2024.12.06 update

2024.09.30 NEW

「石破総理=株安要因」は杞憂に過ぎないとみる理由 野村證券・池田雄之輔

「石破総理=株安要因」は杞憂に過ぎないとみる理由 野村證券・池田雄之輔のイメージ

2024年9月27日、自民党総裁選では、決選投票の結果、石破茂氏が高市早苗氏に勝利しました。決定の直後から円は急騰。一時1ドル=142円台前半まで円高・ドル安が進み、日経平均株価の先物が2,000円以上下落するなどの市場の混乱が起きました。週明け9月30日の日経平均株価終値は前日比1,910円安の37,919円となりました。

石破政権の誕生は株安を招くと考える市場関係者もいたのですが、野村證券・市場戦略リサーチ部長の池田雄之輔は、「株安を招くと思われていた要因は杞憂だった可能性が高く、市場の弱気反応は一時的と見ている」と言います。詳しく解説します。

石破氏勝利が株安要因だと思われていた3つの要因

今回の自民党総裁選について、事前に市場では「高市早苗氏の勝利なら円安・株高、石破茂氏の勝利なら円高・株安」と正反対の予想がされていました。実際、総裁選の前から高市氏勝利が市場で織り込まれる形で円安・株高が進んでおり、決選投票の結果石破氏が勝利すると、それが巻き戻った形で為替は円高へと振れました。

ではなぜ、石破氏の勝利は株安要因だと思われていたのでしょうか。理由は3つあると思います。

① 石破氏は他の候補に比べて「早期解散に慎重」だと思われていた

石破氏は、衆議院の早期解散について、他の候補者に比べて慎重とみられる発言をしていました。国民が判断できる材料を示すのが新政権の責任であり、それが提示できるまでに早期に衆議院を解散させるのはいかがなものか、という考え方を示していたのです。

過去、解散総選挙は株高の要因となることが多くありました。1990年以降、解散日から選挙直前までの日経平均株価のリターンを見ると、11回のうち11勝0敗ということで、すべて日本株は上昇しています。海外投資家から日本株への関心が喚起される点と、経済対策への期待が高まる点が要因でしょう。解散=株高と考える海外投資家には、高市氏や小泉進次郎氏のように早期解散に前向きな候補者が選ばれるほうが株高につながりやすいと思われていました。

しかし結局、石破氏も総裁選に勝利した直後に早期解散を決断し、10月27日の総選挙に打って出る旨が報じられました。そこで1つめの理由は杞憂に終わりました。

② 金融所得課税について意欲を示していた

石破氏は、総裁選前は金融所得課税について意欲を示しており、これが海外投資家などからは株安の要因と見られていました。

私は金融所得課税の強化は、今後の議論を経て決まるとはいえ、必ずしも実行されるとも限らないと感じています。ここで思い出していただきたいのが、前総裁となった岸田文雄氏も、2021年の総裁選前後にこの話を打ち出していたという点です。岸田氏も当時、所得が1億円を超えると所得税負担率が低下する「1億円の壁」を問題視して金融所得課税に意欲を示していましたが、その後議論を前に進めている印象はありません。

3年前の岸田氏と現在の石破氏の共通点は、アベノミクスにやや批判的で、成長よりも分配を重視する姿勢が目立ったことです。しかし両氏とも、外交や安全保障に精通する一方、経済政策が専門ではないため、かえって持論に固執せずに柔軟に修正できる強みがあると思われます。

岸田氏の経済政策は、経済界や海外投資家との議論を重ねながら方向修正していったのでしょう。もともと「所得倍増計画」と方針を打ち出していましたが、「資産所得倍増計画」へと修正され、金融所得課税についてもトーンダウンしていきました。そして新NISAという、投資優遇税制の大幅拡充を実現しました。

石破氏も9月29日には「所得から投資への流れは止めてはならない」という発言をしているとおり、同じ流れに乗っていると思われます。金融所得課税に対する懸念からくる株安は解消されるだろうと見ています。

新総裁の誕生は、日銀の姿勢に大きく影響しない

③ 日銀の追加利上げと円高を支持すると見られていた

総裁選の前に高市氏の勝利が織り込まれて円安が進んでいるなかで、石破氏が勝利した後に円が急騰したという出来事は、あたかも新首相がどちらになるかによって日銀が掲げる金融政策が変化すると市場に思われている節がありました。石破氏の場合、円高方向を志向し、日銀の追加利上げを後押ししそうという見方が強かったと思います。

しかし、日銀の植田和男総裁は、2023年4月に就任してからまだ1年半しか経っておらず、任期は3年以上残っています。日銀総裁を首相が解任することはできません。安倍政権が主導したアベノミクスがやや特殊だったのは、安倍元総理が2012年12月に就任してまもなく、2013年3月に黒田東彦元日銀総裁の誕生を実現できるタイミングだったということです。今回は当面、金融政策が首相によってがらりと変わることは考えられないのにもかかわらず、市場が過剰反応していたと思われます。

石破氏は、総裁当選後の記者会見で、「物価上昇を上回る賃金上昇を実現する。新しい資本主義にさらに加速度をつけたい」(日本経済新聞・9月27日記事『自民・石破新総裁の記者会見要旨 「ルール守る政党に」』より)と、岸田政権の経済政策を引き継ぐ姿勢を強調しています。

さらに同日のテレビ番組に生出演し、「必要なら財政出動する。金融緩和基調は基本的に変えない」(テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」9月27日放送より)という発言もありました。つまり、石破氏は総裁選レースの前半戦こそ金融・財政政策を引き締める意向が強い印象でしたが、早くも柔軟に変化し、継続性重視に切り替えている可能性があるということです。

石破政権は発足後、経済対策の編成を閣僚に指示し、2024年度補正予算、2025年度税制改正大綱に反映させます。2025年6月に取りまとめる骨太方針においても、賃金と物価の好循環という岸田政権の経済政策を継承しつつ、地方創生や製造業の国内回帰など景気への配慮を含んだ経済政策を反映させることが見込まれます。

約30年間続いたデフレから脱却しつつある日本。2024年の年初から株価が上昇基調にある流れを、自民党総裁選の結果が反転させるとは考えにくいでしょう。岸田政権が誕生した時もそうでしたが、海外投資家の警戒姿勢は徐々に解消され、日本株上昇への期待が回復すると見ています。

野村證券 市場戦略リサーチ部長
池田 雄之輔
1995年野村総合研究所入社、2008年に野村證券転籍。一貫してマクロ経済調査を担当し、為替、株式のチーフストラテジストを歴任、2024年より現職。5年間のロンドン駐在で築いた海外ヘッジファンドとの豊富なネットワークも武器。現在、テレビ東京「Newsモーニングサテライト」に定期的に出演中。

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