2023.04.13 NEW
コミュニケーションデザインとは? 人との関わり方が多様化する現代に必要なスキル!
入社や人事異動などを機に、環境が大きく変わることの多い4月。新たな業務や仕事仲間との出会いに胸を躍らせる一方、「うまくやっていけるだろうか」と不安を抱くビジネスパーソンもいるだろう。
良好な人間関係の構築や効率的な業務遂行に欠かせないスキルといえば、やはり「コミュニケーション力」だ。しかし、刻々と変化する社会環境やデジタルツールの導入により、ビジネスシーンでのコミュニケーションは様変わりしている。
こうした状況のなか、上司や同僚に対してどのように振る舞えばよいのか、良策はあるのだろうか?
新しい職場に飛び込むとき、多くの人が不安を感じている
まずは、新しい職場に対し人々がどのように感じているのか、アンケート調査をみてみよう。
「新しい職場で不安になることランキング」の調査で、「新しい職場は不安を感じますか?」という設問には、66.4%が「かなり感じる」、30.8%が「少し感じる」と回答。合計すると、実に97.2%が新しい職場に不安を感じているのだ。
「かなり感じる・少し感じる」と回答した486人を対象に、不安の内容について聞いたところ、「職場の人間関係・雰囲気」が圧倒的多数を占めた(図1)。
順位 | 新しい職場で不安になること | 人数 |
---|---|---|
1 | 職場の人間関係・雰囲気 | 417 |
2 | 仕事をこなせるか | 51 |
3 | スキルが見合っているか | 13 |
4 | 質問しやすい環境か | 8 |
5 | 社風・独自ルールがわからない | 6 |
5 | ハラスメントがないか | 6 |
7 | 求人内容と実情に違いがないか | 5 |
「新しい職場は不安を感じますか?」の設問に「かなり感じる」「少し感じる」と回答した人に質問
そして、「新しい職場で意識していること」に対する回答は、「コミュニケーションを大切にする」が1位となっている。多くの人が、コミュニケーションを大切にし、新しい職場で良好な人間関係を築こうと努力していることがうかがえる(図2)。
順位 | 新しい職場で意識していること | 人数 |
---|---|---|
1 | コミュニケーションを大切にする | 222 |
2 | 早く仕事を覚える | 105 |
3 | 謙虚に振る舞う | 61 |
4 | 礼儀やマナーに気を配る | 46 |
5 | 率先して動く | 20 |
6 | 職場の人間関係を把握する | 19 |
7 | 周りに合わせる | 17 |
出典:図1・2ともに、株式会社ビズヒッツ「新しい職場で不安になることランキング! 就職・転職先での不安解消方法【500人アンケート調査】」
全国の働く男女を対象にしたインターネット調査。調査期間:2021年2月1日~2日 調査人数:500人(女性353人/男性147人)
では、コミュニケーションは実際にどのような効果を生むのだろうか。別の会社による「職場でのコミュニケーション」の調査結果に答えを探してみよう。
「普段、職場でのコミュニケーションは取れていると思いますか?」の質問に、「取れている」または「どちらかといえば取れている」と回答した人(5,726人)に対し、「コミュニケーションが取れることは何に効果がありますか?」と質問をしたところ、「働きやすさ」69%、「チームワーク」63%、「仕事の効率」57%の順で回答が多かった(図3)。
「普段、職場でのコミュニケーションは取れていると思いますか?」の設問に対して「取れている」または「どちらかといえば取れている」と回答した人に質問
出典:エン・ジャパン株式会社「『職場でのコミュニケーション』調査」をもとに編集部作成
総合求人サイト『エン転職』のユーザーを対象としたインターネットによるアンケート調査より、「普段、職場でのコミュニケーションは取れていると思いますか?」との設問に対して「取れている」「どちらかといえば取れている」と回答した人に質問。調査期間:2021年9月28日~10月26日 有効回答数(調査全体):8,948人
調査結果から、働きやすさの向上や仕事の効率を上げるためには、相手とよいコミュニケーションを取ることが近道であるとわかる。
しかし現実は、意思疎通がうまくいかないために理解の食い違いが起こり、業務が思うように進まない場合もよくある。だからこそ、その対処法を誰もが知りたいところだろう。
業務効率化、ストレス緩和に関連。コミュニケーションを「コスト」で考える
ビジネスコミュニケーションのあり方について、『それでは伝わらない! ビジネスコミュニケーション新常識 デジタルグローバルな作法は若者に学べ』(日経BP)の著者である西原勇介さんに、コミュニケーションの基本や新時代のコミュニケーションのあり方について話を伺った。
そもそも、職場におけるコミュニケーションがなぜ重要なのか、そしてどのような役割を担っているのだろうか。
「ビジネスを進める上での源泉だといえます。顧客にもパートナーに対しても、ビジネス上の信頼関係を築く源泉であり、生産性の源泉にもなってくると考えています」と西原さんは話す。
さらに、ビジネスのなかでどれだけコミュニケーションに時間や労力をかけたか、いわゆる「コミュニケーションコスト」が軽視されがちだと西原さんは指摘する。
