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2026.05.25 NEW

日銀の6月利上げは長期金利安定の最低条件、金利上振れリスクに警戒 野村證券・宍戸知暁

日銀の6月利上げは長期金利安定の最低条件、金利上振れリスクに警戒 野村證券・宍戸知暁のイメージ

撮影/タナカヨシトモ(人物)

2026年5月18日、日本の国内債券市場で、長期金利の指標となる新発10年物国債利回りが一時2.8%まで上昇しました。こうした動きを受け、野村證券のシニア金利ストラテジスト、宍戸知暁は、日本銀行が6月に利上げすることが、長期金利を安定させるための最低条件だとの見方を示しています。以下、詳しく説明します。

原油高を受け、国内で強まるインフレ加速懸念

5月の大型連休明けに、長期金利が一段と上昇しました。新発10年国債利回りは、4月末の2.46%から、5月19日から20日かけては、日中の取引で2.8%まで上昇する場面がありました。金利上昇の背景となっているのが、市場参加者のインフレ期待の上昇です。

ホルムズ海峡の実質閉鎖の長期化による原油価格の高止まりに加え、拡張財政への警戒や、日銀の金融政策が後手に回るとの懸念を受け、債券市場のインフレ期待である10年BEI(ブレーク・イーブン・インフレ率、10年国債利回り-10年物価連動国債利回り)は日銀の物価目標である2%を上回り、2.3%近くまで上昇しました。

補正予算編成を市場は警戒も、金利上昇は国債増発懸念が主因とはいえない

政府が補正予算編成を検討しているとのニュースが5月14日の30年国債入札当日に伝わり、金利上昇の一因となりました。5月18日には、高市早苗首相が補正予算編成を片山さつき財務相に指示したことが明らかになり、ロイターは補正予算の財源に赤字国債の発行が含まれると報じました。

もっとも、補正予算は、ガソリンや電気・ガス料金への補助金のための予備費積み増しに限定される見通しで、規模も3兆円程度と小規模にとどまる可能性が高いとみられます。いわゆるカレンダー発行(市中発行)を増額する必要はない見込みです。

国債増発への懸念から金利が上昇しているというよりは、景気刺激的な財政策運営によって総需要が経済の供給能力を超過し、インフレ圧力をさらに強めてしまうことが市場で懸念されていると考えられます。

金利上昇のペース次第で、日銀の国債買い入れ増額観測も

日銀は、イールドカーブコントロール政策の廃止後も、長期金利がファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に沿わず急騰した場合は、国債買入れ増額などで対応する方針を示しています。このため、今回の金利上昇についても、さらにスピードが増せば、市場では国債買入れ増額への思惑が広がりやすい状況です。

もっとも、国債需給の悪化懸念が今回の金利上昇の主因ではないとみられ、現局面で日銀が国債買入れを増額するのは適切ではないと考えます。実際に日銀が買入れ増額に動く可能性は低いとみられます。

ただし、6月の日銀政策決定会合で決定される来年度以降の国債買入計画については、今回の金利上昇が日銀の判断に影響する可能性があります。2027年度以降は、買入れ減額のペースがさらに緩やかになるか、買入額が月2.1兆円程度で据え置かれる(減額が止まる)かのいずれかとなる可能性が高いと見込まれます。

インフレ期待の安定化には、日銀の着実な利上げが重要

OIS(オーバーナイト・インデックス・スワップ)市場は、6月利上げを75%程度織り込んでいます。野村證券も6月の利上げを予想しています。しかし円金利の急騰を受け、前述のように日銀による国債買入れ増額の可能性が取りざたされる中、6月会合で利上げが可能なのか、また利上げがかえって金利上昇に拍車をかけるのではないかとの懸念が市場で浮上しています。

このような懸念は理解できますが、私は逆に、6月にしっかり利上げを実施した方が、日銀が2%の物価安定目標を実現するとの信頼感が市場で高まることを通じて、インフレ期待が安定し、インフレ期待の影響を受けやすい5年超の金利も安定しやすいと考えます。つまり、どのような理由であれ6月に利上げできない場合は、長期金利はさらに上昇してしまうとみています。

