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2026.05.26 NEW

長期金利の上昇は本当に危険なのか? 冷静に判断すればリスクは乏しい 野村證券・美和卓

長期金利の上昇は本当に危険なのか? 冷静に判断すればリスクは乏しい 野村證券・美和卓のイメージ

撮影/タナカヨシトモ(人物)

日本の長期金利が高止まりしています。長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りは2026年5月18日に1996年10月以来の水準である2.8%に上昇(価格は下落)して以降、同水準近辺での推移が続いています。国債の金利動向は住宅ローン金利など私たちの身近な生活にも影響を与えるだけに、このまま上昇が続くのか気になる人も多いでしょう。長期金利の先行きや個人投資家が取れる対策について、野村證券エグゼクティブ・エコノミストの美和卓が詳しく解説します。

長期金利の上昇は本当に危険なのか? 冷静に判断すればリスクは乏しい 野村證券・美和卓のイメージ

長期金利はなぜ上昇したのか

日本の長期金利が一時、約30年ぶりの水準まで上昇しました。なぜでしょうか。

長期金利が上昇する理由は、2月下旬に起きたイラン戦争の前後で少し異なっています。イラン戦争前は、食品にしぼり消費税を2年間ゼロにする方針を示すなど、高市早苗首相の拡張的な財政政策で財政悪化が進むという債券市場の警戒感が、長期金利の主な上昇要因となりました。人手不足や賃上げ機運の高まりも消費者のインフレ懸念を高めるなど、日本独自の要因で長期金利が上昇していました。

イラン戦争後は、財政危機とインフレ懸念がグローバルに広がり、世界的な金利上昇に連動する形で日本の長期金利も一段と上昇しました。ホルムズ海峡の封鎖による原油価格の上昇と、原油を使った素材の供給不足への懸念が世界的にモノの価格を押し上げ、足元ではFRB(米連邦準備理事会)への利下げ期待も低下しています。野村證券は5月22日、FRBの2026年の利下げ回数をゼロと、従来予想(9月と12月にそれぞれ0.25%ずつの利下げ)を修正しました。

また、戦争が長引けば、原油価格の高止まりの影響を緩和すべく、補正予算の編成のための追加的な財政支出も必要になるでしょう。実際、高市早苗首相は5月25日に、3兆円強の規模の補正予算編成を表明しました。さらに、ウクライナ戦争やイラン戦争を経て、世界中で国防への関心も高まっています。今すぐに必要な戦費の調達に加え、米国は欧州各国や日本に対し、これからの備えとして防衛費の増額を求めています。こうした要因が絡み合い、長期金利の上昇を促しているのだと考えています。

長期金利上昇を演じたのは海外投資家

どんな投資家が国債を売っているのでしょうか。

日本の投資家ではなく海外投資家、中でも短期売買を繰り返すような投資主体が中心ではないでしょうか。財務省の「対外及び対内証券売買契約等の状況(週次・指定報告機関ベース)」によると、海外投資家(非居住者)は5月10~16日の週に中長期債を1兆334億円売り越していました。売越額は3月22~28日の週(2兆6,461億円)以来の大きさとなりました。

日本銀行は金融政策の正常化に向けて、これまで続けてきた国債の買入額を段階的に減らしています。加えて、金利上昇で含み損を抱えた国内の金融機関も、積極的に国債を積み増せる状況にはありません。国内勢による買いが細る中で海外投資家の存在感が相対的に高まり、「日本の財政不安」や「インフレに対して日銀の金融政策が後手に回る(ビハインド・ザ・カーブ)懸念」といったストーリーを描いて国債を売り、長期金利の上昇につながっているのではないでしょうか。

つまり、国債を買ったら満期まで保有することが多い日銀や国内の金融機関が債券市場の中心であれば長期金利の変動は大きくなりにくいですが、このところは短期的に売買するような海外投資家が債券市場で影響力を強めており、金利の上昇幅が大きくなった側面もあるということです。

