
- 2020年9月、厚生労働省が実施した「新型コロナウイルス感染症に係るメンタルヘルスに関する調査」では、同年の2月から調査時にかけて、約半数の人が「何らかの不安を感じていた」と答えている。不安の対象は「自分や家族の感染」がもっとも多く、次に「自粛等による生活の変化」が多かった。
多くのビジネスパーソンが経験した生活の変化といえば、テレワークだろう。そして、後述するがテレワーク下では、仕事ができる人ほどひとりで仕事を抱え込み、ストレスで潰れてしまう可能性がある。新しいライフスタイルに適応し、ストレスなく過ごすためのヒントを探る。
「できる人」ほどテレワークで潰れやすい理由
現在、多くの企業でテレワークが実施されている。東京都産業労働局が都内の企業を対象に実施し、2021年9月に開示した「テレワーク実施率調査結果」によると、同年8月には、対象企業の65%がテレワークを導入していた。
- 急速なテレワークの広がりは、働く人たちに複雑な受け止め方をされているようだ。株式会社oricon MEが2020年6月末から7月にかけて行った「テレワークに関する実態調査」では、テレワークに「賛成」と回答した人は82.2%にのぼった(図1)。
出典:株式会社oricon ME「『テレワーク』の利用実態に関するレポート」
※ 全国の18歳から69歳のビジネスパーソンまたはアルバイト従事者の男女10,519名を対象にしたインターネット調査。2020年6月22日~7月3日に実施。
しかし、「今後のテレワーク実施意向」については、「オフィスワークがいい」(29.0%)、「どちらかといえばオフィスワークがいい」(31.6%)と、約6割がオフィスワークの意向を示している(図2)。
出典:株式会社oricon ME「『テレワーク』の利用実態に関するレポート」
※ 全国の18歳から69歳のビジネスパーソンまたはアルバイト従事者の男女10,519名を対象にしたインターネット調査。2020年6月22日~7月3日に実施。
テレワーク賛成派が8割以上いる一方で、オフィスワークを希望する人が多いのは、矛盾しているように見える。これは急遽訪れた、新たな働き方に順応しきれていない人が多い可能性がある。
テレワークは、やろうと思えば際限なく、いつでも仕事ができる環境だ。仕事を多く任されやすい人や自分ひとりで対処できる人、自発的に仕事を見つけ出せる人――つまり、できる人ほど業務量や労働時間が増え、気づかぬうちにストレスを抱えるといった状況に陥りやすいのではないだろうか。
「ワーク・ライフ・ミックス」時代に意識したいのは、ストレスコントロール
また、テレワークはライフスタイル全体に変化をもたらしている。テレワークが普及した現在のライフスタイルは、「ワーク・ライフ・ミックス」とも呼ばれ始めている。これは、働き方改革のなかでも説かれていた「ワーク・ライフ・バランス」と言葉の響きが似ている。
「ワーク・ライフ・バランス」とは、仕事と私生活を切り離して考えるとともに、それらを自らが希望する、調和のとれた配分にすること。仕事の時間を適切にし、その分私生活の充実を図る重要な概念だ。一方の「ワーク・ライフ・ミックス」とは、仕事と私生活を無理に分けず、むしろ両者を一緒にして働くライフスタイルのこと。リゾート地など、旅先で仕事をするワーケーションなどは、これが顕著化した例だろう。
ワーク・ライフ・ミックスは、自分の好きな場所で仕事ができるなど、仕事の自由度が増すポジティブな側面もあるが、うまく適応ができていない人には逆効果をもたらす。テレワークで浮いた通勤時間はおろか、私生活の時間を必要以上に犠牲にして、仕事に偏ってしまう状況だ。
新しいライフスタイルを自身にとって良いものにするには、生活の構成要素を取捨選択することが重要。そこで、社会人基礎力のひとつでもある、ストレスコントロールのスキルが役立つ。
ストレスコントロールの第一歩は、ストレスの原因を把握することだ。原因がわからない漠然としたストレスは、実際よりも大きく捉えてしまいがちであるからだ。次にやるべきことは、そのストレスの原因に対して、自分はどうしたいか考えること。そうすれば、おのずと対策や対処法が見えてくる。
ここでいうストレスコントロールとは、ストレスに耐え抜くことではないことを押さえておきたい。ストレスの原因を特定した上で、それを取り除いたり、受け止め方を変えたり、発散させて和らげたりすることで、メンタルを過剰なストレスから守ることを指している。
テレワーク下で取り組みたいストレスコントロール術
最後に、テレワーク下でのストレスコントロール術を考えよう。まず、「オンとオフの切り替えがうまくできない」というのがテレワークでストレスが溜まる原因のひとつだろう。これはワーク・ライフ・ミックスの悪例で、プライベートな生活空間と仕事場が一緒になり、「なかなか仕事モードに切り替えられない」「休もうと思っても、仕事が気がかりで休めない」という人も少なくない。
この場合は、タスクの優先順位を決め、時間を意識し取り組むことも有効な対処法だ。仕事は探せばいくらでもあるものなので、「今やるべきこと」から「やっておいたほうがいいこと」までを同時に片付けようとするのではなく、「今はやらなくてもいいこと」を線引きする必要がある。
そのためには、仕事をリスト化し、その日にしなければならないこと、次の日でもいいものというように、仕事の順序を整理したい。また、時間管理には、アナログだがタイマーを設定し、定期的に休憩時間を取り入れる仕組み作りもできるだろう。
次に、テレワークで「孤独を感じやすくなる」という、メンタルヘルスに関わるストレスも考えられる。黙々と仕事をこなす環境が肌に合わないなら、チャット上のグループに新しいアイデアを持ちかけてみたり、オンラインミーティングの際にブレイクタイムを取り入れたりする工夫などができる。チームへの働きかけは心細さを解消するだけでなく、周囲の業務状況をキャッチアップしたり、ひとりで仕事を抱え込まないようにしたりと、連携の強化につながる。
中には、忙しさで自分が実は孤独感を抱いていることに気が付いていない人もいるかもしれない。自分の心の状態を見つめるために、一言日記や上司との定期的な1on1などを取り入れるのも手だろう。
ストレスコントロールのスキルは、ワーク・ライフ・ミックスのみならず、どのようなライフスタイルにも役立つもの。生活の変化はストレスコントロールスキルを磨くための機会だと発想を転換し、早速実践してみてはいかがだろうか。