「仕事の成果を生み出すまでにチームメンバーや顧客との間にどれだけのコミュニケーションがあったのか、あるいは円滑にするために自問自答があったのか、そういうものは見えにくいものです。しかし、チーム全体の生産性や信頼性向上のためにコミュニケーションコストについて向き合うべきなのです。コストと言っても単に費用だけでなく、メンバーの社内外の時間や労力、ストレスも含みます」
意思疎通のために時間や労力がかかれば、その分、プロジェクト全体のコストがかさむことになる。
具体的なシーンをイメージしてみよう。
上司から書類作成の指示を受けその骨子を口頭で説明されたが、書類作成後に重要な要素が抜けており、大幅なやり直しとなってしまった。1対1の口頭のみの連絡では、認識が食い違ったり、「言った」「言わない」となったりと、トラブルが発生しがちだ。
「このような事態を防ぐため、話した内容を一度テキスト化して、相手と共有するとよいでしょう」と西原さんは助言する。発言に対する備忘録を残すだけではなく、お互いが同じイメージを共有しているかを確認するのが目的だ。
「また、テキストで指示された内容を表や図にしてみたり、逆にイメージで渡されたものをテキストにまとめたりというように、表現媒体を変えて認識を擦り合わせていくことで、より深い合意形成ができるようになります。相手にとっても、イメージを別の視点で見ることで新たな気付きを得ることにもつながります。指示・合意内容をそのつど形にするのは、一見、手間がかかるように感じられますが、双方の理解が食い違ったまま作業を進めてしまうと、後になって否定されやり直すことになり、かえってコストがかかってしまいます。この一手間をかけることで、トラブル発生時にかかる時間や労力を回避し、結果としてコミュニケーションコストが抑えられるのです」
多様化するツールを使いこなしてコミュニケーションをデザインする
トラブルを防ぎ、情報を共有するためにもルールを設ける必要がある。
通話内容をテキスト化して共有する、会議などで出たアイデアを図やテキストにまとめて共有するというように、ルール化することが「コミュニケーションをデザインする」ということなのだと、西原さんは教えてくれた。ここには、発信や確認に使うツールの使い方についてのルールも含まれる。
現在、ビジネスシーンで用いられるコミュニケーションツールは、「対面」「ビデオ通話」「電話」「メール」のほか、今では多くの会社で導入されている「チャットアプリ」などさまざまだ。それぞれのコミュニケーションツールにはメリット・デメリットがあると西原さんはいう。西原さんの考えるメリット・デメリットを下図にまとめてみた(図4)。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
対面 | 表情や声色から感情の機微をつかめる。世代によっては信頼を得やすい | 対面するための移動の手間、会議前のアイスブレイクなど時間がかかる |
ビデオ通話 | 即ミーティングが開催できる手軽さ。要点からすぐ始められる | 画面越しゆえに、感情の機微を理解しにくい。世代によっては信頼関係を築きにくい |
電話 | 素早く、口頭で、対面に近いやり取りができる。声色から思いや感情を伝えることもできる | 急に電話がかかってくるため、作業が中断される。口頭会話で認識の差異が生まれやすい |
メール | 記録性の高いやり取りができる。過去のやり取りを振り返ることも容易 | 形式的な挨拶など慣習が多く、作成に手間がかかる。また相手の返信時期が読めない |
チャットアプリ | 要点のみを即伝えることができる。スタンプを使えばリアクションも容易 | 情報がどんどん更新されるため、過去のやり取りを振り返るのが難しい |
出典:西原勇介さん作成
こうしたツールの特徴を踏まえたルール化が重要だ。
「チャットはお互いの感情が見えにくい分、絵文字を使うことで温かみも表現できます。ただ、チームによってはいきなり絵文字を使うのがはばかられる場合もあるでしょうから、メンバー間でこういうケースはこの絵文字を使いましょうと、チーム内でスタンプ・絵文字のルールを決めておくと導入しやすいです。また、チーム内に、ビデオ通話で発言するのが苦手な人がいれば、壮行会や親睦会をオンラインですることを提案し、普段からビデオ通話で発言しやすい雰囲気を作ってもいいでしょう」と西原さんは提案する。
さらに、便利さや手軽さばかりが重要ではない事例として、西原さん自身の体験を話してくれた。
「海外のスタッフと仕事をしていたときのことですが、基本的にはチャットとオンライン通話で十分にコミュニケーションが取れていると感じていました。しかし、現地に行って、話し合ったり雑談したりすることで、オンラインでは語られなかった彼らのキャリアに対する展望やプロジェクトに関する要望など、スタッフの本音を肌で感じることができました。コミュニケーションの基本は人と人との信頼関係です。同じ場所の空気感を共有することで、伝わるものもあるのです」
デジタルツールの便利さと対面で話すことの両方の特性を理解し、状況に応じて使い分ける必要があることがわかる。
こうしたツールを使いこなすことができる若い世代こそが、目的や意図に沿ったツールを提案して職場のコミュニケーションデザインの担い手になってほしいと、西原さんは考えている。
コミュニケーションデザインは、一度スキームを構築してそのまま運用していけばいいというものではない。まずは運営してみてチームに向いていなければ違う方法を考えるというように、柔軟に変更していけばいい。このサイクルを繰り返すことが大切なのだ。
コミュニケーションの変革期の今、世代間ギャップを埋めるには?
