2022.03.24 NEW
悪いインフレ? 生活にも影響する「スタグフレーション」とは
ここ最近、「スタグフレーション」という経済用語を耳にする機会が増えたと感じている人は多いかもしれないが、その意味を説明できるだろうか。日本では長らくデフレーションが経済に与える影響を懸念されているが、スタグフレーションも同様に厄介で、私達の生活やビジネスに大きな影響を与える可能性がある。
スタグフレーションの概念や生活にどんな影響があるのかを知り、乗り切るための対策を考えてみよう。
スタグフレーションは「悪いインフレ」
スタグフレーションはインフレの一種だ。まずは、デフレーション(以下、デフレ)とインフレーション(以下、インフレ)について整理しておきたい。簡単にいえば、デフレは物価が継続的に下落する状態で、インフレは物価が継続的に上昇する状態のことをいう。
分かりやすい例として、カップ麺で考えてみよう。
以前に150円で売っていたカップ麺が、デフレ時だと100円で購入できるなど、モノの値段が下がっていく。消費者は「値下がりが続くとお得だ」と感じるかもしれないが、次第にモノが売れずに不景気となる。そうすると企業業績の悪化や従業員の給与の減少などから人々の所得が減り、消費者は消費を控えるようになる。企業はさらに値下げをしなければ売れないという悪循環「デフレ・スパイラル」に陥ってしまうこともある。
一方、以前150円で売っていたカップ麺が200円になるなど、インフレ時はモノの値段が上がっていく。需要が供給を上回るときや原材料価格が上昇するときにインフレは起こりやすく、需要が増えると企業の生産活動が活発化するため、従業員の給料も上がるといった好循環を招きやすい。その結果、ゆるやかなインフレは、景気の安定化や拡大を促す傾向がある。
ここまでをまとめると、モノの値段が下がるデフレ時は景気が停滞しやすく、モノの値段が上がるインフレ時は景気が安定・拡大しやすいといえる。
では、本題のスタグフレーションについてだが、これは不況を意味するスタグネーションとインフレーションの合成語で、景気が停滞しているにもかかわらず、物価の上昇が続く現象を指す(図1)。
通常、景気が停滞すると、需要が落ち込み、物価が下落していくデフレの状態になる。しかし、不景気の中で原材料価格などが上昇すると、給料は増えないにもかかわらず、物価の上昇が続く現象が起こることがある。これがスタグフレーションで、給料が同水準か減少傾向で推移する中、食料品やガス代などの生活必需品の価格が軒並み上昇してしまうと、私達の生活に影響が及んでしまうのだ。
2022年の現在は物価上昇中
近頃、さまざまなモノの値上がりを感じている人は多いのではないだろうか?
たとえば、大手パンメーカーは、2021年からの小麦粉の値上がりを受け、2022年1月1日出荷分から一部の食パン・菓子パンの値上げをした。また、電気代やガス代は燃料や原料の価格に合わせて上昇傾向にあるほか、同年3月下旬には大手製紙メーカーがトイレットペーパーなど家庭紙製品全品を値上げするなど、さまざまな商品の値上げが相次いでいる。
物価の変動を表す指数である「消費者物価指数」を見ても、2021年度から前年同月比で上向く傾向にある(図2)。給料が伸び悩む中、このまま生活必需品の価格が上昇し続ければ、スタグフレーションに近い状態になりかねない。
出典:総務省統計局「2020年基準 消費者物価指数 全国 2021年(令和3年)平均」をもとに編集部作成
日本はスタグフレーションを経験済み
物価の動きを観察するには、さまざまな製品の原料になる資源価格の値上がりに注目したい。中でも原油は、生活に欠かせないプラスチック製品やガソリンの原料になるため、原油価格の変動は暮らしや企業活動に大きな影響を及ぼす可能性がある。
過去を振り返ると、1970年代の第1次オイルショック後に日本はスタグフレーションを経験した。第1次オイルショックのきっかけは、1973年に勃発した第4次中東戦争で、石油輸出機構に加盟している中東の国々が原油の供給制限と輸出価格の大幅な引き上げを行い、国際原油価格が3カ月で約4倍に高騰。当時エネルギーの8割近くを輸入原油に頼っていた日本の社会は大きく混乱した。
その様子を当時のデータから見てみよう(図3)。消費者物価指数は、第4次中東戦争前の1972年には前年比4.9%上昇だったが、1973年は同11.7%上昇、1974年は同23.2%上昇している。一方、実質GDP成長率の推移を見ると、物価が急上昇する中、同時期に大きく落ち込んでいる様子が分かる。
出典:総務省統計局「2020年基準 消費者物価指数 全国 2021年(令和3年)平均」、内閣府「令和3年度 年次経済財政報告」をもとに編集部作成
スタグフレーションに備えるためにやっておくべきこと
岸田内閣は、従業員の給与総額を増やした企業に、増加分の一定割合を税額控除する方針を示すなど、賃上げに取り組んでいる。こうした政策が奏功し、日本経済がコロナ禍から立ち直れば、インフレになってもスタグフレーションを防ぐことができるかもしれない。
しかし、もしものために、個人でもスタグフレーションに備えておくことは大切だ。具体的な方法はさまざま考えられるが、副業やサイドビジネスで収入源を増やすのは多忙なビジネスパーソンには難しいこともあるだろう。そのような時は、本業で給与を上げるためのビシネススキル向上を目指すと同時に、収入の一部を資産運用に充てて、早めに資産形成に取り組むことも考えておくべきではないだろうか。
重要なことは、経済的なショックや不景気が来ても耐えられるようにしておくこと。この機会に、お金の使い方や資産のつくり方を考えておこう。