2026.02.04 NEW
米国とインドが貿易合意 インド株投資の回復などがルピーの追い風に 野村證券・春井真也
撮影/タナカヨシトモ(人物)
トランプ米大統領は2月2日、米国とインドが貿易合意に達したと発表しました。トランプ大統領は、インド製品に対する相互関税率を25%から18%に引き下げると表明しました。野村證券市場戦略リサーチ部外国為替アナリスト/シニアエコノミストの春井真也は、今後のインドルピーは対米ドルで持ち直すと見込んでいます。詳しく説明します。

トランプ米大統領はインドと通商交渉で合意と発表
当局者によると、ロシア産原油の購入を理由に相互関税とは別枠で課していたインド製品への追加関税(25%)も撤廃する見通しです(ブルームバーグ、2月2日付)。これまで米国はインドの一部製品に合計50%の関税を課しており、他の新興国と比べても高い水準でしたが、18%に引き下げられる見込みです。背景には、インドのモディ首相が電話会談でロシア産原油の購入停止に同意したことがあるとされています。
(注)1.ブルームバーグによる試算値、2.ASEANはインドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、シンガポール、ベトナムの平均値、3.2026年2月2日時点。
(出所)ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部作成
またトランプ大統領は、インドが米国に対する関税と非関税障壁の引き下げを進め、将来的に「ゼロ」に近づける方向で取り組むと説明しました。あわせて、インドが米国のエネルギー、技術、農産物、石炭などの製品を5,000億米ドル相当を購入すると言及しました。
通商交渉合意のタイミングはサプライズ
米国とインドは2025年2月13日の首脳会談で、貿易総額を2023年の1,946億米ドルから2030年までに5,000億米ドルへ拡大する目標を掲げ、貿易協定の交渉開始で合意していました。ただ、その後、米国はロシア産原油の購入などを理由にインドの一部製品へ合計50%の関税を課し、両国関係は大きく悪化してきました。両国当局者は通商交渉の合意が近いと繰り返し表明してきたものの、実現に至らず、市場の期待は裏切られてきました。
通商交渉が難航した要因としては、米国による遺伝子組み換え作物の市場開放要求、「H-1B」ビザ(高度な外国人技術者向けビザ)に年10万米ドルの手数料を導入、米国とパキスタンの関係強化などが挙げられます。ルビオ米国務長官とインドのジャイシャンカル外相は1月13日に電話会談し、重要鉱物やエネルギーを含む通商問題を協議しましたが、合意には至りませんでした。インドはロシアからの原油購入を削減してきたため、市場参加者の多くは通商交渉の妥結可能性を高いとみていたと考えられますが、合意のタイミングはサプライズといえます。
海外投資家のインド株投資回復がルピーの反発につながる可能性
米国とインドの通商交渉が合意したことで、第一に海外投資家によるインド株への投資回復が、インドルピーの反発につながると期待されます。米国との通商交渉を巡る不透明感などから、海外投資家のインド株投資は盛り上がりに欠けていましたが、今回の妥結を受けて持ち直す可能性があります。
(注)1.株式資金の流出入額は後方28日移動平均値、2.インド株はCNX二フティ指数。
(出所)ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部作成
インド政府のナゲシュワラン首席経済顧問は9月8日、トランプ米大統領による50%の対印関税が2025年のインド実質GDP(国内総生産)成長率を0.5〜0.6%ポイント押し下げると述べていました。こうした見立てを踏まえると、関税引き下げによる景気下押し圧力の緩和期待も、海外投資家のインド株投資を促すと見られます。加えて、米国の高関税はインドの繊維・衣料品、宝石・宝飾品などの米国向け輸出に打撃となってきましたが、今回の合意により影響の緩和が想定されます。
貿易収支改善もルピーの増価につながると予想される
第二に貿易収支の改善もインドルピーの増価につながると予想されます。インドの米国向け財輸出(2024年、GDP比2.1%)は、新興国平均(同6.1%)に比べて高いわけではありません。ただ、米国の高関税に伴う米国向け輸出の不振は、インドの貿易収支に一定の悪影響を与えてきました。このため、関税引き下げは貿易収支の改善に寄与すると見込まれます。また、財政・金融政策の緩和ペースの減速も、輸入の伸び抑制を通じて貿易収支の改善につながる可能性があります。
2月1日に公表された2026年度予算案(2026年4月〜2027年3月)では、2026年度の財政収支赤字はGDP比-4.3%と、2025年度の同-4.4%から小幅に縮小する見通しです。インド準備銀行(RBI)の利下げ局面も終盤に差し掛かっています。野村證券は、次回2月6日の金融政策決定会合でRBIが政策金利を5.25%に据え置き、4月会合で0.25%の利下げを実施した後、2027年末まで政策金利を据え置くと予想しています。
今後のインドルピー相場見通し
今後のインドルピーは短期的には対米ドルで持ち直すと見込まれます。海外投資家のインド株投資の回復や貿易収支の改善が、インドルピーの追い風となるでしょう。今回の通商交渉合意によって米国との関係改善が進めば、直接投資の流入も相場の支えになると見込まれます。
(注)2026年2月2日終値時点。
(出所)ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部作成
ただし、長期的にはインド準備銀行による外貨準備積み増しの可能性、インドによる米国製品の5,000億米ドルの購入による貿易収支悪化などが引き続きルピーの減価につながるリスクに注意したいです。
- 野村證券市場戦略リサーチ部 外国為替アナリスト/シニアエコノミスト
春井 真也 - 新興国(インド、ブラジル、ロシア、ラテンアメリカ、ASEAN、トルコ、南アフリカ、東欧)のマクロ経済、為替分析を担当。景気、金融政策といったファンダメンタルズの分析に加え、地域横断的なアプローチを重視。2024年10月から政策研究大学院大学の政策研究院リサーチ・フェロー。2023年3月まではユーロ圏や英国のマクロ経済、為替分析を担当。2015年8月から2019年4月までロンドン駐在(欧州担当エコノミスト)。2004年3月一橋大学商学部卒(国際金融専攻)、2005年3月一橋大学大学院商学研究科経営学修士取得(国際金融専攻)。
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