2026.09.08 NEW
米国「雇用統計」の見方 中長期的な米金融政策との関連で注目される指標 野村證券・竹綱宏行
撮影/タナカヨシトモ(人物)
世界最大の経済大国である米国においては、世界中の市場関係者が注目するさまざまな経済指標が発表されています。数値の内容や背景を読み解くことで、市場動向の把握や先行き見通しに役立てることができるかもしれません。代表的な米経済指標について、野村證券投資情報部シニア・ストラテジストの竹綱宏行が、米国市場の状況に即して詳しく解説していきます。第2回は「雇用統計」です。
「失業率」、「非農業部門雇用者数」などが米国の労働市場の状況を示す
米国の労働市場の状況は、GDP(国内総生産)の3分の2超を占める個人消費やローンの返済などを通じた住宅市場などへの影響が大きいと考えられるため、世界の市場関係者が注視しています。
米雇用統計は、米国の雇用情勢を調べた経済指標で、米国労働省労働統計局が通常、毎月第1金曜日に前月分の調査結果について発表しています。給与台帳を基にした事業所調査(非農業部門雇用者数、平均時給、週労働時間などの指標)と、世帯への聞き取り調査を基にした家計調査(失業率、労働参加率などの指標)があります。このうち、失業率と非農業部門雇用者数の増減は特に注目され、FRB(米連邦準備理事会)の金融政策にも影響を及ぼす可能性があります。
米国株式市場関係者は金融政策との関係性で雇用統計を重視
株価は景気の先行指標です。雇用統計では、週平均労働時間(特に製造業)が先行指標である一方で、非農業部門雇用者数は一致指標、失業率や平均時給は遅行指標とみられています。このため、失業率などから短期的な株価の動きを類推するのは一見難しそうです。株式投資の観点では、雇用統計は中長期的な金融政策との関連で注目されることが多いと考えています。
米国の中央銀行にあたるFRBは、「最大雇用、物価の安定、適度な長期金利」を金融政策の目標にしています。このため、非農業部門雇用者数の増加や、失業率の低下、平均時給の上昇などは、金融政策をより引き締め的な方向に変更する要素となります。逆に、労働市場の軟化は金融政策をより緩和的な方向に変化させる要素と考えられます。
8月米雇用統計は、米労働市場の健全性を示唆
2026年9月4日に発表された8月雇用統計では、非農業部門雇用者数は前月比16.2万人増となり、市場予想の同5.5万人増を上回りました。7月に減少していたレジャー・接客業や地方政府教育サービスの雇用回復が目立ちました。また、7月分は前月比2.3万人減少から同2.1万人増へと4.4万人分上方修正されました。6月分は前回発表の同2.0万人増から1.1万人分上方修正されました。
失業率は、4.1%で市場予想と一致し、前月から横ばいでした。週平均労働時間は前月から0.1時間増加しました。平均時給は、前年比+3.1%と、2021年5月以来の低水準となりました。
雇用統計全体としては、雇用者数が増加した一方で、賃金の伸びが鈍化しているため、野村證券では米労働市場は健全性を維持している一方で、過熱を示す兆候はほとんどないとみています。
| 項目 | 実績 | 市場予想 | 前月 |
|---|---|---|---|
| 非農業部門雇用者数(前月比、万人) | +16.2 | +5.5 | +2.1 |
| 同過去2ヶ月分の修正(万人) | +5.5 | ||
| 失業率 | 4.1% | 4.1% | 4.1% |
| 週平均労働時間(全従業員、時間) | 34.4 | 34.3 | 34.3 |
| 平均時給(前年比) | +3.1% | +3.1% | +3.2% |
| 労働参加率 | 61.6% | 61.5% | 61.4% |
(注)予想はブルームバーグによる市場予想平均。
(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成
市場は利上げをやや織り込むも、影響は限定的
米国市場では、雇用統計の発表直後に、米2年国債利回りは上昇し、S&P500先物は下落しました。その後、両者ともに変動幅をやや縮小させました。堅調な雇用者数の増加がFRBによる早期利上げの可能性を高めたと考える市場参加者がいた一方で、前述のように賃金上昇率が低下している点に注目した参加者もいたと推察されます。
(注)データは1分足。米雇用統計の発表は8:30。
(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成
過去に米国経済が過熱し、失業率が低下した際に、利上げが行われたことが背景にあると考えられます。
(注)データは月次で、直近値は2026年8月。見やすさを優先して縦軸の幅を制限している。2025年10月の米失業率は、米国政府機関閉鎖の影響により公表なし。米政策金利目標は上限。
(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成
雇用の状況から業種や個別企業の動向を考察
雇用統計は、短期的な株価予測よりも、業種別の現状把握に有用だと考えています。非農業部門雇用者数の前月比の内訳からは、赤系色の棒グラフで示されたレジャー・宿泊、教育・ヘルスサービス、専門・事業サービス、また、灰色で示された建設、製造などが雇用者の増加にプラスに寄与したことが分かります。
2023年から2024年にかけては、コロナ禍の最中に解雇された医療関係者やレジャー・宿泊の関係者などの復職が雇用者の増加を支えました。2025年には政府閉鎖や関税政策の影響などで雇用者数の増加ペースは低下しましたが、2026年に入り、増加ペースはやや回復しています。
(注)データは月次で、直近値は2026年8月。
