2026.01.30 NEW

フィジカルAIで産業用ロボット市場はどう変わる? ブームで終わらない可能性も 野村證券・大坂隼矢

フィジカルAIで産業用ロボット市場はどう変わる? ブームで終わらない可能性も 野村證券・大坂隼矢のイメージ

撮影/タナカヨシトモ(人物)

「生成AI」の次なるテーマとして、「フィジカルAI」への関心が高まっています。製造現場や物流拠点などでは、自律的に稼働するAIロボットが導入されることで、人手不足の解消や生産性向上が期待されます。野村證券シニア・ストラテジストの大坂隼矢がフィジカルAIの概要や産業用ロボット市場に与える影響などについて解説します。

フィジカルAIで産業用ロボット市場はどう変わる? ブームで終わらない可能性も 野村證券・大坂隼矢のイメージ

AIで産業用ロボット市場は大きく変わる可能性

なぜ「フィジカルAI」が注目されているのでしょうか。

2022年11月に米OpenAIが「ChatGPT」を公開して以降、生成AIが注目されてきましたが、AIが現実世界の状況を認識・理解し、人間のように物理的な行動をとることを目指す「フィジカルAI」への投資も活発化しています。例えば、車の自動運転や物流拠点でのロボットによる荷物の仕分けなどが挙げられます。

特にフィジカルAIによって、産業用ロボット市場は大きく変わると期待されています。下の図表の通り、人手不足の深刻化や生産性向上に向けた取り組みの加速を背景に、主要国の産業用ロボット稼働台数は増加傾向にあり、ロボットへの需要が高まっているとみられます。

世界と主要国の従業員1万人当たりの産業用ロボット稼働台数

フィジカルAIで産業用ロボット市場はどう変わる? ブームで終わらない可能性も 野村證券・大坂隼矢のイメージ

(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成

米国ではトランプ大統領の政策で、製造業の国内回帰が予想されており、今後、生産性を高めるためにフィジカルAIも含めたロボットの活用が期待されているのではないかと見ています。日本では「危機管理投資」を掲げる高市早苗政権がフィジカルAIを重点分野の一つに位置付けています。

これまでの産業用ロボットにAIが搭載されると、どのような点が画期的なのでしょうか。

従来は人間がロボットに各動作をプログラミングで個別に設定する必要があり、膨大な時間と工数がかかっていました。一方、ロボットにAIが搭載されることで、人が日常的に使用する自然言語による指示や、少量のデータで複数の作業を習得することが可能となり、工数の大幅削減が期待されます。これにより産業用ロボットの採用は中小規模の工場に加え、食品や化学医薬品など小ロット多品種生産の産業にも広がると考えられます。

フィジカルAI開発競争、日本の競争力は

フィジカルAIが普及するための課題はあるでしょうか。

フィジカルAIが普及するためには、スマートフォンやパソコン、自動車やロボットなどのデバイスにAIを搭載する「エッジAI」と呼ばれる技術の進展がカギを握ります。自動運転を例に挙げると、自動車に搭載されたエッジAIが車載カメラなどの情報を処理することで、瞬時の判断に基づく運転制御を行うことが可能となります。

クラウドを介さずにデバイス側で処理を行うため、通信に要する時間を削減でき、低遅延なAI処理が可能です。AI処理をデバイスで実行するには、サーバーと同様に、省電力化と熱対策が不可欠であり、高性能な電子部品やバッテリーの需要拡大も予想されます。

クラウドを介さずにAI処理を行う「エッジAI」の仕組み

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(注)全てを網羅している訳ではない。図はイメージ。
(出所)野村證券投資情報部作成

また生成AIでは、「大規模言語モデル(LLM)」が基盤となっているように、フィジカルAIの領域では「ロボット基盤モデル(RFM)」など、各デバイスに合わせた基盤モデルの開発も重要になり、すでに開発競争が始まっています。

フィジカルAIの分野で、日本のポテンシャルはどの程度、あるでしょうか。

まず、日本はロボット開発や関連部品において、高精度な動きを実現できる技術力を有しており、世界的な競争力があります。フィジカルAIの開発に必要な学習データについても、製造業大国である日本には豊富に蓄積されています。従来のAIは膨大なデジタルデータを読み込ませることで開発してきましたが、フィジカルAIの場合は、現実世界の物理的なデータが必要になります。AIを搭載したロボットの用途が広がっていくことで、日本の製造業などが恩恵を受けられる可能性があります。

日本の産業用ロボット大手は、フィジカルAIの領域で米半導体大手エヌビディアと協業する事例が出てきています。例えば、安川電機(6506)は2025年10月に、エヌビディア、富士通(6702)とロボットを自律的に動かすAI基盤開発における提携を発表しました。ファナック(6954)も2025年12月にエヌビディアとAIを搭載した産業用ロボットの開発で協業することを明らかにしています。また、ソフトバンクグループ(9984)は2025年10月、スイスのABBからロボット事業の買収を発表し、AIロボット事業をさらに強化する方針を示しました。

AI導入が労働市場に与えるインパクトは

フィジカルAIが普及することで、人手不足の解消や生産性の向上にどの程度、つながるのでしょうか。

AI導入による労働市場全体に与える影響を考えると、まず、デスクワーク業務の一部はAIに代替されることは想像しやすいかもしれません。現状、米国の大手ハイテク企業では、プログラミングコードを作成するエンジニアの業務が生成AIに代替され、人員削減が目立っています。日本でもソフトウエア開発企業が生成AIを活用することで、開発効率化やコストの抑制につながっており、この分野の人員は減っていくことが予想されます。エンジニア職に限らず、営業職などにも広がっていくかもしれません。その結果、デスクワーカーの一部は、人手が足りていない製造業などの非デスクワーク市場に移っていくと考えられています。さらにAIロボットが非デスクワーク市場の一部の労働を代替することになるでしょう。

図表はイメージですが、AI導入は労働者による提供価値を高めることに加え、労働者の流動化や最適配置を促進することにもつながります。このような観点からも、フィジカルAIは一過性のものにとどまらず、労働市場を大きく変化させる息の長い投資テーマとなるかもしれません。

AI導入がデスクワーク市場と非デスクワーク市場の労働力に与える影響

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(注)図はイメージ。非デスクワーク市場には、医療や福祉、第1次産業や行政、物流・小売業などの生活必須職従事者(エッセンシャルワーカー)が含まれる。
(出所)野村證券フロンティアリサーチ部より野村證券投資情報部作成

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野村證券投資情報部 シニア・ストラテジスト
大坂 隼矢
2010年入社。3店舗での支店業務を経て、2015年3月より投資情報部。現在は月刊誌「Nomura21 Global」等、個人投資家向け株式資料の作成をはじめ投資情報の提供を行う。

※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

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