2025.12.12 NEW

12月FOMCを読み解く 新議長が追加利下げなら過度な緩和となるリスクも 米国野村證券・雨宮愛知

12月FOMCを読み解く 新議長が追加利下げなら過度な緩和となるリスクも 米国野村證券・雨宮愛知のイメージ

撮影/タナカヨシトモ(人物)

FRB(米連邦準備理事会)は2025年12月9~10日(現地時間)に開いたFOMC(米連邦公開市場委員会)で0.25%ポイントの利下げを決定しました。米国野村證券シニア・エコノミストの雨宮愛知はFOMCの決定やその後のパウエルFRB議長の記者会見などから「(利下げに慎重な)タカ派度合いはそれほど強くなかった」と分析。2026年5月の議長交代後にFRBがさらに追加緩和に踏み切ることで、2026年の米国経済は力強い成長が続くと見込んでいます。詳しく解説します。

12月FOMCを読み解く 新議長が追加利下げなら過度な緩和となるリスクも 米国野村證券・雨宮愛知のイメージ

FOMCの印象を教えてください。

野村證券は今回のFOMCで「タカ派的」な利下げを予想していました。政策金利であるFF(フェデラルファンド)金利の誘導目標は3.50~3.75%(中央値は3.625%)と想定通り0.25%ポイントの利下げ幅となりました。声明文でも、今後の金融政策の指針である「フォワードガイダンス」の文言が緩和休止の可能性を示すよう調整されました。記者会見でパウエル議長は利下げ後の政策金利が「(景気を加速も減速もさせない)中立金利の妥当な推定範囲内」に入ったとして、次回以降の利下げのハードルが上がったことを示唆しています。

FOMCは12月の会合で予想通り0.25%ポイントの利下げを実施

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(出所)FRB、ブルームバーグより米国野村證券作成

一方で、パウエル議長は、労働市場の下振れリスクがあることや、(関税の影響を除けば)インフレ率がそれほど高くない点にも言及して「追加利下げも排除しない」という、ハト派的な姿勢も示しました。

また、4月の納税シーズンに備え、FOMCでは12月中に準備預金/流動性管理のための資産購入を開始するとも発表しました。月400億ドルという当初の購入ペースとタイミングは野村證券の予想を大幅に上回る積極的な内容でした。これまでのFOMCにおけるコンセンサス的な考え方では、「十分(ample)な」準備預金量を確保しつつも、その範囲内で最小のバランスシートを目指していただけに、今回の方針転換は意外でした。

FOMCは12月に資産購入を開始すると発表

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(出所)米国野村證券作成

パウエル議長の任期は2026年5月です。それまでに追加利下げが行われる可能性もある、ということでしょうか。

失業率が一段と上昇したり、失業者一人あたりの求人数が大きく減ったりするなど、米労働市場の悪化が確認されれば「予防的に」利下げをする可能性はあります。ただし、政府閉鎖の影響もあって12月16日に発表予定の11月分の雇用統計は足元の雇用情勢を正しく反映できていない可能性があります。つまり、2026年1月に発表される12月分の雇用統計を見極める必要があります。

しかし、12月時点のFOMC参加者の経済見通しでは、2026年のGDP(国内総生産)の実質成長率は前年比2.3%増と、前回(9月時点)の同1.8%増から上方修正されています。米国景気の回復度合いが強まれば労働市場にもプラスとなるため、パウエル議長は「追加利下げは必要ない」と考えているのではないでしょうか。野村證券も、今回の利下げがパウエル議長の在任期間中(2026年5月まで)の最後の利下げになると予想しています。当社は2026年に2回の追加利下げを予想しており、いずれも新議長のもとで行われると見込んでいます。

米国景気の回復が続く中で、なぜ新議長が追加利下げに踏み切るのでしょうか。

新議長の有力候補のひとりとして名前が挙がっているハセットNEC(米国家経済会議)委員長は、トランプ米大統領に近い存在とされています。ハセット氏がFRB議長に就任すれば、中間選挙の年を迎えて米国景気の回復をアピールしたいトランプ大統領の意向に沿い、政治に配慮した金融政策運営をすると考えています。

2026年は、追加関税による悪影響が少しずつ緩和方向に向かい、設備投資など企業の経済活動も徐々に戻ると見込まれます。2025年7月に成立した大型減税法による減税効果も出てくるはずです。トランプ大統領は「必要に応じて国民に2,000ドルの小切手を配る」とも述べています。政策総動員でそもそも2026年の米国景気の見通しが決して弱くない中で追加利下げを実施すれば、米国景気が一段と上振れる可能性もあり得ます。

米国株式市場にとっても追い風になるでしょうか。

少なくとも、何らかのリスクが表面化した際のサポート要因にはなるでしょう。とはいえ「サポートしすぎ」の側面も否めません。過度な金融緩和によって投資家がリスクを取りすぎる可能性もあります。2000年前後に起きた「ITバブル」を演出した一つの要因は、FRBの金融緩和だったと考えられます。2026年は良好な市場環境が見込まれるものの、2027年以降にその反動が出ないとは限りません。米国の金融政策と株式市場の動向には、これまで以上に注意を払う必要があると考えています。

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米国野村證券 シニア・エコノミスト
雨宮 愛知
2001年野村総合研究所入社。2004年より野村證券金融経済研究所経済調査部。2009年より米国野村證券(ノムラ・セキュリティーズ・インターナショナル)に勤務。

※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

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