2026.07.28 NEW
物価高・円安対策で日銀利上げを認めるかが市場の焦点に 政権の方針転換が起きれば、金利カーブは大幅ベア・フラット化へ 野村證券・宍戸知暁
撮影/タナカヨシトモ(人物)
高市早苗政権の金融・財政政策に対する姿勢を巡り、2026年7月初旬に円安・債券安が起きました。その後、7月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」では、文言が修正されるなど、政府の市場配慮をうかがわせる動きもみられます。こうした変化は、金利や為替市場にどのような影響を与えるでしょうか。本記事では、金利動向や今後の注目点について、野村證券シニア金利ストラテジストの宍戸知暁が解説します。
中東発のインフレ・リスクと金利上昇圧力は米・イラン合意前よりも悪化
ホルムズ海峡の通行正常化がとん挫したうえ、紅海の出口の通行も困難化する可能性が高まるなど、原油・化学製品の供給不足のリスクは米・イランの「覚書」合意前と比較しても大きくなっているように見受けられます。イラン側がホルムズ海峡の実効支配を確立しようとしているため、トランプ米大統領が「TACO(Trump Always Chickens Out:トランプ大統領はいつも怖気づいて引き下がる)」ればすべてが丸く収まるという単純な構図ではなくなりつつある点を投資家は念頭に置くべきでしょう。石油製品や一部の化学製品の在庫の取り崩しが世界的に進んだことも踏まえれば、中東からの供給減少・途絶による国内外のインフレ高進のリスクは3~5月よりも大きいと評価すべきではないでしょうか。
いずれにせよ、原油価格の急低下によって本邦におけるインフレ圧力と金利上昇圧力が早期に低下するシナリオはほぼ消滅したとみています。原油価格の上昇は直接的に国内のインフレ圧力を高めるうえ、各国中銀の利上げ姿勢を強めるといった経路を通じて円安圧力も強めるでしょう。
為替介入再発動の際に、日銀利上げをあくまでも円安対策手段から除外し続けるのかに再度注目が集まろう
4月末から5月初めにかけて本邦当局が実施した為替介入は、米ドル円を押し下げる効果は限定的だったものの、その後の円安進行スピードを遅くすることには相応に寄与したように思われます。しかし、米ドル円が高値を更新する中でも為替介入を見送ってきたため、介入警戒による米ドル円抑制効果は足元で失われつつあるようにみえます。一方的な円安を許容するという政策転換がない限り、再度の実弾介入は時間の問題となりつつあるでしょう。
次の為替介入を実施する際に、高市政権が、日銀の利上げを円安対策の一環として位置付けるという選択肢をあくまで排除し続けるのかが市場で焦点として再浮上するでしょう。外貨準備が続く限り、実弾介入のみで円安を食い止めるという道を仮に選ぶならば、円金利にはスティープ化(利回り曲線の傾斜が急勾配化)圧力がかかり続けるでしょう。もっとも、その場合は、後述するように、金利の方も実弾介入的な手段やそれを口頭で示唆することによって上昇を食い止めるという対応になりがちと考えられます。そのため、実際の金利上昇幅は小さくなるか、場合によっては向こう1年程度、現状の金利水準・カーブ形状からほとんど動かないということも考えられるでしょう。
(出所)Bloombergより、野村證券市場戦略リサーチ部作成
今後も政府からは長期金利の上昇を抑制するような政策方針が発表される可能性
片山さつき財務相は、7月10日から14日にかけて、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の基本ポートフォリオの見直しも除外せずに、年金基金などに日本の金融資産にさらに投資するよう促す方針を表明しました。また、NISA(少額投資非課税制度)や個人向け国債等の仕組みを使って、個人の国債保有を促進する方針も強調しました。
GPIFの基本ポートフォリオの見直しについては、現段階では金利上昇を止めるための口先介入の色彩が強いように見受けられます。実際に見直しが行われるまでには、公式・非公式にいくつもの段階(手続き)を経る必要があるでしょう。しかし、口先介入的ではあっても、片山大臣の発言には金利を押し下げる十分な効果がありました。今後も、10年金利が節目の3%に近づけば、財務相や首相から金利上昇を抑制するような各種政策の採用方針が発表される可能性は高く、そうなれば、アナウンスメント効果によって金利上昇は止まる可能性が高いと筆者はみています。
日銀利上げの本格加速の可否は9月会合以降のテーマとなる見込み
7月会合の観測報道で日銀が半年に一回のペースよりも速い利上げも検討していると報じられましたが、半年に1回(4会合ごと)の利上げを、3会合ごとにペースアップする程度では円安圧力とインフレ高進のリスクを十分に押し下げることはできないとみています。こういった小幅な軌道修正ではなく、円安圧力ないしインフレ高進のリスクが十分に低下するまで、必要なだけの利上げを必要なペースで行うという、根本的な金融政策姿勢の転換の可否が議論されるべき時期に差し掛かっていると考えます。
為替介入の発動が7月のFOMC(米連邦公開市場委員会)会合と日銀政策決定会合の後になると想定するならば、高市政権が日銀利上げを円安・物価高対策の選択肢から外し続けるのか否かが改めて市場の焦点となるのは、7月の日銀会合ではなく、9月の会合となるでしょう。
仮に、円安圧力とインフレ高進リスクを退けるのに必要なだけの利上げを日銀に対して求めていく、少なくともそのような利上げを許容するという、政権の方針の大転換が起これば、円金利は大きくベア・フラット化(短い年限の債券利回り上昇を伴うイールドカーブの平たん化)することが見込まれ、10年金利3%は単なる通過点となる可能性が高いです。
- 野村證券 市場戦略リサーチ部 シニア金利ストラテジスト
宍戸 知暁 - 2000年野村総合研究所入社。2003年からニューヨークの野村総研アメリカおよび米国野村證券で米国マクロ経済の分析に従事。2006年からマクロ経済分析を基礎とした米国債券市場の分析・予測を担当し、その後は米株式市場の分析およびマルチアセット・ストラテジーを担当。2022年から2年間、財務省理財局国債業務課で市場分析官として勤務し、海外市場および円金利市場の分析に従事した。2023年6月から円金利ストラテジー担当。 ファンダメンタルズ分析および中銀ウォッチを基本に、投資家の売買動向を含む市場需給見込みも加味した予測作成およびストラテジー構築を心掛けている。
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