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岡崎良介「インフレで変わる投資スタイル 大型株を“じっと持ち続ける忍耐力”」

岡崎良介「インフレで変わる投資スタイル 大型株を“じっと持ち続ける忍耐力”」のイメージ

撮影/藤井洋平

個人投資家向けに世界のニュースや経済指標などを解説し、投資情報を広く発信するエコノミストの岡崎良介さんは、「インフレの時代には、日本の個人投資家がデフレ時代の考え方から脱却することが必要」と言います。2024年に個人投資家が持つべき心構えについて聞きました。

景気は循環する インフレ時代へ

よく「景気の循環」という言葉を聞くと思います。景気の循環とは、景気が拡大、縮小を繰り返すということです。景気が良くなると、企業、経営者はモノが売れると見込み、生産量を増やします。売り上げが上がると見込めば、出店を増やします。しかし、そのうち在庫が増えすぎたり売れ行きが悪くなったりして、企業の経営状態が悪化します。

そうなると商品を安売りし、雇用している人や店を減らさざるを得なくなりますよね。そして、景気後退につながっていきます。

何が相場の循環をつかむシグナルと言えるのか、何を見れば株式投資の赤信号・青信号といえるのかを調べるのが、私の調査スタイルです。

イールドカーブ・コントロール(YCC、長短金利操作)の柔軟化など、日銀による金融政策はものすごく大事なシグナルを出しています。不動産や債券の市場もシグナルを出しています。今回の不動産価格と株価の上昇は、デフレの時代から、インフレの時代へと変換するというシグナルです。

一時的な上げではなく、10年、20年と長い単位での移動平均を見たときに、株価や不動産価格が上がり出したのです。

日米のインフレの構造

2021年以降、米国のインフレが問題となっています。米国の場合、景気後退期は通常10か月ぐらいですが、コロナ禍での米国の景気後退は2か月程度で終わりました。まさに見せかけの景気後退でした。米国ではコロナ禍で、1人当たり約15万円もの現金給付(高所得者を除く)を行ったほか、失業給付も2倍近くに引き上げました。これが結果的に“強い薬”となり、経済が正常化したときに、一気にインフレに振れたのです。

日本では1995年からインフレ率がマイナスになり、26年もの年月を要して2021年にようやくインフレ率がプラスになり始めました。米国とは事情は異なりますが、コロナ禍という大きな要因があったのは確かです。

コロナ禍では、緊急事態宣言の発出などで外出が困難になり、働くことが難しくなりましたね。全職業の有効求人倍率は低下しましたが、介護業や建設業、運送業など「現場で働く必要不可欠な労働者」、すなわち「エッセンシャルワーカー」の労働需要は減らず、供給が追い付かない状況になりました。わかりやすい例を挙げると、運送業などの業種からほかの業種へと波及し、人件費を上げないと人が集まらなくなりました。これが商品やサービスへの価格転嫁として進み、インフレになった。シンプルに考えるとこうなります。

しかしコロナ禍が終わっても、元の世界には戻りませんでした。例えば、コロナ禍の間乗客が減った影響でタクシーの稼働も減りましたが、需要が増えた今もタクシーの台数はあまり増えていない印象があります。外食店も、早い時間に閉店する店が増えました。新幹線のワゴン販売もなくなりましたね。人件費や原材料価格が上がり、経営を効率化しなければやっていけないのです。

なぜ、この判断がもっと早くできなかったのか。コロナ禍前のデフレ時代は、日本全体で労働の新陳代謝があまり起きませんでした。経営者の判断は変わりにくく、守りに入り、新しいことを取り入れるべき業界ですら伝統産業のような考え方でいた。それで成長できるわけがありません。

しかし、インフレが始まった今は、「転職すれば賃金が上がる」「他社が新しいことをやっていて面白そうだ」と聞くことも多いでしょう。人材の流動化が始まっています。

一方、生活者のほうでは家賃も生活費も上がり、今まで慣れていたサービスが同じ値段では受けられなくなっている苦しさもあります。この状況を打破するには、知恵を絞るしかないでしょう。知恵を絞った結果、あらゆるところで変化、つまりイノベーションが起きます。

インフレに転じた結果、日本の国内の景気は良くなってきました。日銀が2023年12月13日に公表した12月調査の「全国企業短期経済観測調査(短観)」では「大企業・非製造業」の業況判断指数は32年ぶりの高水準でした。バブルの時以来の景気が戻りつつある。多くの人にとって初めての経験です。

「またバブルがはじける」と考えてしまう人もいるようですが、今の株価上昇がバブルかというと、そうではないと私は思います。バブルは、一つの業界でモノの価値が上がり、人が群がるようになる状態で起きます。1990年代初頭のバブル崩壊は、金融という小さな業界に多くの人が注目した結果であり、1998~2000年あたりのITバブルもその典型です。今は、そうではなく、経済全体で変化が起きています。また、かつてのバブル期には、日本株くらいしか投資できるものがなかったのに対し、今は米国株でもインド株でも何でも買えますから、バブルが起きにくい。

