2026.06.29 NEW
高市政権・戦略17分野の投資額順位一覧 投資額が大きい品目から分かる成長戦略 野村證券・岡崎康平
撮影/タナカヨシトモ(人物)
高市早苗政権は「危機管理投資・成長投資」の一環として、370兆円超規模の官民投資を推進する方針です。2026年6月24日には、政府から戦略17分野・62品目の投資促進策が公表されましたが、今後、どの分野が成長資金の受け皿となるのでしょうか。野村證券市場戦略リサーチ部チーフ・マーケット・エコノミストの岡崎康平が解説します。
投資額が大きい品目は「AI半導体」「クラウド・データセンター、蓄電池」「ゲーム」など
- 6月24日に経済財政諮問会議・日本成長戦略会議が開催され、高市政権が掲げる戦略17分野・62品目の投資促進策の詳細が公表されました。どう見ていますか。
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17分野・62品目については大きな変更はなく、2040年度までの官民投資総額も370兆円超と事前に報道されていた通りの規模が政府から発表されました。分野別に投資額の規模をみると、「AI・半導体」が101.6兆円と突出して大きく、「デジタル・サイバーセキュリティー」(55.4兆円)、「創薬・先端医療」(43.3兆円)、「コンテンツ」(33.7兆円)、「合成生物学・バイオ」(33.6兆円)と続きます(分野合計値は重複計上があり得る点に注意)。
世界的なAI・半導体需要の拡大を踏まえれば、「AI・半導体」の官民投資額が突出することに違和感はありません。62品目別では最大の投資額となった「AI用半導体」(68兆円)については、国内生産の半導体売上高を2030年に15兆円・2040年に40兆円まで拡大することを掲げています。フィジカルAIの発展を踏まえて、日本国内で先端・次世代半導体の生産能力を拡充することが重要になります。
データセンター投資が含まれる「デジタル・サイバーセキュリティー」の投資額が大きい点も、同様に近年のAIブームが背景にあります。特に、先端AIによるサイバーセキュリティー・リスクはG20などの国際コミュニティでも共有されており、日本国内でも年後半にかけて取組みが加速する可能性があります。この分野で投資額のシェアが大きい品目が「クラウド・データセンター、蓄電池」(32.7兆円)で、全体で2番目の規模になります。注目すべきは「蓄電池」が追加された点です。当初は品目名に明記されていませんでしたが、クラウド・データセンターの整備を進めるうえで、蓄電池の存在感が大きくなった可能性があります。
やや驚いたのは、「コンテンツ」の投資額が大きかったことです。コンテンツ分野の「ゲーム」(24.5兆円)が品目別で全体の第3位に登場しています。投資額が大きくなりやすい分野としては、例えば「創薬・先端医療」や「合成生物学・バイオ」のように、研究開発や設備投資の規模が大きい分野が想定しやすいと思います。「コンテンツ」分野はそういったイメージと少し距離がある印象でサプライズです。
ゲーム業界全体では、2033年に海外売上高12兆円を目指しています。海外展開を進めるうえでは、言語の壁の克服をはじめとしたローカライズ施策の重要度が上がりそうです。AI翻訳はもちろん、海賊版対策などの技術面の課題克服、グッズ等のIP(知的財産)二次利用製品に係る販売先拡大などが注目されます。戦略17分野の他品目では、経済安全保障の観点で「守り」を固める意図が見られます。これに対して、コンテンツ分野は成長産業の支援、すなわち「攻め」の投資促進と位置付けられそうです。
| 製品・技術 | 官民投資額 (兆円) |
投資額順位 | 対象期間 | ||
|---|---|---|---|---|---|
| 1.AI・半導体 | フィジカルAI | 101.6 | 10.5 | 10 | 2040年度まで |
| AI用半導体 | 68 | 1 | |||
| バーティカルAI | 23.1 | 5 | |||
| 2. デジタル・サイバーセキュリティー | データプラットフォーム | 55.4 | 0.9 | 49 | 2035年度まで |
| 政府などのAX/DX基盤 | 7.4 | 13 | |||
| 先進セキュリティ製品 | 1 | 45 | |||
| クラウド・データセンター、蓄電池 | 32.7 | 2 | |||
| 医療DX基盤 | 5.2 | 20 | 2040年度まで | ||
| 自動運転技術 | 8.2 | 12 | |||
| 3. 情報通信 | 光ネットワーク | 28.8 | 5.9 | 18 | 2040年度まで |
| 海底ケーブル | 2.4 | 35 | |||
| 次世代ワイヤレス | 20.5 | 7 | |||
| 4. 量子 | 量子コンピューティング | 13.2 | 10.3 | 11 | 2040年度まで |
| 量子通信・ネットワーク | 1.5 | 38 | |||
| 量子センシング | 1.4 | 39 | |||
| 5. 防衛産業 | 小型無人機 | 4.7+α | 0.4 | 53 | 2040年度まで |
| 艦艇 | 新安保3文書を反映 | - | |||
