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2021.10.14 NEW

ここからが正念場。Hondaに聞く「自動運転」の現在地【世界初・レベル3実用化】

ここからが正念場。Hondaに聞く「自動運転」の現在地【世界初・レベル3実用化】のイメージ

人類の夢が、またひとつ現実に近づいた。世界中の自動車メーカーが自動運転システムの開発にしのぎを削るなか、本田技研工業株式会社(以下、Honda)が世界初(注)となる自動運転レベル3機能を搭載した「新型LEGEND」を2021年3月に発売したのだ。

本記事では、株式会社本田技術研究所 先進技術研究所 エグゼクティブチーフエンジニアで、世界初(注)の自動運転レベル3技術を支える「Honda SENSING Elite」の開発を指揮した杉本洋一(すぎもと よういち)さんに取材。自動運転技術の現在地や、周辺産業へのインパクトなどを伺った。

(注)2020年11月、Hondaは自動運転レベル3に求められる国土交通省の型式指定を世界で初めて取得し、2021年3月に発売した。

「レベル3」からが自動運転! 自動運転のレベルとは?

現在の自動運転の技術では具体的に何ができるのか、生活がどのように変化するのか、理解が追い付いていないという人も多いだろう。杉本さんは「自動運転の『レベル』と『領域』の違いについて整理すると、自動運転技術の全体像が見えてくると思います」とアドバイスする。

まずは自動運転の「レベル」とは何か。これはどの程度の自動運転が可能なのかを基準にしてレベル分けしたもので、日本の国土交通省ではアメリカの自動車技術会(SAE)が定めた規格を採用。レベル0からレベル5までの6段階に分類されている。

図1:SAE 自動車用運転自動化システムレベルの定義

図1:SAE 自動車用運転自動化システムレベルの定義

出典:Honda資料より編集部作成

レベル1とレベル2は、正確には自動運転ではなく「運転支援」に区分される。具体的には、システムが危険を察知すると自動でブレーキが作動したり、車線からはみ出さないようにサポートする機能などがあるが、あくまでも操縦の主体はドライバーだ。従来の車に搭載されているのはレベル2までの技術で、これらの機能で安全性は格段に高まるものの、ドライバーは常に前方を監視することが求められる。

これに対し、レベル3からは明確に「自動運転」と定義される

「レベル2とレベル3の間には、技術的に非常に大きな壁があります。レベル3からは、操縦の主体がドライバーではなくシステムになるからです」と、杉本さん。Hondaの新型LEGENDが搭載するレベル3にあたる機能が、高速道路や自動車専用道路での渋滞時など、特定の走行条件下でシステムが操縦の主体となる、「トラフィックジャムパイロット(渋滞運転機能)」機能だ。

高速道路の渋滞は多くのドライバーが追従や、割り込み車との合流などによる疲労に悩まされるが、トラフィックジャムパイロット機能があれば、対象の領域で時速30km以下になると自動的にシステムが作動。渋滞が解消して速度が時速50kmを超えるときや、万が一システムが故障したときなどは、即座にドライバーに運転再開の要求が出されるが、それまでの間は運転から解放され、ナビ画面を操作したり、DVDやテレビなどの映像コンテンツを楽しむといった、自由な時間の使い方ができるのだ。

自動運転の2つの領域

次に、自動運転の「領域」について、現在2つのアプローチがあるという。ここまでの解説は、個人の移動手段となる「パーソナルカー」の領域で、Hondaの新型LEGENDもこれに該当する。

もうひとつのアプローチが、限定エリア内の移動サービスである「Mobility as a Service(以下、MaaS)」の領域だ(図2)。MaaSは公共交通機関で採算をとるのが難しい地域などで、人々の交通インフラとなりうる。低速で無人走行するバスやカートなどが想定されているため、レベル4以上の技術を目指しているという。

図2:2つの自動運転システム

図2:2つの自動運転システム

出典:Honda資料より編集部作成

自動車産業はもともとすそ野の広い産業ではあるが、自動運転でAIやデータ解析、センサーやソフトウェア開発の領域の重要性が高まりそうだと杉本さんは話す。特に、次世代の交通インフラにもなりうるMaaSの実現には、業種やサービスの垣根を超えた連携が必要になるため、さまざまな技術を持つ事業者が参入し、各地で実証実験が進められているという。

このように、自動運転の発展は、関連産業を拡大させるポテンシャルがある。その範囲は、自動運転の技術を支える事業者だけではない。将来、自動運転の拡大とともに、車両がインターネットに常時接続する「コネクテッドカー」になれば自動車自体が“広告メディア”となり、観光業や飲食業など、さまざま産業が恩恵を受けることが期待できると杉本さんは言う。