(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成
業種別雇用は短期的な景気動向だけでなく、産業構造の長期的な変化も映します。その一例として、通信業を取り上げます。
米通信業種の雇用者数は、1990年代半ばから2000年にかけては携帯電話サービスやインターネットサービス、有線TVなどの新しい産業への移行で増加したのち、産業の効率化などにより減少したと考えられ、業界の中長期的な動向を反映しているとみられます。
S&P500電気通信サービス株指数(S&P500コミュニケーション・サービス指数を構成する指数のひとつで、現在の構成銘柄は、AT&T、ベライゾン・コミュニケーションズ、TモバイルUS、コムキャスト)は、1990年1月から2026年8月の間に約8割上昇しました。一方、同期間にS&P500は23.4倍になっており、電気通信サービス株指数は大幅にアンダーパフォームしたことになります。AT&Tとベライゾン・コミュニケーションズは現時点では、いずれもS&P500低ボラティリティ・高配当指数とS&P500バリュー指数に組み入れられていることから、株式市場では、成長性は高くないものの、財務的に安定し、利益率の高い銘柄として認識されているとみられます。株価は成長期待、競争環境、設備投資、財務、配当など複数の要因で決まりますが、その背景を探る上で産業のトレンドの把握は有用と考えられます。
(注)データは月次で、直近値は2026年8月。
(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成
現在では、AIが人間の業務を代替する可能性が報道などで大きく取り上げられています。また、AI導入に伴う費用の上昇を、人件費の削減でカバーしているとの見方もあります。雇用は、株価とは直接的には関係しないものの、産業の動向をみるうえで注目されると考えています。
- 野村證券投資情報部 シニア・ストラテジスト
竹綱 宏行 - 1998年野村證券入社。2005年から2015年までニューヨーク、2016年までロンドン駐在(デリバティブモデル開発、デリバティブディーリング、機関投資家営業などに従事)。2019年から2021年に国際金融情報センターに出向(G7マクロ経済とESG金融の分析に従事)。これらの経験を活かし、グローバルな景気動向や政策分析、産業分析を踏まえ、米国株を中心とした投資戦略に関する情報を発信している。CFA協会認定証券アナリスト(米国証券アナリスト)。
※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。
- 手数料等およびリスクについて
-
当社で取扱う商品等へのご投資には、各商品等に所定の手数料等(国内株式取引の場合は約定代金に対して最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料、投資信託の場合は銘柄ごとに設定された購入時手数料(換金時手数料)および運用管理費用(信託報酬)等の諸経費、年金保険・終身保険・養老保険の場合は商品ごとに設定された契約時・運用期間中にご負担いただく費用および一定期間内の解約時の解約控除、等)をご負担いただく場合があります。また、各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。信用取引、先物・オプション取引をご利用いただく場合は、所定の委託保証金または委託証拠金をいただきます。信用取引、先物・オプション取引には元本を超える損失が生じるおそれがあります。証券保管振替機構を通じて他の証券会社等へ株式等を移管する場合には、数量に応じて、移管する銘柄ごとに11,000円(税込み)を上限額として移管手数料をいただきます。有価証券や金銭のお預かりについては、料金をいただきません。商品ごとに手数料等およびリスクは異なりますので、当該商品等の契約締結前交付書面、上場有価証券等書面、目論見書、等をよくお読みください。
- 株式の手数料等およびリスクについて
-
国内株式(国内REIT、国内ETF、国内ETN、国内インフラファンドを含む)の売買取引には、約定代金に対し最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は2,860円(税込み))の売買手数料をいただきます。国内株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。国内株式は株価の変動により損失が生じるおそれがあります。国内REITは運用する不動産の価格や収益力の変動により損失が生じるおそれがあります。国内ETFおよび国内ETNは連動する指数等の変動により損失が生じるおそれがあります。国内インフラファンドは運用するインフラ資産等の価格や収益力の変動により損失が生じるおそれがあります。
外国株式(外国ETF、外国預託証券を含む)の売買取引には、売買金額(現地約定金額に現地手数料と税金等を買いの場合には加え、売りの場合には差し引いた額)に対し最大1.045%(税込み)(売買代金が75万円以下の場合は最大7,810円(税込み))の国内売買手数料をいただきます。外国の金融商品市場での現地手数料や税金等は国や地域により異なります。外国株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。外国株式は株価の変動および為替相場の変動等により損失が生じるおそれがあります。
詳しくは、契約締結前交付書面や上場有価証券等書面、目論見書、等をよくお読みください。









