2026.05.18 NEW
米上院、ウォーシュ氏FRB議長就任を承認 金融市場への影響は 米国野村證券・雨宮愛知
撮影/タナカヨシトモ(人物)
FRB(米連邦準備理事会)の次期議長としてケビン・ウォーシュ氏が承認されました。FRBに利下げを公然と要求してきたトランプ米大統領との関係性が注目される中、新体制は船出から中央銀行としての中立性や独立性を試される可能性があります。米国野村證券シニア・エコノミストの雨宮愛知は、米金融政策は先を見通しにくくなり、米国市場のボラティリティが高まると予想しています。以下、詳しくみます。

就任後すぐに利下げは困難な状況か
- ウォーシュ氏がFRBの次期議長に就任します。インフレや中東情勢など先行きには不透明感も強い印象がありますが、ウォーシュ氏にはどのような金融政策のかじ取りを求められますか。
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最近の米国市場では株高が続いていますが、要因は大きく二つあると見ています。一つは、米国が世界有数の産油国であり、国内で天然ガスが余っていることから、中東発のエネルギーショックの米経済への影響が他国に比べて軽微であることが挙げられます。また、AIへの期待が強く、耐久財受注やデータセンターの建設支出など、AI投資が景気を盛り上げていることがマクロ経済指標でも確認できているのはマーケットのセンチメント(心理)をサポートしていると思います。
ただ、今後リスクがないわけではありません。原油高が長引くことによる金融市場へのストレスは、完全にはわかっていません。原油収入が途絶えた中東諸国が資金難に陥れば、何らかの資産を処分して資金を確保しなければならなくなるかもしれません。利益見通しの前提として、原油高の長期化を織り込んでいるかどうかも、企業によってバラツキがあります。こうした動きが、どこに飛び火するかわからない緊張感はあります。金融市場への警戒は怠らない方が良いと言えるでしょう。
また、米経済へのインフレ圧力は明らかに高まっています。関税政策の影響は落ち着いてきている部分がありますが、原油高に加え、航空運賃やトラックの輸送費、半導体のグローバル価格などは上昇しています。賃金の伸びも粘り強く、ウォーシュ氏が就任しても、すぐに利下げというのは難しい状況とみられます。
- ウォーシュ氏は、トランプ大統領が強く求める利下げを実現できるのでしょうか。
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まず、FOMC(米連邦公開市場委員会)において、金融政策は多数決で決定するので、ウォーシュ氏1人で実現するのは難しいはずです。インフレ圧力があり、イラン情勢が落ち着いていない状況で、米景気も悪くないとなると、利下げは当面できないのでは、という市場参加者の見方もあります。もっとも、インフレ圧力に低下の兆しが見えてくればわかりません。ホルムズ海峡が開放されれば数ヶ月程度で逆回転が始まるかもしれません。インフレ圧力がピークアウトする状況となれば、市場の見方も利下げがある、という方向に変わっていくと思われます。
もう一つは、ウォーシュ氏がどれだけ影響力を行使して、FRBをまとめ上げられるかという観点があります。これまでのFRB議長は影響力の発揮の仕方がそれぞれ異なっていました。ベン・バーナンキ氏やジャネット・イエレン氏は経済学の理論によって周囲の説得を試みた一方、ジェローム・パウエル氏は人の意見を聞いてコンセンサスを作るスタイルでした。一方、ウォーシュ氏は議長の影響力を大きくして、自分で引っ張っていくスタイルを目指すのかもしれません。彼自身は、フォワードガイダンス(金融政策の先行き指針)を出すことはあまり有益ではないという見方を示しています。
フォワードガイダンスは、ゼロ金利に直面した危機の時代にバーナンキ氏が導入しましたが、ウォーシュ氏はフォワードガイダンスを平時に出す意味があるのかという考えで、かなり金融哲学が異なる印象を受けます。さらに、FOMC参加者が適切と考えるFF(フェデラルファンド)金利の水準を点で示すドットチャートもバーナンキ氏の時代に始まりましたが、ウォーシュ氏は情報過多なのではないかとの考えを示しています。こうしたバーナンキ議長時代から始まったコミュニケーションの拡大戦略が修正されていくとなると、FOMCが開かれるまで金融政策として何が決定されるかわからず、市場のボラティリティが非常に上がることも予想されます。
議長の影響力を高めていく方向と予想
- ウォーシュ氏は今後、どのようなスタンスを取り得るのでしょうか。
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ウォーシュ氏は、あいまいな言葉を使いながら、時に金融市場にサプライズをもたらすことを通じて、金融政策の効果を市場にもたらしていたアラン・グリーンスパン氏の時代への回帰を考えているのかもしれません。これはバーナンキ時代以降の考え方―FRBの意図を金融市場に十分に理解してもらってこそ、金融政策の効果が最大化する―とは異なるアプローチです。
グリーンスパン氏は、金融経済理論というより、細かくデータを見て周囲を説得する現実主義的なスタイルで、長く議長を務めたこともあり、議長時代にはかなり強い影響力を持っていました。ウォーシュ氏も議長の影響力をもう一度高めたい、議長の発言をもっと重みのあるものに変えていきたいと思っているのではないかと感じています。FRB内部のリソースを議長に集中させたり、他の理事の発言力を小さくさせたりするコミュニケーション戦略を取っていくことも考えられます。