植田和男日銀総裁は3月末の国会で「短期金利が適切に調整されずに物価が上振れする可能性があると市場が認識した場合は、長期金利も上振れするリスクがある」と述べ、「2%の物価安定目標が達成される確度が高まることに応じて、短期金利を適切なペースで引き上げていけば、長期金利もそうした動きと整合的な形で安定的に形成されていくと考えられる」としています。

野村予想、半年に1回ペースであと3回の利上げは十分か

ここで考えなければならない課題は、「日銀が短期金利を適切なペースで引き上げれば、インフレ期待と長期金利は安定する」という植田総裁が述べた命題が真であるとして、何が「適切なペース」に該当するかという点です。野村證券では、日銀が6月の政策決定会合での25bp(ベーシスポイント)の利上げを含め、半年ごとに計3回25bpずつ利上げし、政策金利を1.5%まで引き上げて利上げを終了すると予想しています。また、この金融政策見通しのもとで、CPI(消費者物価指数)上昇率は2%付近で安定すると見込んでいます。つまり、野村證券では半年に1回のペースであと3回の利上げが「適切」と考えています。

しかし、円金利市場は野村予想よりもやや速いペースで、2年後に2%まで利上げが進むことを織り込んでいるように見受けられます。

フォワード金利カーブとエコノミストの政策金利予想

 フォワード金利カーブとエコノミストの政策金利予想のイメージ (出所)Bloombergより野村證券市場戦略リサーチ部作成

それにもかかわらず、債券市場のインフレ期待であるBEIが2%を上回り、不安定化しつつあることは、市場が野村予想のような利上げペースではインフレを中長期的に2%にアンカーするには不十分と判断し始めたことを示唆します。もちろん、現時点で市場の懸念が正しいのか、野村證券を含む多くのエコノミストや専門家の予想の方が正しいのかは判断できません。野村予想通りに日銀が利上げを進めた場合、そのペースが「適切」だったかは、今後のインフレ動向によって明らかになります。

長期金利は6月にピーク見込み、なお上振れリスクに警戒

もっとも、現状では、野村證券が想定するペースでの利上げすら実現できないリスクの方が、野村證券の予想を上回る速いペースで利上げが進む可能性よりも大きいと言えます。まずは、6月に利上げが実施できるかどうかが当面の焦点ですが、ホルムズ海峡の実質的な封鎖が6月時点でも続いていれば、利上げが見送られる可能性は否定できません。

また、6月には「社会保障国民会議」の中間とりまとめと「2027年度骨太の方針」で、高市政権のもと、中期的な政府の歳入・歳出方針がある程度明らかになる見通しです。3月以降の原油価格の上昇を受け、「積極」財政が前面に出て「責任ある」政策運営姿勢の強調が後回しとなるリスクも高まっているとみられます。

野村證券では、日銀が6月に利上げするとの予想に基づき、長期金利は6月にいったんピークを迎えると予想しています。財政政策については、食品に対する消費税の2年間停止が決まると想定していますが、それを除けば、経済の需要側だけを大幅に押し上げインフレ圧力の上昇につながるような政策が決まるとは見ていません。ただし、この見通しに対するリスクは、金利が上昇する方向に傾いていると言わざるを得ません。

野村證券 市場戦略リサーチ部 シニア金利ストラテジスト
宍戸 知暁
2000年野村総合研究所入社。2003年からニューヨークの野村総研アメリカおよび米国野村證券で米国マクロ経済の分析に従事。2006年からマクロ経済分析を基礎とした米国債券市場の分析・予測を担当し、その後は米株式市場の分析およびマルチアセット・ストラテジーを担当。2022年から2年間、財務省理財局国債業務課で市場分析官として勤務し、海外市場および円金利市場の分析に従事した。2023年6月から円金利ストラテジー担当。 ファンダメンタルズ分析および中銀ウォッチを基本に、投資家の売買動向を含む市場需給見込みも加味した予測作成およびストラテジー構築を心掛けている。

※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

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