2026.05.01 NEW
米ドル円急落、一時155円台に 追加的な為替介入の可能性と介入効果の持続性が焦点 野村證券・後藤祐二朗
撮影/タナカヨシトモ(人物)
米ドル円は1米ドル=160円台後半まで上昇した後、日本時間の2026年4月30日夕方に急落し、一時155円台まで下落しました。片山さつき財務相や三村淳財務官は事前に強い牽制発言を行っており、2024年7月以来となる円買い介入が実施された可能性が高いとみられます。野村證券の後藤祐二朗チーフ為替ストラテジストは、目先は追加的な介入の可能性に注意が必要であり、ゴールデンウイーク期間中も含め、短期的には米ドル円の上値は抑えられやすいと指摘しています。以下、詳細を見ていきます。

円買い介入発動で円急騰
日米の金融政策イベントを通過し、米ドル円相場は160円台後半と2024年7月以来の水準まで円安・米ドル高が進みましたが、日本時間30日午後5時前から急落し、一時155円台まで下落しました。日本経済新聞は政府関係者が円買い介入実施を認めたと報じており、ロイターも同様に政府関係者が介入実施を明らかにしたとしています。2024年7月以来の円買い介入とみられます。日銀会合でタカ派的(金融引き締めに前向き)なコミュニケーションがあったにもかかわらず円安が止まらず、米ドル円が160円台後半まで上昇したため、介入に踏み切ったとみられます。
(注)加重平均レートの計算に2026年4月の介入は含まれない。
(出所)ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部作成
片山財務相・三村財務官からの強い警告
円が急騰する前の30日夕方、米ドル円が160円台で推移する中、片山財務相は「いよいよ断固たる措置を取るタイミングが近づいている」と発言しました。三村財務官も「非常に投機的な動きが高まっている」「最後の退避勧告」と述べ、「米国とは協調的にやっている」と、介入への準備が整いつつあることを示唆しました。
目先は追加的な介入の可能性を警戒
口先介入が続く中、当社は直近では161〜163円のレンジで円買い介入が発動されると見ていましたが、ゴールデンウイーク中の円安加速を警戒し、やや早いタイミングでの介入となったとみられます。ゴールデンウイーク期間中を含め、当面は介入警戒感が米ドル円の上値を抑制する見通しです。
(出所)ブルームバーグ、マクロボンドより野村證券市場戦略リサーチ部作成
中長期的な介入効果の持続性
介入効果の持続性を考える上では、1)米国側の姿勢、2)日銀政策、3)中東情勢が焦点となります。米国側の協力姿勢については、日本経済新聞が米財務省報道官の「日本の財務省と緊密に連絡を取り合っている」とのコメントを報じています。現時点では協調や委託による介入は行われていないとみられますが、1月にはNY連銀が(為替介入の前段階となる)レートチェックを行っていたことから、2022年や2024年の介入局面と比べても、米側の円買い介入への許容度は高く、米側からの強い反発を懸念する必要は小さいと考えられます。
30日は日本の10年債利回りが2.5%超まで上昇するなど債券市場の不安定化リスクも残る中、米側としては円買い介入による円安・米ドル高是正と債券市場の安定化を歓迎するとみられます。
一方、米財務省は介入に際して整合的な金融政策運営を求める可能性も否定できません。4月会合で日銀はビハインド・ザ・カーブ(政策が後手となる)懸念の高まりを示唆し、6月利上げの可能性も意識されていますが、今回の円買い介入実施により利上げの確度が高まったといえます。介入による円安抑制によりビハインド・ザ・カーブのリスクは一時的に低下しますが、日銀が6月会合で利上げを実施すれば、米日金利差縮小による円高の影響は大きくなる可能性があります。
米ドル円に限らず、2月末以降の米ドル相場は中東情勢や原油価格によって左右される展開が続いています。ホルムズ海峡封鎖の長期化が懸念される中、NY原油先物価格は100米ドル前後まで上昇しており、今後の日本の貿易収支悪化への圧力が予想されます。原油価格の高止まりが続けば、円買い介入による需給面での円高効果は徐々に相殺される見通しです。また、原油高はFRB(米連邦準備理事会)やECB(欧州中央銀行)のタカ派姿勢につながり、円安圧力を強める要因となります。
中東情勢の改善により原油価格のピークアウトが早期に明確となり、日銀による6月利上げが実現すれば、今回の円買い介入が持続的な米ドル円調整につながる可能性もあります。一方、原油高が長期化し、日銀の利上げも遅れる場合には、円安圧力が再燃し、夏場に向けて米ドル円が再び160円台を回復するリスクも残ります。円買い介入発動により短期的には米ドル円の上昇リスクは低下しますが、引き続き中東情勢を注視する必要があります。
円買い介入の財源論と円資金の活用論
本邦当局は3月末時点で1兆3,747億米ドルの外貨準備を保有しており、介入資金は潤沢です。預金だけで1,617億米ドルを保有し、短期債へのエクスポージャー(投融資残高)も含めれば、米債市場への影響なしに大規模介入を行うことが可能とみられます。
円買い介入により、当局は新たに兆円単位の円資金を得ることになります。基本的には短期債の買い入れ消却に使われると考えられ、日本の債券市場への影響も限定的とみられますが、食品向けの消費税減税の財源論が注目され、長期・超長期債利回りの上昇圧力も強い中、介入による円資金の扱いには引き続き注目したいところです。
- 野村證券 市場戦略リサーチ部 チーフ為替ストラテジスト
後藤 祐二朗 - 為替相場のリサーチ・ストラテジーを担当。8年半にわたるニューヨーク・ロンドン駐在時には海外ヘッジファンド向けを中心としたドル円ストラテジー、日米欧の資本フロー分析、日本及び欧州の金融政策及びマクロ分析を担う。2002年に野村総合研究所に入社、2004年に野村證券への転籍を経て、2011年以降は海外拠点にて外国人投資家向けの情報提供を中心に活動。2019年8月より現職。
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