「車両もコネクテッドカーとなっていけば、現在地情報にひもづいた情報を受け取ることができます。そうすると、たとえばAIによるコンシェルジュのような機能がおすすめスポットをレコメンドするなど、リアルタイムに人を呼ぶための施策を展開できるようになります。

運転者の視点で考えると、システムが操縦の主体の間は移動を楽しみながら目的地を考えたり、意外なところに導かれたりといった、新たな体験ができるでしょう。観光やショッピング、飲食などの活性化に一役買えると考えています」

「事故に遭わない社会」の実現を支える技術

実際に自動運転車を運転するとなると、最も気になるのはその安全性だろう。自動運転車の実用化までには、国土交通省によって安全性が厳しく評価されている。

「レベル2までの運転支援と、レベル3以上の自動運転で最も異なるのは、安全に対する考え方です。運転支援では、運転中の事故を大幅に減らすことで価値を認められました。しかし、システムが主体である自動運転では、事故を起こさないことを証明する必要があるのです」と、杉本さん。

国土交通省からレベル3の認定を受けるには、「合理的に予見される防止可能な人身事故が生じない」と認められる必要がある。つまり、歩道からの急な飛び出しや、センターラインをはみ出した対向車など、回避できない事態を除いて事故が生じないと認められた場合のみ、レベル3を実用化できるのだ(図3)。

図3:レベル3の壁

図3:レベル3の壁

出典:Honda資料より編集部作成

Hondaは安全性を検証するために、全国の高速道路130万kmをテスト走行したり、スーパーコンピューターで1,000万件を超えるシナリオの検証を行うなど、粘り強く改良を重ねてきた。

世界初(注)のレベル3実現を支えたのは、Hondaの開発者たちのこうした気の遠くなるような技術進化の積み重ねと、安全に対する並々ならぬ情熱だ。

「交通事故の多くは、わき見など、危険な状況に気づくのが遅れる認知ミスに起因します。そこで、以前から衝突軽減ブレーキ(CMBS)や車線維持を支援するシステム(LKAS)など、ドライバー起因の事故を回避する安全運転支援システム『Honda SENSING』を確立してきました。レベル3に対応する『Honda SENSING Elite』は、運転支援の領域で積み上げてきたアセットがあってこそ実現できたのです」

杉本さんは「危険を察知する運転支援と、自動運転の技術が普及することで、死亡事故の多くは未然に防ぐことができると考えます。当社が目指す『事故に遭わない社会』がより現実に近づくのです」と語る。

こうした未来は、完全な自動運転であるレベル5が実現した先を待たず、訪れるかもしれない。現在、レベル3が利用できる環境は高速道路の渋滞時などに限られているが、その範囲が一般道路にまで拡大すれば、社会は大きく変わるはずだ。

(注)2020年11月、Hondaは自動運転レベル3に求められる国土交通省の型式指定を世界で初めて取得し、2021年3月に発売した。

すべての人に「移動の喜び」を

自動運転技術の進化が、技術面・社会で利用できる範囲の両軸で拡大していくにつれ、これまで事故を起こすことを恐れて免許を取らない選択をしてきた人など、さまざまな人のライフスタイルを変えるだろう

また、超高齢社会の深化に伴い、高齢者の交通事故が問題視されているが、公共交通機関が発達していない地方では、車を運転できなくなることは死活問題である。杉本さんによると、現在政府では運転支援機能を搭載したセーフティ・サポートカー限定の免許を新設することも検討されているという。

自動運転のテクノロジーが、移動の自由を失いかけている人々を救う日もそう遠くはないのかもしれない。杉本さんは、自動運転技術を通して「運転に対する不安による移動のバリアをなくし、あらゆる人に移動の喜びを提供していきたい」と話す。

「コロナ禍で移動が制限されているいま、『移動しなくても良いニーズ』と、『それでも移動したいニーズ』とがわかれてきているように感じます。買い物は通販サービスで、など移動しないことで高まる利便性がある一方、『まだ知らない場所に行きたい』『遠方の家族に会いに行きたい』など、移動することでしか得られないエモーショナルな感動があるはずです。

移動の自由は、大きな喜びや自己成長をもたらしてくれるでしょう。人々がライフスタイルの選択肢を広げられる未来を、私たちの手でつくっていきたいです」

自動運転レベル3の実現は、私たちの未来に光をともしている。今後の自動車産業を取り巻く技術革新と、その市場成長に注目していきたい。

【お話をお伺いした方】
杉本 洋一(すぎもと よういち)
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