AIがもたらす経済構造の急激な変化、労働生産性の高まりを背景に、将来的には物価上昇のペースが鈍化するディスインフレが進むと主張して、今のうちに利下げしても良いとの議論を展開する可能性もあります。これは、90年代後半のIT革命期に米景気が強まった際、グリーンスパン氏が利上げする必要はないと判断したのと似た構図です。ウォーシュ氏はAIによる生産性向上でそれほど賃金が上振れせず、インフレ加速が落ち着くという見方をしています。
金融政策を決定してからマーケットに影響を及ぼすまでタイムラグがありますから、将来を見越して議論する必要があるとウォーシュ氏は主張しています。将来的なディスインフレを前提に今利下げをすべきだという意見に基づいて、利下げを強硬に主張する可能性もあります。足元の実際のインフレ指標だけでなく、ウォーシュ氏がFOMC内でどれほど影響力を発揮するかも、金融政策の先行きを考える上で重要な要素になると考えています。
- トランプ大統領は今後も利下げ要求を強めるかもしれませんが、ウォーシュ氏はどのように対応する見通しでしょうか。
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トランプ大統領の影響をかわすのはかなり大変ですが、その願望を完全に受け入れればFOMC参加者の意見はかつてないほどに割れてしまいます。トランプ大統領の「操り人形」とみられれば、結果としてFOMCが荒れることになる、さらにFRBの独立性に疑問が持たれるような状況になる、というのはウォーシュ氏も理解しており、利下げの準備をしつつも、就任直後から強硬に利下げを主張することはないだろうと考えています。まずは、インフレの状況がある程度落ち着くのを待つ姿勢を示すのではと思われます。
とはいえ、ウォーシュ氏自身も、いずれは利下げすべきだと思っているのではないでしょうか。利下げを正当化できるような議論を展開し、FOMC内でのコンセンサスをまとめて、反対票が出ないような形で収めたいと考えているのではないかとみています。
市場のボラティリティは上がる可能性も
- ボラティリティの高まりに対して、投資家はどのように備えたら良いでしょうか。
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ウォーシュ氏が自分自身のドッツ(政策金利の予想)をFOMCに提出せず、FOMC参加者の政策金利見通しを実質的に骨抜きにしてしまうこともあり得るかもしれません。市場がベンチマークとするのはドッツの中央値であり、中央値を支持するグループにFRB議長は入っているだろうとみるため、市場の政策金利見通しはドッツの中央値を中心に形成されます。ところがドッツの中央値が議長の見通しを代表せず、かつドッツの分布もばらばらだと、ドットチャートの持つ意味が不明瞭となり、先行き指針としての意味がなくなってしまいます。それこそ彼が狙っていることであり、その結果として市場のボラティリティが上がる可能性があります。
金融政策を担うFOMC参加者の側にも確信がないような景気や金融政策の先行き予想を、あえて出すことに価値があるのかというウォーシュ氏の見解もわからなくはありませんが、次のFOMCで何をするのか、一応の目安がわかることで市場の予想は形成され、ボラティリティは下がります。今後のFOMCで何が起きるかの手がかりが全くなくなるという状況は、ボラティリティの観点からすれば、金融市場にとっては望ましくないとも言えます。
- 就任後初めてとなる6月のFOMCで、利下げの実現を含め、方向性を鮮明にする可能性はあるでしょうか。
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6月の利下げは完全なサプライズで、ほとんど誰も予想していないでしょう。まずFOMC参加者のうち、金融緩和に前向きなハト派のFOMCメンバーでさえも、足元の状況で追加利下げに踏み切ることには懐疑的です。タカ派に至っては将来利上げもあるかもしれないので、ガイダンスなど出している場合ではないとの意見です。中東情勢が落ち着かず、原油高も続いている状況では、利下げをサポートする材料は乏しく、常識的に考えて、就任直後の利下げは難しいのではないでしょうか。
- 議会承認で、賛成票が少なかった影響はありますか。
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ウォーシュ氏への米連邦議会上院の承認賛成票は54票と、歴代議長としては最少でした。そのため、ウォーシュ氏の2期目があるかどうかについては、かなり不確実性が高いのが実情です。ウォーシュ氏も政治色があると受け止められ、もし仮に4年後に民主党の大統領になっていれば、2期目のFRB議長として大統領から指名されることはないかもしれません。仮に大統領に指名されても、上院で民主党が多数を占めれば、その指名は議会で承認されない可能性があります。
対照的に、前議長のパウエル氏は超党派の支持を得ていました。パウエル氏は政治的中立性を守るため、議会との関係を非常に大切にしていました。ウォーシュ氏が民主党との関係性の改善に努めるかどうかも今後重要になるでしょう。
米経済は、原油価格の上昇による影響などがある中でもマクロ的にみれば耐えていると言える状況ですが、原油高が長期化すれば、金融市場を通じたストレスが生じるリスクが高まります。また、ウォーシュ氏のかじ取りが金融市場にどのような影響を及ぼすかも注視する必要があるでしょう。
- 米国野村證券 シニア・エコノミスト
雨宮 愛知 - 2001年野村総合研究所入社。2004年より野村證券金融経済研究所経済調査部。2009年より米国野村證券(ノムラ・セキュリティーズ・インターナショナル)に勤務。
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