| 軍民両用技術 | 4.3 | 25 | |||
| 6. 航空・宇宙 | 民間航空機 | 18.5 | 3.5 | 28 | 2040年度まで |
| 無人航空機 | 0.3 | 56 | |||
| 空飛ぶクルマ | 0.4 | 53 | |||
| ロケット・射場 | 2.3 | 36 | |||
| 人工衛星・サービス | 6.4 | 15 | |||
| 月面探査・低軌道技術 | 5.6 | 19 | |||
| 7. 海洋 | 海洋ドローン | 3.3 | 1.2 | 41 | 2040年度まで |
| 海洋状況把握 | 1.2 | 41 | |||
| 海洋開発技術 | 0.9 | 49 | |||
| 8. フードテック | 植物工場 | 9.7 | 4.6 | 24 | 2040年度まで |
| 陸上養殖 | 2.9 | 33 | |||
| 食品機械 | 1.2 | 41 | |||
| 新規食品 | 1 | 45 | |||
(注)17分野ごとの合計額は、野村が単純合計として示したもの。実際には製品・技術間の重複もありうるため、あくまで参考値としての位置づけに止まる点に注意。「防衛産業」や「造船」の投資額における「+α」は、内訳に投資額がまだ明確でない部分が含まれることを意味している。「投資額順位」は、62製品・技術の投資額が多い順番でランキングを作成したもの。赤色が濃いほど順位が高い(=投資額が大きい)ことを意味する。
(出所)内閣官房資料より野村證券市場戦略リサーチ部作成
| 製品・技術 | 官民投資額 (兆円) |
投資額順位 | 対象期間 | ||
|---|---|---|---|---|---|
| 9. 港湾ロジスティクス | 港湾荷役機械 | 1.2 | 0.4 | 53 | 2040年度まで |
| 港湾物流DX | 0.2 | 58 | |||
| 次世代型倉庫 | 0.6 | 52 | |||
| 10. 造船 | 次世代造船 | 1.1+α | 1 | 45 | 2034年度まで |
| 船舶修繕 | 0.1 | 60 | 2035年度まで | ||
| LNG運搬船 | 今後精査 | - | - | ||
| 11. マテリアル(重要鉱物・部素材) | 永久磁石 | 12.7 | 0.2 | 58 | 2040年度まで |
| 金属部素材 | 0.3 | 56 | |||
| 低炭素金属部素材 | 0.7 | 51 | |||
| 鉱石の精錬技術 | 6.3 | 16 | |||
| 複合新素材 | 5.2 | 20 | |||
| 12. 合成生物学・バイオ | バイオモノづくり | 33.6 | 12.8 | 8 | 2040年度まで |
| バイオ医薬品 | 20.8 | 6 | |||
| 13. 創薬・先端医療 | 画期的医薬品 | 43.3 | 23.4 | 4 | 2040年度まで |
| 感染症対応製品 | 7.2 | 14 | |||
| AI先端医療 | 11.6 | 9 | |||
| 健康サービス | 1.1 | 44 | |||
| 14. 資源・エネルギー安全保障・GX | 次世代太陽電池 | 28.8 | 4.1 | 27 | 2040年度まで |
| 水素など | 6.2 | 17 | |||
| グリーン鉄 | 4.2 | 26 | |||
| 次世代型地熱 | 1 | 45 | |||
| 洋上風力 | 5.1 | 22 | |||
| 次世代型革新炉 | 5 | 23 | |||
| GXケミカル | 3.2 | 30 | |||
| 15. 核融合 | 核融合技術 | 3.1 | 3.1 | 31 | 2040年度まで |
| 16. 防災・国土強靭化 | 防災技術 | 2.6 | 2.6 | 34 | 2030年度まで |
| 17. コンテンツ(アニメ・ゲームなど) | ゲーム | 33.7 | 24.5 | 3 | 2033年度まで |
| アニメ | 3.3 | 29 | |||
| 漫画 | 1.6 | 37 | |||
| 音楽 | 3 | 32 | |||
| 実写 | 1.3 | 40 | |||
(注)17分野ごとの合計額は、野村が単純合計として示したもの。実際には製品・技術間の重複もありうるため、あくまで参考値としての位置づけに止まる点に注意。「防衛産業」や「造船」の投資額における「+α」は、内訳に投資額がまだ明確でない部分が含まれることを意味している。「投資額順位」は、62製品・技術の投資額が多い順番でランキングを作成したもの。赤色が濃いほど順位が高い(=投資額が大きい)ことを意味する。
(出所)内閣官房資料より野村證券市場戦略リサーチ部作成
- ゲームの投資額がここまで大きいのは意外でしたが、マーケットの反応は限定的のようです。
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「攻め」の投資促進策である以上、その成果はヒット作の誕生次第という面が大きいのだと思います。近年、ゲーム産業では開発・広告費用の負担が重たくなっており、「これなら投資回収できる」という視点で過去のヒット作のリメイク作品に取り組む傾向が強まっています。このままでは新たなキラーコンテンツの創出が困難になる、という問題意識が、戦略17分野の投資促進策にも反映されたと言えるでしょう。もちろん、開発・広告負担の軽減はゲーム産業にとって前向きな材料ですが、株式投資の観点ではやはり成果を見極めたいですね。この点は、予算増が顧客増をほとんどそのまま意味する防衛産業との違いとして整理すると理解しやすいかもしれません。