個人投資家の考え方は、デフレとインフレで違う

では、個人はインフレではどう投資と向き合うべきでしょうか。この機会に投資を始めてみたいという人が増えていますが、まず、「投資家になりたい」と「儲けたい」は、全く違います。

投資を始めたばかりの人に「1年で3割儲けたい、儲かる株を教えてください」と聞かれたこともありますが、これはもはやギャンブルと同じです。上がったり下がったりする株式の上昇局面をうまくつかんで、値上がり益を得るのが投資だという、デフレの時代の発想だと思います。

今後は、資産を持ち続け、積み上げる「投資家になる」考え方が大切になります。

資産運用には人類が積み上げてきた知恵の蓄積があります。例えば、世界的に著名な投資家のウォーレン・バフェット氏の運用手法や、日本の年金を運用している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の手法など、先輩たちの“お手本”があります。

GPIFのウェブサイトにはどんな資産を運用しているかがわかる、ポートフォリオが示されています。さまざまな株式や債券に分散して運用していることがわかります。分散は投資の基本だと学べます。

そして、先人に最も真似るべきは「忍耐力」といえるかもしれません。GPIFもウォーレン・バフェット氏も、ものすごく長期で投資する視点を持っています。

デフレが終わり、私は「じっと耐えて持ち続けた人が勝つ時代」がようやく訪れたと感じています。

日本株は、日経平均株価だけを見れば、2023年3月から持ち続けていれば2割は儲かったといえます。頻繁に売買する人の中には、大きな儲けを出した人もいるかもしれませんが、1割儲けても1割損失を出し、2割儲けても2割損失を出し、結果プラスマイナスで0だったという人もいるでしょう。

デフレの時代にはテンバガーとなる(株価が10倍になる)中小型株をうまく見つけて成功する個人投資家が話題になりました。デフレは、様々な投資情報を読み込んでお宝株を見つけられる天才投資家が勝てる環境でしたが、インフレでは、世の中の流れに乗っていれば比較的容易に資産形成できると感じます。

インフレ時代に適した投資方法とは

個別銘柄であれば、まずは多くの投資家が買っている、「買われた銘柄ランキング」の上位に位置するような大型株でいいんです。配当利回りが高い銘柄もよいと思います。経営が安定した企業であることが多いです。

インフレ下では、お金の価値が下がりますので、安定して賃金を上げられる企業でないとよい人材が入ってきませんし、原材料などの仕入れも安定しないでしょう。安定した企業にこそイノベーションを起こす土壌が生まれ、株価も上がっていくのではないかと考えています。

もう少し自分なりの個性を出しつつ投資したい方に考えてもらいたいキーワードは「イノベーション」です。革新的な新商品のことだけではありません。仕入れ先を変えることも、人材を変えることもイノベーションだと思います。

例えばある自動車会社の新車に乗る機会があって、「今までと違う」と思ったら、その変化にどういった背景があるのか調べる。いつも飲んでいるビールがおいしくなっていたら、何が変わったか調べる。それで、イノベーションだと感じたら買ってみる。そんな流れでも、投資のきっかけになると思います。

企業について見るべき指標としては、PBR(株価純資産倍率)があります。現在の株価が、企業の資産価値に対して割高か割安かを判断する指標の1つです。2023年3月に、東京証券取引所(東証)はPBRの向上に向けて、企業に「資本コストや株価を意識した経営の実現」を要請しました。

ただし、東証の調査では「取組み等を開示」「検討中と開示」とした東証プライム市場上場企業は、約3割にとどまっています(2023年8月時点)。まだ取組みを開示できていない企業のなかには、PBRが上がる余地がある場合もあるでしょう。PBRが上がるということは、株価が上がるということです。

東証プライム市場上場企業の平均PBRはまだ1.3倍。イギリスは1.7倍で、米国は4倍を超えています。さすがに米国の水準にまで達するのは難しいと思いますが、私は2倍くらいまでは上昇するんじゃないかと想像しています。あと2年くらいは、PBRを根拠に日本株に投資してもいいと私は思います。

エコノミスト 岡崎良介
1983年、慶應義塾大学経済学部卒。伊藤忠商事に入社後、米国勤務を経て87年野村投信(現・野村アセットマネジメント)入社、ファンドマネジャーとなる。93年バンカーストラスト信託銀行(現・ドイチェ・アセットマネジメント)入社、運用担当常務として年金・投信・ヘッジファンドなどの運用に長く携わる。2004年フィスコ・アセットマネジメント(現・アストマックス投信投資顧問)の設立に運用担当最高責任者(CIO)として参画。2012年、独立。2013年GAIAの投資政策委員会メンバー就任、2021年ピクテ投信投資顧問客員フェロー就任

※本コラムで取り上げられた投資に関する基本的な考え方などについては、あくまで個人の見解によるものであり、野村證券の意見を代表するものではございません。
また、本コラムは参考情報の一つとして提供することを目的として制作されたものであり、当社において内容の正確性・適切性等は確認しておらず、将来の成果を示唆・保証するものではありません。

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