職場でのコミュニケーションデザインを進める際に、壁になるのが世代間の意識の違いではないだろうか。
ICT(情報通信技術)の進化をはじめとする社会環境の急速な変化とともに、今、ビジネスの場の常識さえも変化していると、西原さんは分析する。
「例えば、何かを伝えるときに、これまで重視されてきたのは気配りや丁寧さですよね。今はテキストベースでスピーディに伝えることが必要となる場面が多くなっています。しかし、こうした変化は、完全に切り替わったわけではなく、グラデーションのようにゆっくりと変化していくのです」と西原さんは話す。
また、世代間ギャップについては、「ある報告書のフォーマットが形式に捉われすぎて古いと感じたとします。だけど、それをそのまま否定してしまったら、上司はいい気持ちがしません。そうした場合は、この要点の部分だけをストレートに伝える形に変えてもいいですか、というように上司たちのやり方に配慮した上で提案すると伝わりやすいのではないでしょうか」という。
新たなメッセージアプリをツールとして提案する場合も、「上の世代が使いこなすには時間や労力がかかるであろうことを理解して、それを上回るメリットを提示する必要があります」と、指摘する。
ただし、先述のようなアイデアがあったとしても、上司へ提案することが難しい場合もあるだろう。そうした場合の提案の仕方を西原さんがアドバイスする。
「上司から口頭で連絡事項があった場合、言われた内容をそのままテキスト化して、これで合っていますか?という確認の仕方では、上司にとって面倒な印象を与えてしまう恐れがあります。けれど、『先の打ち合わせでご依頼いただいた内容について、意図を正確につかめるよう文書に整理してみました。イメージとずれていませんか?』というように、双方にメリットがあることを伝えることで受け入れられやすくなるでしょう。自分がベストだと考えるコミュニケーション方法を、まずは提案してみましょう。提案の仕方次第で印象はずいぶん違うはずです」
未来のビジネスコミュニケーションを確立するために
新しい環境では、ただでさえコミュニケーションに不安を覚えることが多い。ましてや、絶対的な「最適解」が存在せず、誰もが模索している状況だといえよう。
しかし、こんな状況だからこそ、やりがいのある時代とも捉えることができるのでは、と西原さんは若いビジネスパーソンへのエールを送る。
「未来のビジネスコミュニケーションをつくるのは、デジタルデバイスを使いこなし、フラットな価値観を備えている若い世代です。ただ、その変革には幅広い世代の協力が欠かせません。コミュニケーションの基本である、相手の気持ちを思いやる姿勢を忘れずに、自分たちの能力を生かすコミュニケーションデザインを進めていってください。未来のビジネスコミュニケーションのために、今、が重要なのです」
- 【お話をお伺いした方】
- 西原 勇介(にしはら ゆうすけ)
- 1981年愛知県生まれ。明治大学法学部卒業。ハーバードビジネススクールPLD修了。大学卒業後、米国へ留学し、サンフランシスコの果物商社で貿易実務を経験。2013年にディレクトリジャパン株式会社を設立し、執筆などの活動を通じてグローバルコミュニケーション課題の解決に取り組む。著書に『それでは伝わらない! ビジネスコミュニケーション新常識 デジタルグローバルな作法は若者に学べ』(日経BP)がある。