長期金利の上昇は日本の財政危機を意識する状況にはない

長期金利の上昇は日本の経済・財政に悪影響を及ぼすのでしょうか。

日本の財政の持続性が問われるほど長期金利が上昇しているかと問われれば、そのような状況ではありません。日本の債務残高の多さを理由に「金利上昇が財政破綻を招く」と声高に叫ぶ人もいるかもしれません。しかし政府は、予算案をつくる段階で国債(国の借金)の利払いにかかる費用をかなり慎重に見積もっています。

2026年度の予算では、利払い費を計算する際のベースとなる想定金利(10年物国債利回り)を3%と、足元の水準よりも高く設定しました。また、過去の低金利時代に発行した国債の利払いも多いため、実際の利払い費は政府の想定よりも少なくなると考えられます。つまり、財政危機を意識せざるを得ないような状況にはないのです。

とはいえ、インフレ高進によるリスクはぬぐえません。

原油高が続けばインフレに拍車がかかり、長期金利の一段の上昇などを通じて日本の経済・財政に悪影響を与える可能性も、もちろんあります。モノの値段が上がり続ければ「安いうちに買おう」という消費者心理が働きインフレを加速させる要因になるため、消費者の動向には注意が必要です。

しかし、そうならない可能性もあります。値段が上がり続ければ、どこかの局面で消費者が「もう買えない」と財布のひもを締め始め、インフレ圧力を低下させる可能性もあります。日本はどちらかと言えば後者です。総務省の3月の家計調査報告では、2人以上の世帯の消費支出(名目)は前年同月比で2ヶ月連続の減少となっており、そうした兆候が見て取れます。

日銀の利上げの有無が焦点に

インフレの加速や長期金利の上昇を抑制するためには、日銀の金融政策も重要です。

インフレ高進による日本経済への悪影響を未然に防ぐために、日銀には利上げが求められます。「ビハインド・ザ・カーブ」への警戒感が長期金利の上昇の一因であり、日銀が利上げすることで債券市場に安心感が広がり、長期金利も低下するかもしれません。野村證券では、2026年6月以降、日銀が半年に1回のペースで0.25%ずつ利上げをし、政策金利は1.5%まで上昇すると予想しています。

ただし、日銀が実際にどう対応するかは、まだ不透明です。利上げを見送った4月の金融政策決定会合の出席者による「主な意見」を読むと、利上げに前向きな審議委員の意見が目立った一方、「強い経済成長と安定的な物価上昇の両立」を求めるなど、利上げに消極的な姿勢がうかがえる政府関係者の声もありました。4月に就任した審議委員と6月就任予定の審議委員はいずれも金融緩和に前向きな「リフレ派」とされています。

利上げを求める市場の声と利上げに消極的な政府サイドの声を受けて日銀がどう金融政策をかじ取りしていくのか、6月に控える金融政策決定会合に注目しています。

投資妙味を感じれば国債投資は選択肢のひとつ

個人投資家はこの難しい局面でどう投資先を選べばよいでしょうか。

日本の長期金利は確かに上昇しています。しかし、日本の財政破綻などを口実にした海外投資家の国債売りが中心であると考えられ、客観的に見て国の財政の急速な悪化を示すデータはありません。いまや長期金利は、主要な株価指数であるTOPIX(東証株価指数)の今年度の平均配当利回り予想である2.15%(ブルームバーグ、2026年5月26日時点)を上回っています。長期的な資産運用を目的にするのであれば、金利上昇で投資妙味が高まっている国債は選択肢のひとつになるのではないでしょうか。

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野村證券 金融経済研究所 エグゼクティブ・エコノミスト
美和 卓
1990年野村総合研究所入社。東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。2004年野村證券に転籍。2024年4月より現職。国内・海外のプロの投資家に対して、日本と世界の経済に関する分析、見通しを提供する一方、一般向けに経済、金融の仕組みを分かりやすく解説。著書に『金利「超」入門』(日本経済新聞出版社)など。

※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

 
   
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