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2023.12.25 NEW

株価が上がったときの「売りタイミング」とは 行動ファイナンスの観点でまず考えるべきこと

株価が上がったときの「売りタイミング」とは 行動ファイナンスの観点でまず考えるべきことのイメージ

撮影/竹井俊晴

2023年は日経平均株価が大きく上がった年でした。「株価が上がったタイミングで売却しないと、いずれ株価が下がってしまうのではないか」と考える人もいるでしょう。それは本当に合理的な行動なのでしょうか。

行動ファイナンスの専門家、野村證券金融工学研究センター エグゼクティブディレクター大庭昭彦が解説します。行動ファイナンスとは、人の心理面などの動きに注目し、人はどのように意思決定し行動するのか、なぜ時として非合理的な行動をするのかを研究する行動経済学に基づく投資理論です。

売りの最適タイミングは、「投資のゴール」次第

持っている株式の株価や投資信託の基準価額が上がっていて「早く売って利益確定したい」という気持ちになるときに、何を根拠に売りのタイミングを決めるといいのでしょうか。

売りのタイミングを決めるときに考えるべきは、「いくら上がったか」ではありません。「何のために投資を始めたのか」に立ち返って考える必要があります。

例えば20年かけて老後資金を2000万円確保したい、という目的のために積立投資をしている場合、10年たった時点でまだ800万円しか資産がないという場合は、株価が上がっているからといって、売却するのは合理的ではないですよね。

投資を続けていたら複利効果(利益を再投資することで得られる効果)が見込めて、長期的には資産を増やせる可能性が高くなるというのに、途中で売却してしまっては目標達成が遠のいてしまいます。

投資を始めたときに決めた目標金額時期と現在はどのくらい違うのかを振り返ってみて、まだだと思ったら投資を継続するのが望ましいといえます。

目標に向かって投資する方法を、正式には「ゴール・ベースド・アプローチ」と言います。「ゴールベース」という表現で、だいぶ浸透してきました。

「退職金が入ったので、特に目標はないが、なんとなく投資を始めたら株価が上がっている」という人は、どう判断したらいいでしょう。

そういう方は一刻も早く、投資の目標を決めてほしいところです。そして、基本的には、投資タイミングをとらえて短期で投資するよりも、中長期的な利益に期待して目標を立てるほうが、投資はうまくいきやすいです。

2022年に「投資成績が『良かった』のはどんな投資家なのか?」というテーマで学会発表しました。野村アセットマネジメントと共同で研究した内容です。

参考論文:『投資成績が「良かった」のはどんな投資家なのか?』(野村アセットマネジメント 胡桃澤瑠美、野村アセットマネジメント 森田啓介、野村證券 大庭昭彦著、2022年6月日本ファイナンス学会第30回記念大会において報告)

投資経験のある個人投資家にアンケート調査をした結果、以下のことが分析できました。

• 中長期投資をしている人々は自身の投資成績に満足しているが、短期投資をしている人々はそうではない。

• 投資する際に「分配金・配当の多さ」、「短期で利益が見込めること」、「元本割れしにくいこと」を重視して商品選択をする多くの人々は自身の投資成績に不満足である。

ここから言えるのは、中長期の利益成長に期待して投資している人のほうが、投資の満足度が上がりやすいということです。株価自体の上昇を軽視して、分配金や配当、元本割れしにくいというわかりやすさだけに注目する投資は、満足度が上がりにくいかもしれません。

長期の目標を立てることが重要ですね。ただ、長い間、意思を継続するのは大変そうです。

そうですね。中長期の投資の目標を立てて、目標通りにひとりで実行し続けるのは難しいんです。ロボットのように自分の資産をモニターし続けて、合理的な行動をとり続けられる人はごく少数で、多くの人は目標を決めていても、株価の値動きなどで考えが揺らいでしまうものです。

そこで、さまざまな金融商品や制度がつくられます。たとえばiDeCoは、多くの人にとって必要な老後資金を確保するために、継続して投資しやすくするための仕組みです。決めた額を毎月投資し続けて、60歳までは基本的には引き出せない仕組みなので、目標の時期まで投資を続けやすくなります。

行動経済学では「ナッジ」という概念があります。「(注意を促すために)ヒジでそっと突く」という意味の英語で、人が合理的な行動をとれるように促す仕組みのことを言います。iDeCoもそうですし、毎月定額で投資信託を買い付ける自動積立投資サービスもそうですね。

資産のなかで、目的別の“箱”を決める

では、株式や投資信託を売却すべきときとは、どんな場合でしょうか。

定めた目標金額を達成しており、使う時期が迫っている人です。

教育資金を500万円確保する目的で投資をしてきて、来年子供が進学する、という人が、目標金額の株式や投資信託をすでに持っているのに、そのまま保有し続けるのは合理的ではないですよね。使うときになって株価が下がって資産が目減りしていては困ります。

1年後くらいに使う時期が迫っている場合は、資産を株式や投資信託などのリスク資産を徐々に現預金などの安全資産に移していくのが合理的です。

具体的に使う金額と目標を立てると判断しやすくなりますね。目標は複数あってもいいでしょうか。

本来、投資の目標はいくつもあります。老後資金を確保したい、マイホームを買いたい、クルマも買い換えたいなど。それらをすべて書き出して、ゴールごとに、目標金額と期限、優先順位をつけるといいでしょう。

資産を丸ごと「老後資金」などと曖昧にしてしまうと、漠然とした不安にかられるなど、非合理的な判断をしやすくなってしまいます。「この金額は老後資金だから使わない」「この金額は余裕資金ですぐに使ってもよい」と目的別の“箱”を決めるといいですね。そうしたら、余裕資金の分は一部売却するのもあり、という判断ができます。

ゴールを決めることが大事だとわかりました。しかし、それを理解したとしてもやはり、含み損が出ている有価証券は売る決断ができず、含み益が出ている有価証券はすぐに利益確定したくなりそうです……。

行動ファイナンスでは、人は利益に対しては確実性を取る一方で、損失については確定させるのを遅らせてしまい、リスクがある行動を取ってしまう傾向があることが分かっています。株価が上がったときは、利益を早く実現させて安心したくなり、下がったとときには損を確定させたくない心理が働きます。

実は「含み益」「含み損」は不思議な表現で、実際には売却してもしなくても、株式や投資信託が下がれば資産が減っているし、上がれば資産が増えているんです。

しかし人は「売却するまでは、損したことを認めたことにならない」と、心理的に抵抗してしまい、いわゆる「塩漬け株」をつくってしまいます。また、少し利益が出ると、目標を達成していないのに売却したくなってしまうのです。

その心理を自覚して、常に資産運用のゴールに立ち返ることで非合理な行動を少しでもおさえることができるでしょう。

ゴールに到達するまでの長い間、ひとりで正しい行動をし続けるのはとても難しいことです。信頼できるアドバイザーに依頼するのも手です。アドバイザーに相談して目標を定め、そのとおりに実行できているかどうかをモニターし続けてもらうのが有効です。

野村證券金融工学研究センター エグゼクティブディレクター
大庭昭彦
CMA、証券アナリストジャーナル編集委員、慶應義塾大学客員研究員、投資信託協会研究会客員。東京大学計数工学科にて、脳の数理理論「ニューラルネットワーク」研究の世界的権威である甘利俊一教授に師事し、修士課程では「ネットワーク理論」を研究。1991年、野村総合研究所へ入社。米国サンフランシスコの投資工学研究所などを経て、1998年に野村證券金融経済研究所に転籍、現在に至るまで、主にファイナンスに関わる著作を継続して執筆している。2000年、証券アナリストジャーナル賞受賞。
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