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2026.05.25 NEW

インド、モディ首相の燃料節約要請の影響とは ルピー安や株安で政策転換の可能性も 野村證券・春井真也

インド、モディ首相の燃料節約要請の影響とは ルピー安や株安で政策転換の可能性も 野村證券・春井真也のイメージ

撮影/タナカヨシトモ(人物)

米国のイラン攻撃を背景とする原油価格の高止まりにより、新興国通貨への下落圧力が継続する可能性が出ています。ルピー安や株安が進むインドでは、モディ首相が2026年5月10日、国民向けの演説で、燃料使用の削減や不要不急の国外旅行の自粛などを呼び掛けました。インド政府が取り組む対策や市場動向について、野村證券市場戦略リサーチ部シニア外国為替アナリスト/シニアエコノミストの春井真也が解説します。

インド、モディ首相の燃料節約要請の影響とは ルピー安や株安で政策転換の可能性も 野村證券・春井真也のイメージ

インド政府、家計負担を伴う政策に転換か

インドルピーの対米ドルでの下落が目立ってきましたが、モディ首相がこのタイミングで国民向けに燃料使用削減などを要請した背景は何でしょうか。

新興国市場の為替は、中東情勢悪化を受けて2026年3月に対米ドルで大きく下落した後、4月にいったん反発しましたが、足元では上値の重い展開が続いています。特にインドや東南アジアにおいては大きく下落し、インドルピーは5月20日に一時1米ドル=96.95ルピーと対米ドルで再び最安値を更新しました。

中東情勢悪化後の主要新興国・地域通貨の対米ドル騰落率

インド、モディ首相の燃料節約要請の影響とは ルピー安や株安で政策転換の可能性も 野村證券・春井真也のイメージ

(注)主要新興国・地域通貨は各国通貨平均
(出所)ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部作成

インドにおける通貨安の要因は3つあると考えており、1つ目は、インドから国外へ支払うお金が原油高などで増えていることです。また、インドは冠婚葬祭で金が多く使われることから金輸入への支払いもあり、結果として経常収支が赤字となっています。

2つ目は、インドが国外から受け取るお金が細っていることです。インドは韓国や台湾といった他の新興国と比べてAI関連銘柄が少なく、対内と対外をネットした直接投資も2024年ごろから低調となっています。中東情勢の悪化で、経済的な結び付きが強い中東からインドへの送金も期待しづらい状況です。

3つ目として、インド政府が、ルピー安をある程度許容しているように見受けられることも売り圧力に通じているかもしれません。モディ首相は5月の演説で、生活必需品以外の金購入を控えることも要請しました。これまでは国民の家計にあまり負担を強いないスタンスでしたが、経常収支改善に向けた転換点となる可能性があるのではないでしょうか。

インド準備銀行のタカ派姿勢は徐々に強まる可能性も

インドの中央銀行はどのように金融政策のかじ取りを行っていく見通しですか。また、想定されるリスクシナリオは何でしょうか。

原油高が続くうちはルピーへの下落圧力も継続する見通しで、RBI(インド準備銀行)の金融政策が注目されそうです。インドは例年6月ごろから9月ごろにかけて雨季に入りますが、この時期に雨量が少ないと農産品が不作となり、食料品価格が上昇します。インドの4月の消費者物価指数は前年比+3.48%と他国に比べて大きいとは言えず、足元ではRBIが通貨防衛のためすぐに利上げを実施するとは考えにくい状況ですが、2026年の雨量は例年を下回る予想が示されています。

RBIは今のところ、中立的な金融政策スタンスを維持していますが、野村證券では、農産品価格やエネルギー価格の上昇で2026年10-12月期の消費者物価指数は同5%台後半に上昇すると予想しており、RBIが徐々にタカ派(金融引き締めに前向き)姿勢を強めていく可能性があります。タカ派化したRBIの為替介入などにより、ルピーの下落ペースは緩やかになっていくことも予想されます。

インド財政収支と経常収支

インド、モディ首相の燃料節約要請の影響とは ルピー安や株安で政策転換の可能性も 野村證券・春井真也のイメージ

(注)財政収支と経常収支は後方12ヶ月累積値、年度は4月-翌年3月。
(出所)マクロボンドより野村證券市場戦略リサーチ部作成

リスクシナリオとして、通貨危機には注意が必要でしょう。米ドル売りルピー買いの為替介入は断続的に実施されているようですが、介入によって外貨準備高が減り、ルピーの下落に歯止めがかけられなくなる通貨危機は大きなリスクとなり得ます。米国が再び利上げ局面となった際、新興国からの資金流出が起きるようなことがあれば、通貨危機が不安視される可能性もあります。そうした事態に陥らないように経常収支を改善させて、通貨危機への耐性を高めることが、インド当局の当面の目標となりそうです。

国家戦略でAI活用を幅広く展開する方向

金融市場の状況を踏まえてインド株への投資を考える際、注目すべきポイントはありますか。

ルピー下落の背景には海外投資家からの株式資金の流出も挙げられます。今述べてきた経常収支の悪化懸念やAI関連銘柄の少なさなどへの懸念が、株式資金の流出につながっていると考えられるでしょう。

インド株(NIFTY50)と株式資金流出入額

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(注)株式資金の純流出入額は後方28日移動平均値。
(出所)ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部作成

もっとも、インドは内需主導の景気拡大が継続しており、景気が悪いわけではありません。原油高をはじめ外部環境の変化に伴う経常収支の悪化などへの対策を進め、言わば悪い膿を出し切ることができれば、問題が危機になる前に芽を摘むことができるかもしれません。 インド政府は国家戦略として、コストが安く、多言語に対応した公共インフラ的位置づけのAI開発をグローバルサウス向けに進める「AIの民主化」を進めていく方針です。インドをAI活用による社会問題解決の実験場として、医療へのアクセス改善、農業生産性の向上などを目指す方向ですので、今後AI活用を幅広く展開していくことも予想されます。グローバルでAIや半導体相場の過熱感が指摘されることもありますが、市場環境が少し落ち着けば、投資先の一つとしてインド株も見直されていくのではないでしょうか。

インド、モディ首相の燃料節約要請の影響とは ルピー安や株安で政策転換の可能性も 野村證券・春井真也のイメージ
野村證券市場戦略リサーチ部 シニア外国為替アナリスト/シニアエコノミスト
春井 真也
新興国(インド、ブラジル、ロシア、ラテンアメリカ、ASEAN、トルコ、南アフリカ、東欧)のマクロ経済、為替分析を担当。景気、金融政策といったファンダメンタルズの分析に加え、地域横断的なアプローチを重視。2024年10月から政策研究大学院大学の政策研究院リサーチ・フェロー。2023年3月まではユーロ圏や英国のマクロ経済、為替分析を担当。2015年8月から2019年4月までロンドン駐在(欧州担当エコノミスト)。2004年3月一橋大学商学部卒(国際金融専攻)、2005年3月一橋大学大学院商学研究科経営学修士取得(国際金融専攻)。

※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

 
   
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