2026.01.21 NEW
米ドル円相場の行方 FRB議長人事とグリーンランドなどが焦点に 野村證券・後藤祐二朗
撮影/タナカヨシトモ(人物)
2026年入り後、米ドルは堅調に推移しています。米経済指標は底堅く、利下げ期待の後退が米ドルを支えています。野村證券チーフ為替ストラテジストの後藤祐二朗は、目先はFRB(米連邦準備理事会)議長人事、グリーンランド領有を巡るトランプ関税、関税およびFRBに関する最高裁判断が「米ドル離れ」リスクを考慮するうえで焦点になるとしています。詳しく解説します。

2026年の米ドルは主要通貨に対して堅調な出だし
米ドル円相場は為替介入への警戒感もあり、足元ではやや調整していますが、2026年入り後の米ドルは対円を含めて全般的に堅調な出だしとなっています。2025年夏場以降のトレンドが継続する形で、金融市場の低ボラティリティー(変動率)環境が維持されるなか、新興国の高金利通貨や資源国通貨の一部は対米ドルで上昇しているものの、2025年にアウトパフォームした欧州通貨の多くに対しては米ドルの買い戻しが進んでいます。
(注)2026年1月16日時点。
(出所)ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部作成
米ドル指数は米国と海外の金利差との連動性が高い状況が続いており、米利下げ期待の後退が米ドルの支えとなっているようです。米経済指標では、2025年12月のコアCPI(消費者物価指数、生鮮食品を除く)は前月比+0.239%と市場予想の同+0.3%を下回った一方で、新規失業保険申請件数の減少や地区連銀の製造業景況感調査の改善など、景気には前向きな材料が見られています。米景気の軟着陸への期待は維持され、市場のFRBへの利下げ期待は後退し、2026年中の利下げ織り込みは2回をやや下回り始めました。米10年債利回りも4.2%を超えています。
FRB議長人事が焦点に
もっとも、米金融政策を巡る目先の注目はFRB議長人事になりそうです。トランプ米大統領は、これまで最有力と見なされてきたNEC(米国家経済会議)のケビン・ハセット委員長について、同氏を現職に留まらせたい意向を示唆しました。パウエル議長の刑事訴追の動きを受け、上院共和党の一部でもトランプ大統領のFRBへの批判に否定的な見方が強まったことで、トランプ大統領に近いと警戒されてきたハセット氏の議長就任を回避する姿勢に転じた可能性があります。
市場ではハセット氏の芽は消えたとの見方が強まっており、予測市場(賭けサイト)のポリマーケットではハセット氏の就任予想確率が10%を割り込む一方、元FRB理事のケビン・ウォーシュ氏の就任予想確率が50%以上まで大きく上昇しています。ウォーシュ氏はFRB理事の経験があり、ハセット氏と比べて極端な利下げには踏み切らないとの見方が強く、足元の米債利回り上昇や米ドル高の圧力となっている可能性があります。
(出所)ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部作成
もっとも、ベッセント米財務長官は1月18日、パウエル議長の後任としてトランプ政権が4人の優れた人材を検討中だとNBCニュースに対して発言し、いずれの候補でも上院は「十分に満足する」だろうと述べました。FRB理事のクリストファー・ウォラー氏と米ブラックロックのグローバルCIO(債券担当最高投資責任者)のリック・リーダー氏を含め、議長の人選についての不確実性は残っています。
特に、ブルームバーグは1月17日、事情に詳しい複数の関係者の情報をもとに、リーダー氏の勢いが増していると報じました。リーダー氏は最近のインタビューで、中立金利は3%前後、政策金利も3%程度まで引き下げるべきとの姿勢を示しており、現在の市場想定並み、ないしはややハト派的と言えます。ハセット氏との対比では、残る3名の候補者はハト派色が低いといえますが、議長交代後の利下げ期待は根強く残り、2026年前半の米ドルの上値を抑制しそうです。
トランプ関税を巡るリスクは再燃するか?
トランプ大統領は1月17日、グリーンランドの領有をめぐり、英国など欧州8ヶ国からの全ての輸入品に最大25%の関税を課す意向を示し、週明けの株式市場では売り圧力が先行しています。トランプ政権の動きに対し、EU(欧州連合)首脳は数日以内に緊急会合を開く見込みとされます。ブルームバーグの報道では、協議に詳しい関係者の発言をもとに、加盟国は930億ユーロ相当の報復関税を課すことを含め複数の対応策を検討中とされ、欧州側の反発は強いようです。米国とEUおよび英国の対立が強まれば、市場心理の悪化を通じて米ドル円相場への下押し圧力が強まる可能性は否定できません。低ボラティリティー環境が変調すれば、新興国の高金利通貨の調整の材料となる可能性もあります。
トランプ大統領は関税賦課の根拠法を明示していませんが、IEEPA(国際緊急経済権限法)に基づく関税となる公算が大きいとみられます。IEEPA関税については、早ければ今週中にも最高裁から判断が下される予定です。ポリマーケットでは最高裁が支持するとみる予想確率は30%前後に留まっており、市場予想通りに違法判決となれば、グリーンランド領有をめぐる関税への懸念は後退する可能性があります。もっとも、違法判決の場合には、これまでの関税収入の扱いも焦点となり、米債市場の需給悪化懸念が高まる恐れがあり、市場の反応を慎重に見極める必要があります。
(出所)ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部作成
一方、予想外にトランプ関税が支持される場合は、グリーンランド領有をめぐる関税に加え、今後も関税を交渉手段として活用するトランプ政権の姿勢が維持されるとの懸念につながり、市場心理の悪化を招きそうです。
FRBの独立性およびトランプ関税リスクは米ドル離れの動きに影響か
1月21日にはFRB理事のリサ・クック氏の解任をめぐる訴訟について、最高裁で口頭弁論が行われる予定です。議論の方向次第ではFRBの独立性への警戒が強まり得ます。トランプ関税への司法判断を含め、足元は米国の司法判断が米ドル全体の見通しにとって重要になってきそうです。FRB議長人事も間近に迫るなか、2025年に見られた債券市場での緩やかな米ドル離れの動きが続くかを判断するうえで、重要な局面にあると言えます。
- 野村證券 市場戦略リサーチ部 チーフ為替ストラテジスト
後藤 祐二朗 - 為替相場のリサーチ・ストラテジーを担当。8年半に渡るニューヨーク・ロンドン駐在時には海外ヘッジファンド向けを中心としたドル円ストラテジー、日米欧の資本フロー分析、日本及び欧州の金融政策及びマクロ分析を担う。2002年に野村総合研究所に入社、2004年に野村證券への転籍を経て、2011年以降は海外拠点にて外国人投資家向けの情報提供を中心に活動。2019年8月より現職。
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