具体的な投資案件がどこかのタイミングで明らかになる可能性も
- 370兆円超という官民投資額の規模感については、どう見ていますか。
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戦略17分野の投資促進策は、2040年度までに370兆円超の投資を官民で実現するとしています。2027年度からプロジェクトが始まるとすると、14年間で370兆円超、1年あたりでは26.4兆円と計算されます。2025年度の民間設備投資は125兆円ほど、公共投資は33兆円ほどだったことを踏まえると、決して無視できない大きさです。ただ、370兆円超のすべてがGDP統計における設備投資・公共投資の定義にあてはまる内容かはまだ分かりません。現時点では、年あたり26.4兆円の規模は「小さすぎず大きすぎない規模」と評価しておくのが良いように思います。
むしろ、興味深かったのは高市首相による会議締めくくり発言です。「ある分野(筆者注:戦略17分野のこと)では、省庁の担当者たちが、100名近くの民間企業の方々から、具体的な投資計画やアイデアをお聞きするためにヒアリングを重ねて準備してきた」とあります。370兆円超の官民投資には、具体的な投資計画の裏付けが原則としてあるようです。
- 投資額について、官と民の分担割合は示されたのでしょうか。
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現時点では、まだ分担割合は示されていません。ただ、政府内では具体的な分担額を試算している様子が政府資料からは窺えます。今後、具体的な分担割合が示されるかもしれませんね。
既に政府支援の枠組みが存在するGXやAI・半導体分野の実績、そして早くに投資ロードマップが取りまとめられた造船分野の内容を踏まえると、370兆円超のうち約3割が官の分担ではないかと当たりを付けています。ただ、分野ごとに分担比率も違うでしょうから、ここは政府からの続報を待ちたいですね。
高市首相は「各地域で投資がどの程度進んだかをきめ細かく把握し、国内投資マップを定期的に改訂・公表してお示ししていきます」とも述べており、成長戦略に係る具体的な投資案件がどこかのタイミングで明かされる可能性があります。
引き続き残る財政拡張への警戒感
- 戦略17分野・62品目の投資額の公表以外で、注目点はあるでしょうか。
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予算要求において、「強く豊かな日本」投資枠が創設されることも明らかになりました。この投資枠では、(1)成長力強化に資する案件を対象とし、(2)予算要求でシーリングを設けず成長への寄与などを精査し、(3)複数年度の計画に基づくもので、(4)財政の持続可能性を実現しながら必要十分な規模を確保するものとされました。なお、経済安全保障上、特に重要な分野については、特別会計で経理したうえで財源を用意し「つなぎ国債」を発行します。この財源は、引き続き明らかにされませんでした。
- マーケットの反応をどう見ていますか。
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米・イラン停戦合意の影響で原油価格が低下しており、金利や為替に関する前提条件が大きく変わる中で、まだマーケットは高市政権の政策まで消化しきれていないようです。今回の公表内容は、高市内閣が財政の持続可能性を実現する意欲を感じさせるものでしたが、「つなぎ国債」の財源が不明である以上、引き続き金融市場では財政拡張に対する警戒感が残るでしょう。
6月25日に開催された経済財政諮問会議で、片山さつき財務大臣が提出した資料を見ると、「つなぎ国債」については、追加的な税外収入を中心として複数年度の財源を確保する旨の記載がありました。増税ではない形で戦略17分野への投資を進めていくことが窺えます。高市政権にとって初めてとなる2027年度予算の編成作業は、引き続き金融市場の注目を集めそうです。
- 野村證券 市場戦略リサーチ部 チーフ・マーケット・エコノミスト
岡崎 康平 - 2009年に野村證券入社。シカゴ大学ハリス公共政策大学院に留学し、Master of Public Policyの学位を取得(2016年)。日本経済担当エコノミスト、内閣府出向、日本経済調査グループ・グループリーダーなどを経て、2024年8月から、市場戦略リサーチ部マクロ・ストラテジーグループにて、チーフ・マーケット・エコノミスト(現職)を務める。日本株投資への含意を念頭に置きながら、日本経済・世界経済の分析を幅広く担当。共著書に『EBPM エビデンスに基づく政策形成の導入と実践』(日本経済新聞社)がある。
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